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No.66 ドライブ・バイ・ワイヤ時代の車載LAN用ノイズ対策部品

立体凧からヒントを得て製作されたライト兄弟の飛行機

ライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功したのは1903年。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に記されている人力飛行機をはじめ、古くから鳥やコウモリの翼を真似た飛行装置が考案されてきましたが、ライト兄弟が製作したのは2枚の翼を縦に重ねた構造の複葉機でした。これはオーストラリアの発明家ハーグレイヴの箱凧(ボックス・カイト:box kite)からヒントを得たものといわれます。

 箱凧というのは、一般的な平面凧と異なり、行灯(あんどん)のような骨組をもつ立体凧の1種です。ハーグレイヴは四角柱や三角柱などを組み合わせたさまざまな箱凧を製作し、ゴム動力や圧搾空気などによって、糸なしで飛ばす実験も試みました。この箱凧をベースとして、風洞実験を重ねながらライト兄弟が設計・製作したのが“ライトフライヤー号”。自作のガソリンエンジンを積み、人力操舵で空中飛行する世界初の飛行機です。

 ちなみに、ハーグレイヴやライト兄弟以前に、飛行機の研究に取り組んでいた日本人がいます。陸軍軍人であった二宮忠八です。小さい頃から凧づくりを得意とした忠八は、鳥やコウモリ、トンボやタマムシなど、空飛ぶ生物を観察し、竹と和紙、ゴム動力のプロペラを用いた模型飛行機を製作し、飛行実験にも成功しています。日本の航空工学の草分け的な業績でしたが、ほどなく日清戦争(1894年)が始まったことなどにより、残念ながら研究は中断されてしまいました。

 ライト兄弟の発明で注目すべきは、操縦桿と結んだケーブルによって翼にひねりを与える “たわみ翼”というしくみを取り入れていることです。これにより、手動で揚力を制御して機体を安定させることができました。ただし、操縦はかなり難しかったようです。

 今日では飛行機の操縦システムはケーブルや油圧による機械的な伝達から、ワイヤ(電線)とモータ/アクチュエータによるエレクトリックな伝達機構に変わりました。これをフライ・バイ・ワイヤといい、コンピュータとも相性がよいので自動操縦も可能になりました。ライト兄弟の初飛行からわずか1世紀あまり。これほど驚異的な進歩を遂げた乗り物は他に例をみません。


■ エレクトリック化が進む現代の自動車はECUのネットワーク

 機械的な伝達機構のかわりに電気信号でモータ/アクチュエータを駆動する飛行機の“フライ・バイ・ワイヤ”と同様のシステムは、自動車にも取り入れられるようになりました。これは“ドライブ・バイ・ワイヤ”といいます。たとえば、従来の油圧ステアリングにかわる電動ステアリング(EPS)では、センサ情報をもとに適切な力をモータから加えてステアリング操作をアシストするシステム。機械的な伝達機構がなくなるため、システムの自由度が増し、安全性の向上にも寄与します。油圧ブレーキにかわる電動ブレーキなども研究されていて、将来的には自動車運転にペダル操作がなくなるかもしれません。

  “ドライブ・バイ・ワイヤ”の頭脳に相当するのがECU(電子制御ユニット)です。近年の自動車には一般車で数10基、高級車になると100基以上のECUが搭載されています。これらのECUを結んでネットワーク化するのが車載LAN。アプリケーションに応じてさまざまな規格がありますが、エアコンや集中ドアロック、エンジン制御やブレーキシステムなど、世界中の自動車に採用され、事実上の世界標準となっているのがCANです。また、このCANを上回るデータ転送速度と高信頼性により、ポストCANとして期待されているのがFlexRay。さらには、カーナビゲーションなどのマルチメディア系に特化したMOSTなども登場しています。

 安全走行が最優先される自動車において、車載LANのノイズ対策はきわめて重要です。無対策のままでは、ECUを相互接続するケーブルがアンテナとして機能してノイズを放射し、周辺機器に侵入して悪影響を及ぼすからです。このノイズ対策として活躍しているのが、車載LAN用コモンモードフィルタ。ネットワーク化される個々のECUごとに装着されます。

 

■ 安全・快適走行を支える車載LAN用コモンモードフィルタ

 CANやFlexRayなどの高速車載LANでは、USBやHDMIなどと同様の差動伝送方式が採用されています。これは位相が180°異なる2つの信号を1対のツイストペアで伝送する方式。従来のシールド線の単線方式では、高速化に限界があるばかりでなく、重量やコスト面でデメリットが大きくなってきたからです。

 差動伝送方式は原理的にノイズに強いとはいえ、無対策のままではシステムの誤動作の原因となったりします。伝導ノイズにはディファレンシャルモードとコモンモードの2タイプがあります。信号電流と同様に、片方の導線を往路、もう片方の導線を復路として流れるのがディファレンシャルモードのノイズ。かたや、往路・復路に関係なく同方向に流れるのがコモンモードノイズです。今日、電子機器のノイズ対策の主眼となっているのはコモンモードノイズの方です。コモンモードノイズは、弱い電流でも広範囲の周辺機器に悪影響を及ぼすからです。

 コモンモードフィルタは、信号電流に影響を与えず、コモンモードノイズのみを阻止するノイズ対策部品です。トロイダル(環状)のコアに、同方向に2本の巻線をほどこしたのがコモンモードフィルタの基本構造です。しかし、トロイダルコアは自動巻線に対応できず小型化も困難です。そこで考案されたのが、ドラムコアに巻線をほどこしてから、平板状のプレートコアを装着させて閉磁路構造としたコモンモードフィルタ。数mm角サイズの小さな電子部品で、パソコンやデジタルテレビ、DVDレコーダなど、身の回りの電子機器に多用されています。

 近年、自動車の軽量化や低コスト化のため、ECUはエンジンルーム内に置かれるようになり、ECUの設置環境はますます厳しくなっています。そこで、CANおよびFlexRayなどの車載LAN用コモンモードフィルタとしてTDKが開発したのが、ACT45シリーズ。高耐熱ワイヤおよび独自の接続方法の採用などにより、-40〜+150℃という広い使用温度範囲とともに、熱ストレスや振動・衝撃などに対して、すぐれた構造信頼性を実現。さらなる安全・快適走行のための車載ネットワークを強力にサポートします。
 

 

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