テクの図鑑

vol.11 多様なEMC試験に対応 電波暗室

多様なEMC試験に対応 電波暗室

 

モバイル機器から、ISM(工業・科学・医療)関連の大型装置まで、エレクトロニクスの発展とともにEMC用電波暗室やアンテナ評価を中心とするマイクロ波・ミリ波用電波暗室の需要は急増している。今回はEMC用電波暗室に焦点をあてる。

電子機器に電磁波対策は不可欠

CPUの高速化(高周波化)、回路の高密度集積化などにより、電子機器はごく微弱な不要電磁波にも影響を受けやすくなっている。そこで、あらゆる電子機器について、外部に不要電磁波を出さないエミッション(放射)対策と、外部および機器自身からの不要電磁波の影響を受けないイミュニティ(耐性)対策の双方が、強く求められるようになった。これがEMC(電磁的両立性)である。  

電子機器のEMC試験を実施する施設が電波暗室である。電磁波の測定には、電磁環境がクリーンな野外のオープンサイトにおいて試験するのが基本とされている。なぜなら、私たちの生活空間には、不要電磁波が氾濫しており、正確なEMC試験ができないからである。しかし実際には、野外では周囲の電磁ノイズや天候の影響を受けやすく、また強電界を加えるイミュニティ試験については電波法の規制があるので実施できない。そこで、いつでも安定したEMC試験ができる電波暗室のニーズが拡大している。  

電波暗室は室内全体を金属のシールドパネルで囲い、さらに壁面・天井に電波吸収体をくまなく貼り巡らした空間である。マイクロホンやスピーカなどの音響機器の性能測定には、壁や天井に吸音材を貼った無響室という施設が利用される。電波暗室とはわかりやすくいえば電波についての無響室であり、吸収する電波の周波数帯に応じてさまざまな材料が使われる。

複数の電波吸収材で広帯域を実現

TDKのフェライトタイルは、テレビ電波のゴースト対策として、東京都庁などの高層ビル壁面に採用されている。フェライトタイルがすぐれた電波吸収体となるのは、磁気損失がMHz帯できわめて高いためである。ただし、フェライトタイルが吸収できる電磁波は約30〜500MHzで、それ以上の周波数に対してはカーボン、グラファイトなどの導電性材料が主に利用される。吸収性能に広帯域が求められるEMC用電波暗室では、これらを組み合わせた複合型電波吸収体が主流となっている。  

一般に、高周波領域に採用する電波吸収体は、ピラミッド形あるいはそれに類した形状をもたせている。電磁波は波長が短くなるほど、光の性質に近づき、物体平面で反射してしまう。ピラミッド形にするのは、反射を防ぐための工夫である。飛来した電磁波をまずピラミッドの頂点で迎えて反射を防ぎ、徐々に基材内部に迎え入れて損失を大きくしながら熱に変換していくのである。この基本原理に基づき、TDKではユニークな構造を持つユニット型吸収体(ピラミッド形の発展形)とフェライトタイルを組み合わせた複合型吸収体をいち早く製品化している。

有効空間を大幅拡大する電波吸収体

カーボンやグラファイトなどの誘電損失材を用いた電波吸収体は、従来は長さ45〜250cmのものが使用されてきた。こうした電波吸収体を壁や天井に貼り巡らせると、長いものほど利用できる有効空間は狭くなってくる。そこでTDKはフェライトならではの磁気損失特性に着目、長さがわずか6cmという電波吸収体を新開発した。これは誘電損失体を用いた従来タイプの1/8以下の長さであり、有効空間の大幅拡大を達成することになった。また、フェライトを無機材料に混合した不燃材料なので、大電力照射による発熱に対しても安全性が保たれる。

TDKの電波暗室事業は1969年の開始以来、急カーブで成長を遂げ、累積建設数は現在までに700件以上、2010年には1000件の大台を超えると予測されている。これからは電波暗室そのものの性能・信頼性はもちろん、使い勝手やサポート体制の向上なども重要になる。電波暗室のリーディングカンパニーであるTDKでは、音波試験などにも対応できる多機能性、試験体の搬入・搬出に便利なバリアフリーの床やインサイドスライドドア、測定技術者の疲労軽減のための明るくクリーンな室内デザイン・環境の導入など、ますます多様化・高度化するニーズに先進技術を総結集して対応している。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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