テクの図鑑

vol.3 温度変化に冷静沈着なフェライト トランス用コア材PC95

温度変化に冷静沈着なフェライト 

トランス用コア材PC95 コイルやトランスのコアをはじめ、マグネットやコンデンサ、磁気テープにも使われている磁性材料フェライト。 TDKが世界で初めて工業化してから60余年。フェライトは電子部品材料の白眉として、いまなお異彩をはなつ。 PC95はコアロスの温度依存性を大幅に低減し、広い温度範囲で最適特性を発揮するトランス用コア材である。

すぐれた磁気特性をもつ電子部品材料

1932年、東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士によってフェライトが発明された。フェライトは酸化鉄に、酸化マンガンや酸化亜鉛、酸化ニッケルなどを混合し、1,000〜1,400℃の高温で焼き固めたものだ。焼き物、すなわち磁器であることから、セラミック電子材料ともよばれる。  

フェライトがなぜ、電子部品の材料に適しているのか。それは、フェライトが、磁石としてすぐれた特性をもっているからである。磁力が強いことはもちろんだが、金属磁性材料にくらべて電気抵抗が極めて大きい(電気を通しにくい)、透磁率が高い(磁気をよく通す)、高い周波数まで利用できるといった特長をそなえている。  

フェライトのもっとも一般的な使われ方が、コイルのコア(磁心)である。コイルに電流を流すと、磁界が発生して磁力線ができる。このとき、銅線をただ巻いただけのコイルよりも、磁性材料にコイルを巻き付けたほうが多くの磁力線が発生する。このようにコアは、コイルの働きを強める性質があるのだ。透磁率が高いフェライトの場合、より多くの磁力線を発生させることができるため、コイルやトランスの性能を効率よく向上できるのである。

温度依存性との闘い

フェライトには、コアロスの温度依存性という、ちょっとやっかいな問題がある。コアに磁界を加えると、磁気エネルギーの一部が熱として放出される。これが損失となって、効率の低下や温度上昇を引き起こすのだ。そのうえ、コアロスは温度によって大きく左右され、ある温度付近でだけ最小となる。しかも、コアの材料によってコアロスが最小となる温度が異なる。コアロスを低減させるためには、ヒステリシスループ面積を小さくすること(ヒステリシス損失の低減)と、電気抵抗を大きくすること(うず電流損失の低減)が重要である。 

専門的な話になるが、数100kHz以下のコアロスの原因には、主として“ヒステリシス損失”と“うず電流損失”がある。フェライトはもともと、電気抵抗が高いため、うず電流が発生しにくい。PC95では、フェライト材料の微量成分のコントロールおよび、焼成温度と焼成雰囲気の厳密管理により、きわめて高密度な焼結体を実現した。この結果、ヒステリシス損失が大幅に低減し、うず電流もさらに低いレベルまで減少。コアロスが低減しただけでなく、結晶磁気異方性定数をコントロールすることにより、広い温度範囲で、フラットなコアロス特性を可能にしたのだ。

広い温度範囲で最適特性

従来のフェライトコア材と、コアロス特性を比較してみよう。グラフを見ていただきたい。たとえばPC45では、コアロスのいちばん低い温度は75℃付近であり、そこを谷底として、コアロスは急上昇する。これに対してPC95は、25〜120℃までコアロス特性が低くほぼフラットに伸びている。すなわち、広い温度範囲でコアロスが小さく、安定した特性が得られるわけである。  

コアロス特性が急カーブを描く従来のフェライトコア材でも、使用条件によっては問題がない。ブラウン管テレビのように、内部にスペースがあり、基板どうしがあまり接近していない状態では、内部の温度は大きく変化しない。したがって、たとえば内部温度が75℃になるなら、そこに使用されるコイルやトランスのコアも、75℃付近でベストの特性が発揮できればよい。ところが、自動車の電装化により使用温度条件が多種多様になったり、液晶テレビのように基板や部品が高密度に搭載されて内部の温度分布がバラついたりすると、コアロスの温度依存性は無視できなくなる。そこでPC95のように、広い温度範囲でコアロスがフラットな材料が求められているのだ。進化しつづけるフェライト。そこには、まだまだ未知なる可能性が秘められているにちがいない。

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