電気と磁気の?館

No.74 スマートグリッド時代の配電網を支える高圧コンデンサ

電力需要のピークカットに期待される電力貯蔵技術

電力の消費量は季節や昼夜、曜日などによって大きく変動します。おおむね、夏は昼過ぎ、冬は朝・夕をピークとし、深夜をボトムとする需要曲線を描きます。

 季節や時間帯に関係なく供給される電力をベース電力といい、これには水力発電や原子力発電が利用され、変動部分の電力には石油や天然ガスなどの火力発電によって供給されています。しかし、石油や天然ガスはいつかは枯渇する化石燃料です。また、脱原発という動きもあり、太陽光や風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーによるベース電力の底上げが求められるようになっています。

 しかし、発電した電気エネルギーはそのままで貯蔵することができません。このため、夜間の余剰電力を日中の需要に振り分ける負荷平準化(夜間の負荷のボトムアップと日中の負荷のピークカット、ピークシフト)という考え方が重要になっており、さまざまな電力貯蔵技術の利用が研究されています。古くから利用されている揚水発電もその1つ。夜間の余剰電力で、貯水池に水を汲み上げておき、日中はその水を落として水力発電して電力不足を補います。このほか、フライホイール、圧縮空気、超電導などを利用した電力貯蔵技術もあります。

 超電導コイルを用いたSMES(超電導電力貯蔵:Supercoducting Magnetic Energy Storage)と呼ばれるシステムは、すでに工場などの瞬停対策として実用化されています。瞬停とは落雷などによって生じる瞬間的な電圧低下のことで、生産ラインをストップさせることもあります。

 SMESは、超電導コイルを液体ヘリウムで冷却した装置。極低温状態において、超電導コイルは電気抵抗がゼロとなるため、発熱ロスなしに電気エネルギーを磁気エネルギーとして貯蔵できるのです。もし、瞬停が起きて電力系統からの電流が途絶えても、超電導コイルに貯蔵された磁気エネルギーが電気エネルギーに変換されて供給されるしくみです。液体ヘリウムのかわりに安価な液体窒素が利用できる高温超電導体のSMESの開発も進められています。  

 


■ センサを内蔵したインテリジェントなIT開閉器

 電力網が老朽化している米国では、停電が起きると復旧までに時間がかかることが珍しくありません。かたや日本では、世界的にもきわめて信頼性の高い電力網をもっていて、落雷や台風による断線などによる停電もすぐに復旧します。これは、配電自動化システムが普及していることなどによるものです。

 立ち並ぶ電柱を観察すると、ところどころに円筒状の変圧器(柱上トランス)のほかに、四角い箱状の装置が据えられているのが確認できます。これは開閉器(区分開閉器)という装置で、配電網のある区間で問題が発生したとき、その区間を切り離して停電領域を最小にして、事故の早期復旧や配電線の効率的な運用を図ります。

 配電網は高度とはいえ、日本は欧州などとくらべて、再生可能エネルギーの利用は遅れています。そこで、日本では太陽光発電や風力発電などを利用した分散型発電システムを、既存の電力網とネットワーク化することで、省エネ・高効率で安定した電力供給・融通を目指しています。そのための実証実験として取り組んでいるのが、スマートシティやスマートコミュニティなどのプロジェクト。スマートグリッド(次世代電力網)はこれらの電力インフラとして位置づけられます。

 スマートグリッドの普及にあたっては、“逆潮流問題”と呼ばれる新たな課題の解決も迫られます。というのも、大規模発電所から一方的に電力を供給する従来の集中型発電システムと異なり、スマートグリッドなどの分散型発電システムでは、太陽光発電や風力発電など、消費者側の小規模な発電システムからも、大量の電力が供給されるようになります。しかし、太陽光や風力による発電量は天候や気象などに分刻みで左右されるため、電力供給は不安定になってしまいます。このため、配電網を流れる電気の品質(電圧、電流、位相角など)を常に監視・調整する必要が生じてくるのです。

 そこで、導入が進められているのが、IT開閉器などと呼ばれるセンサ内蔵のインテリジェントな自動開閉器です。分散型発電システムによる急激な電圧変化なども、センサと通信線でリアルタイムで監視し、把握したデータをもとに電圧制御して高品質な電力供給を維持します。



■IT開閉器の電圧センサ部に使われるTDKの高圧コンデンサ

 スマートグリッド時代には、太陽光発電や風力発電などを利用した分散型発電システムとともに、 PHEV(プラグインハイブリッドカー)やEV(電気自動車)なども、配電網に影響を与えるようになります。というのも、今後、PHEVやEVが普及して、充電がある日時に集中したりすると、電力需要曲線に想定外の変化が生じて、電圧変動を起こすおそれがあるからです。こうした問題を解決するためにも、配電網の電圧変動を自動監視するIT開閉器は不可欠となってきます。

 IT開閉器の電圧センサ部において、重要素子の1つとなるのが高圧コンデンサです。配電網の電圧変動を高精度に検出するために、高圧コンデンサには周囲温度や電圧レベルに影響されない特性が要求されます。TDKの高圧コンデンサは、高い比誘電率とともに、セラミックコンデンサに求められる厳しい温度特性であるC0G特性(温度変化による静電容量変化の許容差が30ppm/℃)を保つすぐれた特性を誇ります。

 セラミックコンデンサといっても、チップコンデンサなどとくらべて、超ビッグサイズ(直径・高さとも数10mm程度の円筒状)のコンデンサ。高誘電率のセラミック素子の対向両面に、銀電極を焼結形成し、これを金具端子ではさんではんだ接合し、絶縁性と耐湿性にすぐれたエポキシ樹脂でモールドした構造となっています。IT開閉器の電圧センサ部では、低圧コンデンサと組み合わせて使用され、-20〜+70℃の広い温度範囲でフラットな出力信号が得られます。

 パワーエレクトロニクス技術を支える重要技術の1つが材料技術。TDKの高圧コンデンサも、主成分のチタン酸バリウム系組成に、希土類元素を添加するという先進の材料設計により実現しました。次世代電力網であるスマートグリッドの構築にも貢献する電子部品です。
 

 

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