テクの図鑑
vol.13 伝送帯域を6GHzにまで拡大 HDMI用コモンモードフィルタ
伝送帯域を6GHzにまで拡大 HDMI用コモンモードフィルタ
2003年12月から地上波デジタルテレビ放送がスタートした。デジタルテレビにDVDレコーダなどのデジタルAV機器を相互接続して、ビデオ信号をデジタル伝送するインタフェース規格がHDMI。高速のHDMI信号を歪みなく伝送するには、高性能コモンモードフィルタが不可欠だ。
高速インタフェースはノイズ源
HDMI(高品位マルチメディア・インタフェース)は、パソコンモニタを中心に利用されていたDVI(デジタル・ビジュアル・インタフェース)と互換性を保ちながら、デジタルAV機器向けに機能を追加させたインタフェース規格である。高解像度のビデオ信号とマルチチャンネルのオーディオ信号を、差動伝送方式によって非圧縮で高品質のまま高速伝送する。信号線の本数もDVIより削減、コネクタもコンパクトになっている。AV機器の接続が苦手という人でも、迷うことなく簡単に取り扱えるようにしているのが特長だ。
デジタル機器の高速伝送化に伴い、インタフェースのノイズ対策の重要性が増してきている。ケーブルなどがアンテナとなってノイズが放射され、周辺の電子機器に悪影響をおよぼすからだ。これはコモンモードノイズが原因となっている。デジタル機器を結ぶケーブルの信号線に、ツイストペア線が用いられるのもコモンモードノイズを低減するための工夫である。しかし、高品位の映像・オーディオ信号を高速伝送するには、より高度なノイズ対策が求められる。そこで、TDKが開発したのがHDMI用コモンモードフィルタACM2012Hである。
ミクロンオーダーの自動巻線技術
差動伝送方式は従来方式よりも高速な信号伝送を可能にする。しかし、現実には不平衡成分(信号の往路と復路が対等でない)が存在して、2つの信号波形は完全な対称にはならず、スキューと呼ばれる信号波形のズレを生む。スキューは信号線路のわずかなバラツキなどでも発生する。信号波形の対称性が多少崩れたくらいでは伝送エラーは起こらない場合もあるが、これがコモンモードノイズを発生させてしまう。そこで高速デジタルインタフェースにおいてはコモンモードフィルタが活躍することになる。
パソコンと周辺機器を接続するUSBにおいても差動伝送方式が採用されている。しかし、HDMIの最大データ転送スピードは、USB2.0の3倍以上にも及ぶため、HDMI用コモンモードフィルタには、伝送帯域を高周波側にさらに拡大した周波数特性が必要となる。
蓄積したフィルタ設計技術や数々の先進技術を投入、従来の伝送帯域の上限だった1.6GHzを、いっきに6GHzにまで拡大したのが、TDKのHDMI用コモンモードフィルタACM2012Hである。とりわけ極小コアの導線間隔をミクロンオーダーで制御する精密自動巻線技術やターミネーション(端末処理)技術は、他社の追随を許さない。
TDKの新たなビジネスモデル
HDMIは2003年に規格が標準化されたばかりの高速デジタルインタフェースだ。この標準化団体に、TDKはEMC部品メーカーとして最初にAdoptersとして登録された。EMC対策技術やTDKのコアテクノロジーである評価・シミュレーション技術は、とどまることなく進化するデジタルネットワーク機器に不可欠なのである。
HDMI用コモンモードフィルタACM2012Hは、セットメーカー、ICメーカー、コネクタメーカーと共同して、HDMIの普及促進や最適回路構成などを検討する中から開発された新製品である。これはトータルEMCソリューションを目指すTDKの新たなビジネスモデルとしても大いに期待される。部品メーカーはこれまでのように単に要求されるスペックの部品を提供するだけにとどまらず、次世代のデジタルネットワーク機器開発の指針となるようなず、次世代のデジタルネットワーク機器開発の指針となるような提案も、セットメーカーやICメーカーなどに対してなしうるのだ。デジタルインタフェースの高速化は、あらゆるデジタル機器に広がっている。今後は製品開発段階からの提案(コンセプトイン)、設計段階からの提案(デザインイン)はもちろん、近未来ニーズを先取りした提案(フューチャーイン)も重要になっていくだろう。
TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです