電気と磁気の?館
No.67 電子回路のインピーダンス・マッチングとは?
音波探査で発見された海底下のメタンハイドレート
“燃える氷”などとも呼ばれ、新たなエネルギー資源として有望視されているメタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタン分子の周囲を水分子が囲んだ構造の物質。大陸周縁の約500〜1,000m程度の海底下で、氷状の結晶となって埋蔵されています。日本近海でも東海〜南海沖、新潟沖などに大量に分布しているといわれ、採掘技術が確立されれば、日本はいっきに資源大国になるかもしれません。
メタンハイドレートは海底油田の調査などに使われる音波探査(地震探査ともいう)によって1970年代に発見されました。エアガンと呼ばれる装置により、圧縮空気を海中に瞬時に放出して、発生する音波の反射から海底の様子などを調べる技術です。
音波の伝わり方は媒質によって異なります。音波に対する媒質の抵抗値のことを音響インピーダンスといいます。音響インピーダンスの差が大きい境界面では音波は反射されやすく、音響インピーダンスの差が小さな境界面では通過しやすくなります。エアガンが発した音波は海底で反射するだけでなく、一部は海底内部にもぐりこみ、音響インピーダンスに著しい差がある地層の境界面で大きく反射して戻ってくるものもあります。これはBSR(海底擬似反射面)と呼ばれ、メタンハイドレートはこのBSRの上に安定した状態で連続的に堆積していることが確認されています。
人体内部の様子を画像化する超音波診断装置も、原理的には音波探査と同じものです。骨や筋肉、内臓、血液などは、それぞれ固有の音響インピーダンスをもつため、探触子(プローブ)から放射される超音波の反射波を検知し、そのデータをコンピュータ処理することで画像化します。X線検査とちがって、放射線被爆などの心配がないため、胎児の成長の様子を調べるのに使われたりします。超音波を発生させる振動子には、チタン酸バリウムなどの圧電セラミックスが用いられます。
インピーダンスの不整合はノイズや出力低下をもたらす
超音波診断では探触子(プローブ)を腹部などにあてるとき、ゼリー状の物質を皮膚に塗りつけます。空気の音響インピーダンスは生体組織とくらべてはるかに小さいため、プローブと皮膚の間に空気が介在すると超音波は内部に入り込めず、皮膚表面で反射されてしまいます。そこで、生体の音響インピーダンスに近いゼリー状の物質を塗り、空気を排除することにより、超音波が生体内に入り込みやすくしているのです。このゼリー状物質は、カップリング剤あるいはインピーダンス・マッチング(整合)剤などと呼ばれています。
電子回路のインピーダンス・マッチングも、これと似た考え方によるものです。回路と回路を伝送路で結ぶとき、回路のインピーダンスが異なると、信号電流の一部が反射されてノイズとなったり、出力が低下したりします。この不整合を解消するのがインピーダンス・マッチングです。
そもそもインピーダンスとは電気用語で、交流回路における電気抵抗成分を意味します。直流回路における電気抵抗はレジスタンス(R)といいますが、交流回路ではレジスタンスに加えて、インダクタ(コイル)やコンデンサも抵抗成分として作用するため、これらをまとめてインピーダンス(Z)と表します。
インダクタ(コイル)とコンデンサは相反する性質をもっています。インダクタは直流をスムーズに流しますが、交流に対してはブレーキをかけるように作用します。逆に、コンデンサは直流を遮断しますが交流は流します。また、こうした性質は周波数が高くなるほど顕著になるため、MHz、GHzといった高周波領域では、回路図にはないインダクタ成分(寄生インダクタンス)やコンデンサ成分(寄生キャパシタンス)も無視できなくなってきます。たとえば、まっすぐな配線さえインダクタとして作用し、また、配線間や配線-グランド間などもコンデンサとして作用するようになるのです。したがって、交流とくに高周波においては、伝送路がもつインピーダンスが回路特性に大きな影響を与えるようになります。これを特性インピーダンスといいます。
高周波回路ではインピーダンス・マッチングが重要
段差などをなくしたバリアフリーの住宅は、部屋から部屋へスムーズに移動できるように、ドライバ回路の出力インピーダンスとレシーバ回路の入力インピーダンス、それらを結ぶ伝送路の特性インピーダンスがそろっていると、信号は反射することなくスムーズに流れ、出力も最大になります。しかし、現実にはそれぞれのインピーダンスには差があるため、伝送路にインピーダンス・マッチング回路を挿入して、インピーダンスをそろえます。
インピーダンス・マッチングにはトランスなども使われますが、簡便で効果的なのはインダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたLC回路の挿入です。これはLCフィルタの1種で、ある周波数帯を抵抗成分として作用させることで、適切なインピーダンス・マッチングを図るのです。
高周波回路においては、回路図には現れないインダクタ成分(寄生インダクタンス)やコンデンサ成分(寄生キャパシタンス)の対策も必要になります。ここにも、インダクタとコンデンサの相反する性質がたくみに利用されます。寄生インダクタンスにはコンデンサを直列挿入、寄生キャパシタンスにはインダクタを直列挿入して除去します。
電子回路というのは、突き詰めていえばインピーダンスのネットワーク。電子回路のインピーダンスは、電子部品の周波数特性や配置、配線パターン、部材の材質なども複雑に絡んでくるため、設計にあたってはネットワーク・アナライザという測定器も援用されています。
微弱な信号を取り扱う携帯電話やスマートフォンなどの高周波回路では、インピーダンス・マッチングはきわめて重要です。TDKでは積層インダクタや積層セラミックチップコンデンサ、先進の薄膜工法による薄膜コンデンサなど、すぐれた特性のインピーダンス・マッチング用部品を提供しています。
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