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No.65 スマートグリッドと電子機器の電源

“スマグリ”とは地域ぐるみの節電、電力の賢い“やりくり”のこと

“次世代電力網”と訳されたり、また“スマグリ”などとも略称される“スマートグリッド”は、コンピュータや通信技術などを利用して送電・給電の効率化を図る新たなエネルギー・ネットワークシステム。最適な形態や規模を模索するため、まず地域レベルでの小さなスマートグリッドから実験がスタートしています。これらはスマートシティ、スマートタウン、スマートコミュニティ、マイクログリッド、ナノグリッドなどと呼ばれています。
 スマートグリッドのスマートとは“賢い”という意味。賢い主婦は“やりくり”が上手なように、スマートグリッドも、従来の電力網のムダをなくす徹底的な“やりくり”を目指します。

 スマートグリッドの基本キーワードとなるのが、“見える化”と“双方向”です。家計のやりくりには家計簿が重要になるように、スマートグリッドにおいても電力需給をリアルタイムで把握する必要があります。いわゆる“電力の見える化”です。そこで、従来の電力メータにかわって導入されるのがスマートメータ。双方向の通信機能をもち、自動検針や異常時の遠隔開閉などが実現するだけでなく、家庭内の電気・電子機器の電力消費の様子などを数値やグラフなどで“見える化”してくれるため、節電にも効果的。また、家庭の太陽光発電や風力発電などによって発電・蓄電した電力も、双方向の通信機能を利用して、スマートグリッド内で“やりくり”し合うことで効率化が図れます。簡単にいえば、IT技術を利用した地域ぐるみの節電です。
 スマートグリッドはソフト面からいえば、賢いEMS(エネルギー・マネジメント・システム)であり、家庭(HOME)内、ビル(BUILDING)内、地域(AREA)内のEMSは、それぞれHEMS、BEMS、AEMSなどと呼ばれます。このところ、何度目かのブームとなっているドラッカーの“マネジメント”も、結局はムダをなくして効率化を図る“やりくり”の手法です。ふだん気づかないムダを“見える化”することがイノベーションの第一歩です。
 

■ エレクトロニクス社会と相性のよい直流給電システム

 電力産業の勃興期である1880〜1890年代には、拡充されつつある電力網を直流送電にするか交流送電にするかをめぐる“交直論争”が欧米で繰り広げられました。エジソン電灯会社はすでに大都市内で直流で電力供給していましたが、発電所から遠ざかるにつれ電圧降下が起きて電灯が暗くなるという問題をかかえていました。かたや交流は変圧器(トランス)によって簡単に昇圧・降圧が可能です。このため、広域の電力網として交流送電に軍配が上がり、世界的に採用されていったのです。しかし、近年、直流送電のメリットが改めて見直されるようになりました。

 送電線は、回路図には現れないコンデンサ成分やインダクタ(コイル)成分が存在し、交流を流した場合、これらが抵抗(リアクタンス)となって送電ロスを増やします。直流の場合はこの影響がなく、また送電線も2本ですみ、約300kmを超える長距離送電では交流よりも直流のほうが有利になるのです。欧米やインドなどでは50万kV、75万kVの長距離直流送電が実用化されています。

 直流送電の短所は、交流-直流変換、直流-交流変換の設備が必要なこと。国土の狭い島国である日本では直流送電のメリットは生かし難いのですが、北海道と本州を海底ケーブルで結ぶ送電系統などで採用されています。この技術は洋上風力発電や黒潮発電などに生かされるかもしれません。
 給電そのものを交流から直流に変えようという構想も練られています。電子機器のほとんどが直流で稼動し、LED照明も直流が使われるので、家庭やオフィス、データセンターなどには、直流給電した方が交流-直流変換にともなう電力ロスを削減できて効率的です。また、太陽光発電、バッテリ蓄電、電気自動車やプラグインハイブリッドカーなども、直流給電と相性がよいからです。このため、将来的にスマートグリッドは直流給電が導入されるとも予測されています。

 


■ スマートグリッドにも似た電子機器の分散電源システム

 電力消費のムダをなくすための効率化は、電子機器の電源において最大の課題として追究されてきました。商用交流を直流に変換する電源は、従来のリニア電源(リニア・レギュレータ、シリーズ・レギュレータなど)にかわって、高効率なスイッチング電源が主流となりました。

 バッテリで駆動するモバイル機器などにも、スイッチング方式の小型DC-DCコンバータが使われています。バッテリは直流電源とはいえ、電圧変動のある非安定な直流であり、ICを確実に動作させるためには、安定した直流が必要になります。リニア方式でも一定電圧の直流は得られますが、これは電力の一部を切り捨てて一定電圧を得る方式なので、切り捨てられた部分が電力ロス(発熱)となってしまうのが短所。一方、スイッチング方式の電源はバッテリなどの非安定な直流電流をいったんパルス電流に変え、これをつなぎ合わせて一定電圧の安定した直流を得る方式。電力をムダに捨てることなく、上手に“やりくり”する方式なので、きわめて高効率なのが特長です。このため、DC-DCコンバータは電子機器に不可欠な電源となっています。

 近年は電子機器の多機能化により、回路ごとにさまざまなIC駆動電圧が求められるようになっています。 しかし、1つのDC-DCコンバータによる集中給電方式では、配線による電気抵抗によって効率が落ちるばかりでなく、配線がもつコンデンサ成分やインダクタ成分により、電圧変動などの悪影響を及ぼします。さらに、半導体プロセスの微細化により、IC回路の低電圧化・大電流化が進んでいるため、よりきめ細かなパワーマネジメントが求められるようになりました。

 そこで導入されたのがPOL(point of load)。負荷(load)であるICの直近に、小型電源を分散配置する方式です。これは送電ロスの低減を目指す地域分散型スマートグリッドと似た考え方です。モバイル機器ではバッテリ稼働時間の延長のためにも、POL電源として高効率の小型DC-DCコンバータの採用が増えています。

 世界中で使われている電子機器の数は膨大です。電源の効率が1%高まっただけで、大きな省エネ効果をもたらします。電源の小型・効率化を推進してきたTDKのフェライト技術や部品技術、回路技術は、スマートグリッド時代のスマートメータやDC家電、パワーコンディショナなどにも大きく貢献します。

 

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