テクの図鑑

vol.2 ノイズの通行を阻止 CAN-BUS用コモンモードフィルタ

ノイズの通行を阻止 CAN-BUS用コモンモードフィルタ

 

自動車の電子化、情報化にともない、電装システムをつなぐワイヤハーネスが増えつづけている。 重くなる一方の車両重量。これを解消すために、車載LAN規格であるCANの採用が広がっている。 コモンモードフィルタは、人命にもかかわるCANの正常な動作に欠かせないノイズ対策部品である。

ノイズはストップ、必要な信号はゴー

電子機器に誤動作を起こすことがあるノイズ。ケーブルや回路基板を伝わってくる伝導ノイズと、電波のように空中を飛んでくる放射ノイズの2種類がある。これらのノイズを発生させないようにする、あるいは、ノイズの影響を受けないようにするのがノイズ対策部品だ。今回のコモンモードフィルタは、コモンモードノイズとよばれる伝導ノイズを除去する製品である。  

電流には2つのモードがある。ディファレンシャルモードとコモンモードだ。一般に、必要な信号は、ディファレンシャルモードで流れてくる。たとえば、ある信号の周波数帯域に、コモンモードノイズが混じっていたとする。このとき、必要な信号(ディファレンシャルモード)には影響をあたえず、コモンモードノイズだけを除去してくれるのがコモンモードノイズフィルタである。その構造は、ひとつのフェライトコアに、2つのコイルが巻かれている。実は、コモンモードだけを除去できる仕組みがここにあるのだ。コイルに電流を流すと磁束ができるが、この磁束が電流に作用。ディファレンシャルモードは通過させるが、コモンモードは通過を阻止するのである。

CANを支えるコモンモードフィルタ

自動車の電子制御ユニット間を結ぶ、ワイヤハーネス(ケーブルの束)の使用量が増えつづけている。これが、環境対応にブレーキをかけようとしているのだ。車両重量の増加は、燃費を悪くし、排気ガス削減の妨げとなる。そこで、1本のケーブルに複数の信号を通過させる多重通信により、使用ケーブルを減らす車載LANの導入が加速しているのである。  

CAN(Controller Area Network)は、ドイツのBosch社によって開発された車載LAN規格のひとつである。BUSは、データの通路を意味する専門用語だ。CANの伝送スピードは10k〜1Mbpsだが、伝送ケーブルからの放射が電装機器に影響をおよぼすおそれがある。差動伝送方式を採用しているため、ノイズの影響を受けにくいとされているCANだが、ケーブルが長くなると、位相のズレがおきやすく、またケーブルがアンテナとなってノイズをひろうことも考えられる。したがって、コモンモードフィルタが使われるのである。

エンジンルームの高温にも強い

自動車用のコモンモードフィルタには、すぐれたインピーダンス特性(ノイズを除去するコイルの特性)が求められ、高度な巻線技術がポイントとなる。また、CANの信号を送信するトランシーバは、コモンモードフィルタとの相性に左右され、信号波形に歪が発生する場合がある。TDKのコモンモードフィルタは、どんなICにも対応する高信頼設計が大きな特長といえる。新製品のACTシリーズでは、使用温度範囲が従来の-40〜+125℃に対して-40〜+150℃にアップし、エンジンルーム内での過酷な温度環境下でも卓越した信頼性を発揮する。  

TDKでは、CANの開発段階から、デザインイン、マーケットインの体制で取り組んできた。そのため、TDKのコモンモードフィルタは、CANの普及が世界でもっとも進んでいるヨーロッパで、すでに圧倒的なシェアを獲得している。アメリカでは、排気ガスの制御状況をチェックするシステムに、CANを採用することが決まった。日本の自動車メーカーでも、CANを導入する表明が相次いでいる。車載LANを活用すれば、レーダで測定した車間距離情報をもとに、車間距離を自動制御するオートクルージングも実現する。自動車は、未来に向かって確実に走りつづけているのである。

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