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No.75 照明器具に欠かせない「バラスト」の進化

照明器具に欠かせない「バラスト」の進化

バラストは、蛍光灯などの照明器具において電圧の急激な上昇を抑え、照明を安定して点灯させるために必要不可欠な部品です。蛍光灯、ネオン管などの放電ランプ、HIDランプと、それぞれの照明に応じたバラストが研究され、進化してきました。また照明は、省エネ・省資源、環境配慮、長寿命化など、さらなる発展が期待されています。

 

「バラスト」は船を安定させるための重し

船舶の重量は、「30万トン級のタンカー」など、船体の排水量のトン数で表されます。アルキメデスの原理により「船の重量は、船を浮かべたときに船体が押しのけた水の重量に相当する」ため、排水量が船の重量を表すのに利用できるためです。

タンカーや貨物船などは、積荷がある状態で安定するため、積荷を降ろした後は浮力により海面上に高く浮き上がって安定性が悪くなります。そこで、積荷の代わりに海水を重りとして船底や船腹のバラストタンクに汲み入れ、安定性を保ちます。これをバラスト水といいます。 

バラスト水のしくみ

放電ランプの電流を安定させる「バラスト(安定器)」とは

放電ランプとは、密閉されたガラス管の内部にネオン・キセノンなどと水銀・ナトリウムなどの金属蒸気を充填し、これらの混合気体の放電を利用して発光させるランプのことです。

放電ランプは電極に高電圧を加えて点灯させますが、いったん点灯が開始すると、そのままでは無制限に電流が流れてランプは破壊されてしまいます。そこで、電流の暴走に歯止めをかけ、一定電流に制限するために、バラスト(安定器)が取り付けられています。バラストという呼称は、船舶を安定させるために積まれたバラストに由来します。

蛍光灯におけるバラストの役割

放電ランプと蛍光灯は、似たような特性を持っています。従来タイプの蛍光灯では、鉄心にコイルを巻いたチョークコイル方式のバラストが使われてきました。交流のような変化する電流に対して、コイルは変化を妨げるブレーキ(抵抗)のように作用します。このため、電流は暴走することなく安定化されるのです。また、コイルは交流電流にブレーキをかけるにともなって、電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えます。蛍光灯の点灯に必要な高電圧は、コイルが蓄えた磁気エネルギーをいっきに吐き出させることで実現しています。

蛍光灯における安定期(バラスト)の役割

電子バラストはHIDランプの点灯装置に不可欠

蛍光灯にはインバータタイプ、ラピッドスタートタイプ、グロースタータタイプの3つの点灯方式があります。インバータタイプやラピッドスタートタイプの蛍光灯では、電子バラストが使われます。前述の鉄心にコイルを巻いた重たいチョークコイルの代わりに、フェライトコアを用いた小型・軽量のトランスですむため、コンパクトなバラストが実現できます。

さて、自動車のヘッドライトに使われるHIDランプ(メタルハライドランプ)の点灯装置にも、電子バラストが不可欠です。従来使われてきたハロゲンランプは、フィラメントに電流を流すことで発光させる白熱電球の発展型で、点灯に複雑な電子回路は不要でした。一方、HIDランプは高電圧を加えて放電させる高輝度放電ランプであり、電子バラストが必要となります。その分、コストはアップしますが、発光効率が高く、省電力で長寿命というメリットがあります。そのため、1990年代以降、自動車のヘッドライトには、ハロゲンランプに代わってHIDランプが採用されるようになりました。

ちなみに、自動車のHIDランプ点灯用の電子バラストは、直流12Vのバッテリ電圧を昇圧するDC-DCコンバータ、昇圧した直流を高電圧パルスに変換するインバータ、安定した点灯状態を保つ制御回路、そしてHIDランプの電極に高電圧を加えて放電をスタートさせるイグナイタ(スタータ回路)で構成されています。
イグナイタにはスイッチングスパークギャップ(SSG)という電子部品が使われます。蛍光灯ではグローランプに相当する、放電スタート用のスイッチング素子です。

自動車のHIDランプと電子バラスト

小型&高性能なTDKのスイッチングスパークギャップ(SSG)

グローランプが小さな放電管であるように、SSGも放電管の一種で、ガスを封入した管の中に電極を対向させたシンプルな構造のスイッチング素子です。電極に電圧が加わって、ある電圧に達すると、放電が起きて電流が一気に流れます。この電流がトランスの二次側に高電圧の起動パルスを発生させ、HIDランプを放電・点灯させる仕組みです。グローランプと違って、放電時のロスが非常に小さく超長寿命。極めて安定した性能を発揮するため、自動車のヘッドライトや液晶プロジェクタのHIDランプのほか、ガスストーブの点火装置などにも利用されています。TDKではリードタイプやSMDタイプなど、小型・高性能のSSGを多数ラインアップして提供しています。製品の詳細はプロダクトセンターをご覧ください。

第四世代の照明、LEDの普及

HIDよりもさらに省電力のヘッドライトとして、HEV(ハイブリッドカー)を中心にLEDの普及がはじまり、現在ではLEDヘッドライトが主流となっています。LEDは点光源なので複数配列した構造となっていますが、それがかえってランプデザインの自由度を増し、従来にはない斬新なヘッドライトを可能にしています。

LEDはダイオードの一種であり、ある閾(しきい)値以上の電圧を加えると電流が流れて発光します。HIDランプの点灯のように高電圧を必要としませんが、定格電流以上の電流を流すと、破損や寿命低下をもたらすため、電圧や電流を制御する専用電源が必要になります。

LEDは、サインボードやイルミネーションなどにも広く用いられるようになっています。省電力・長寿命というLEDのメリットを生かすには、すぐれた電源が不可欠です。TDKでは屋外のLED機器に最適仕様の製品など、各種LED電源を提供しています。

家庭でも白熱電球にかわり、省電力・長寿命のLED電球が使われるようになりました。電源部は内蔵されていて、口金部分は同じ規格なので、白熱電球をはずして取り替えるだけでLED照明が実現します。LEDシーリングライトも器具ごと取り替えるだけで簡単に利用できます。ただ、蛍光ランプのような直管型LEDの使用にはそれぞれで配線が異なってくるため注意が必要です。既存の蛍光灯器具をそのまま使える製品もありますが、通常、電気工事資格者による工事が必要になります。

LED用AC-DC電源の基本回路とLED電球の内部構造例

LED照明は、ロウソクや灯油ランプ(第一世代)、白熱電球(第二世代)、蛍光灯(第三世代)に続く第四世代の照明といわれます。その一方で、LEDに続く次世代の照明といわれる有機EL照明も登場しています。点発光のLEDと違って、有機ELは面発光なのが特長です。近未来には、壁や天井そのものが照明と一体化して機能するようになるかもしれません。

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