テクの図鑑

vol.4 重くても高速で動かせる超磁歪材料

重くても高速で動かせる超磁歪材料

 

磁気をあたえると、形状が変化する磁歪現象。その変化量が従来の1000倍と、並外れているのだ。 それが、“超”磁歪たる所以である。TDKの超磁歪材料が、いよいよ量産を開始した。 アクチュエータとして、センサとして、新たなアプリケーションを実現する強力新製品である。

※本記事は、掲載時点の情報に基づくものであり、現在、本製品はTDKでは取り扱っておりません。

磁気で形状が大変化

磁性体に磁気をあたえると、外形がわずかに変形する。この現象を磁歪(じわい)といい、1847年にフランスのジュールによって発見された。しかし、磁歪による寸法変化は、わずか100万分の1〜10万分の1(1〜10ppm)程度でしかない。長さを100mにしたとき、わずか0.1〜1mmほど伸びるだけだ。ところが近年、変位量が従来の1000倍(1000ppm)以上にもなる材料が開発された。長さ1mでも、数mmの大変位が得られる。このような磁性体を、超磁歪材料と称している。残念ながらこれまで、新素材として有望視されながらも、超磁歪材料の応用分野は広がっていない。高い製造コストが、壁となっていたのである。  

TDKでは長年にわたって、基礎材料研究所が超磁歪材料を研究開発してきた。それがついに、コスト問題に解決の目処をつけたのだ。現在、いろいろな業界から着目されている。また磁歪材料では、外形を変化させると、透磁率(磁気の通しやすさ)が変化する。超磁歪材料では、この効果も格段に大きいので、高感度なセンサへの応用が期待されている。さらに、TDKの超磁歪材料は、キュリー温度(磁気効果がたもたれる温度の限界)が高く、380℃まで超磁歪効果を維持する。

低コスト量産化に成功

低コストで量産化できた理由は、TDKが得意とする粉末冶金法にある。従来の超磁歪材料の製造方法は、単結晶引き上げ法だった。超磁歪材料のかたまりを、時間をかけながら引っ張って成形していく。だがこの方法では、時間もコストも非常に要した。これに対して、TDKでは、マグネットの製造と同様に、原料を砕いて成形してから焼成するのである。磁歪の大きいランタノイド元素を主材料に、キュリー温度の高い鉄族元素等を添加。この材料の一部に水素を吸蔵させ、水素雰囲気中で焼成。その結果、結晶密度が高く、卓越した超磁歪特性を低コストで実現できた。粉末冶金法の利点は、さまざまな形状がつくれることにもある。  

大出力も、特筆すべきである。発生応力が、400kgf/cm2。1cm四方の面積で、400kgもの重量を動かすことができるのだ。このほかにも特長は、枚挙にいとまがない。1マイクロ秒(100万分の1秒)の高速で寸法が変化する(高速応答)。数ボルトの低電圧で駆動できる(低電圧駆動)。磁気で駆動するため、リード線がいらない(非接触)等々。これらは、新たなアプリケーション開発に拍車をかける。

スピーカから新幹線まで

電動アシスト自転車では、ペダルのトルク圧センサに採用されている。ペダルの踏む力に応じて変化する超磁歪素子の透磁率を、コイルを介して電気信号として取りだし、モータの回転を高精度に制御。なめらかなアシスト走行を可能にしている。新たなアプリケーションも具体化している。100kHzまで伸びる周波数特性を活かして、平面の板を超磁歪素子で振動させるボードスピーカ。頭部にあてるだけで、音が聴ける骨伝導方式の補聴器。商品化も近そうだ。

自動車のインジェクタ(燃料噴射装置)に使用すると、バルブを10倍の速さで動かして噴射量を調整できる。省エネ、環境に有効である。新幹線のブレーキへの応用も検討中だ。超磁歪ポンプにより、ブレーキピストンの油圧を4倍速で制御。ブレーキ性能と乗り心地が向上できるという。超磁歪が私たちの暮らしにおよぼす影響力も大きそうだ。

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