テクの図鑑

vol.6 一方向の信号だけを通過させる 4mm角アイソレータ

一方向の信号だけを通過させる 

 

4mm角アイソレータ 分離という意味のアイソレーション。一方向だけの信号を通すのがアイソレータだ。 その役割はいまや、携帯電話の通信品質を向上させるだけではない。 カメラやメモリカードの使用で負担が増す消費電流を、安定化・省電力化するためにも必須となってくる。

長年のノウハウと技術力で小型化

一方通行である信号の通り道に、もしも、逆方向から入ってくる信号があったとしたらどうなるだろうか。それが携帯電話だとすると、たとえば音声にノイズが入ったり、送受信ができなくなったり、ひどい場合には回路が破壊してしまうこともある。電子回路では、部品が信号を反射させて、逆戻りさせてしまうことがたまにある。そのため、逆方向の信号を通過させないように、回路に挿入されるのがアイソレータである。  

通常は送信回路部に使われ、送信電波を減衰させることなくアンテナに送り、アンテナ側から反射して浸入してくる高周波信号を吸収する。TDKでは、800MHz帯用として、4mm角のアイソレータを製品化した。この帯域用としては、業界初の小型タイプである。1995年当時は7mm角。体積比で、7分の1にもなった。あまり知られてはいないが、TDKは基地局用のアイソレータを早くから手がけて、豊富な実績をもっている。こうした技術と経験が、携帯電話の市場でも大きく花を開こうとしているのだ。

専用設計の高性能フェライトを採用

アイソレータがなぜ一方通行なのか。その原理は、フェライトの非可逆性を応用しているからである。マグネットでフェライトをサンドイッチすると、マグネットの磁界の影響により、一方向の信号だけが通過できるようになる。これが非可逆性である。アイソレータには、中心導体が巻かれたフェライト、コンデンサ素子、抵抗素子が内蔵されている。  

フェライト材料には、すぐれた非可逆性をしめすガーネット型(YIG)フェライトが用いられる。一方、コンデンサは、周波数特性を決定するのに重要な役割をする。小型化するポイント、それがこのフェライトとコンデンサにあるのだ。GHz帯を使う携帯電話とくらべると、800MHz帯は低周波になる。周波数が低くなるほど、フェライトとコンデンサはL(インダクタンス)とC(静電容量)を大きくする必要があり、サイズが大きくなる傾向にあるためだ。TDKでは、アイソレータ用に最適設計された専用のフェライトと、トップレベルの誘電特性をもつコンデンサをつくりあげた。これにより4mm角の小型化を実現した。

アンプ回路を安定動作

順方向の信号に対してはロスが小さく、逆方向の信号に対してはロスが大きい。これがアイソレータに要求される特性である。あらためて、構成部品を見てほしい。フェライト、コンデンサ、マグネット。これらの主要素子は、どれもTDKのコアテクノロジーが生かされた製品ばかりである。つまり、アイソレータの主要素子はすべて、設計から開発、製造まで一貫して自社で手がけていることになる。これが他社には決してまねのできない、TDK最大の強みといえる。だからこそ、4mm角の小型化とともに、先進的なローロス化とアイソレーション(分離)特性を両立しているのだ。  

携帯電話を机の上に置いたり、鞄の中に入れたり。それだけでも、アンテナのインピーダンス(電圧と電流の比)は変動する。インピーダンスが変動すれば、アンプの負荷を変動させる。こうしたインピーダンスの変動抑制に、アイソレータは効果的である。アンプの動作が安定すれば、消費電力をおさえることができるのである。また、カメラの内蔵やメモリカードの搭載など、携帯電話は多機能化が進み、使用部品にはいっそうの小型化が要求されるばかりだ。4mm角サイズを実現したTDKアイソレータの活躍の場が広がりそうだ。

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