電気と磁気の?館
No.58 LEDの静電気対策と放熱対策を実現するバリスタ基板
レーザープリンタとLEDプリンタはどこが違う?
「必要は発明の母」といいます。電話を発明したベルは、耳の不自由な人のための音声学の研究者で、電気はまったくの専門外でした。コピー機(PPC複写機)を発明したカールソンもまた、弁理士事務所の事務員として働いていたとき、特許書類の複製に多大な労力を要することから、簡単に複写できる装置はできないものか考えて発明に至ったものです。帯電させた金属板に、文書の文字や画像のイメージを露光すると、光が当たらなかった部分にのみ帯電が残ります。そこにトナーの粉を静電気の作用で吸いつけ、紙に転写・定着させるという方式です。このしくみはゼログラフィと呼ばれます。
レーザープリンタはコンピュータ内蔵のデジタル複写機として進化を遂げましたが、複写原理はゼログラフィです。白色LED(発光ダイオード)を並べた線光源で原稿をスキャン(走査)して、これをCCDなどで読み取り、デジタルデータとしてメモリに記憶。内蔵コンピュータは、このデジタルデータをページ単位のイメージとして処理。レーザービームをポリゴンミラーと呼ばれる高速回転する多面鏡で反射させて、感光ドラムに印刷イメージを露光するしくみです。
レーザープリンタは普通紙への複写を高速・高品質で実現するため、オフィスなどでコピー機の主流として使用されています。ただ、レーザービームをポリゴンミラーで反射させる機構をもつため、小型化や静音化が困難でした。この問題を解決して開発されたのが、LEDプリンタです。
LEDプリンタは、微細なLEDを横一直線に多数配列したLEDアレイをプリントヘッドとします。レーザープリンタのようなレーザービームによる露光ではなく、個々のLEDが印刷イメージのドットと1つずつ対応して感光ドラムを露光する方式です。このため、従来のレーザープリンタとくらべてコンパクトなコピー機が実現するのです。LEDプリンタのキーデバイスは、LEDアレイとICドライバなどを一体化させたLEDプリントヘッド。 LEDのピッチはミクロンオーダー(解像度1,200dpiで約20μm)となるため、半導体製造と似た高度な薄膜プロセス技術により製造されています。
■ LEDやフォトダイオードはPN接合の半導体素子
LEDはPN接合の半導体ダイオードの1種です。ダイオードとは、元々二極真空管を指す言葉でした。陰極のフィラメントに電流を流すと、フィラメントから熱電子が発生して陽極に向かい、ガラス管の中で電流が流れます(電子の流れと電流方向は逆向き)。電流は陽極から陰極の一方向しか流れないので、二極真空管は整流作用をもつことになります。
高純度なシリコンに微量元素を添加することで、電子の流れをコントロールできる半導体素子がつくれます。たとえば、シリコンにヒ素やリンなどの5価の原子を微量添加すると、余剰電子が生まれてN型半導体となります。また、シリコンにホウ素やアルミニウムなどの3価の原子を微量添加すると、電子が不足して正孔(ホール)が生まれP型半導体となります。この2タイプの半導体素子を組み合わせたのが、PN接合の半導体ダイオードです。
PN接合の半導体ダイオードのP側にプラス、N側をマイナスとして電池をつなぐと電流が流れます。これはN型半導体の余剰電子はプラス側に引き付けられ、P型半導体の正孔はマイナス側に引き付けられることによるものです。乾電池を逆につなぐとN型半導体の余剰電子はN側にとどまり、P型半導体の正孔はP側にとどまるので電流は流れません。このため、半導体ダイオードは二極真空管と同様に、電流を一方向にのみ流す整流作用を示します。
P型半導体とN型半導体の接合部分では、電子と正孔が結合して消滅します。このときエネルギーが光として放出するものがあります。これがLED(発光ダイオード)です。
電流を流すと光を放出するLEDとは逆に、光を照射するとPN接合部に電子や正孔が生じて、電流が流れやすくなる半導体ダイオードもあります。これはフォトダイオードと呼ばれ、光センサとして利用されています。
■ ツェナーダイオードを不要にし、LEDパッケージの小型化を実現するバリスタ基板
PN接合の半導体ダイオードは、順方向の電流は流し、逆方向の電流は流さない性質をもつ素子とはいえ、逆方向の電圧を高めていくとついには阻止できなくなって、参ったとばかりに電流を流すようになります。定電圧ダイオードとも呼ばれるツェナーダイオードは、この性質を利用したものです。ある電圧(ツェナー電圧という)を超えるといきなり電流を流すので、静電気放電などの過電圧から回路を保護するサージアブソーバとして機能します。
LEDはPN接合のダイオードながら、逆方向の耐圧は一般のシリコンダイオードよりもはるかに低いので、LEDデバイスのアセンブリなどの際に、人体などからの静電気放電によって破壊されてしまうことがあります。それを防ぐための保護素子として、ツェナーダイオードが使用されます。LEDにツェナーダイオードを並列接合することで、LEDを静電気放電などによる破壊から守ります。
しかし、基板上でLEDチップとともにツェナーダイオードを実装するとなると、実装スペースや配線スペースを要して小型化の支障になります。そこでTDKが開発したのが、ツェナーダイオードなしに静電気対策を実現するLED用バリスタ基板です。
バリスタとは通常は高い抵抗値を示しながら、ある電圧(バリスタ電圧)以上で、いきなり抵抗値を下げる性質をもつ半導体セラミックスを利用した電子部品。チップタイプの積層チップバリスタは、静電気放電からICを保護するEMC対策部品として、モバイル機器のインタフェース端子部などで多用されています。
TDKのLED用バリスタ基板は、酸化亜鉛をベースとしたもので、ツェナーダイオードを不要にしてパッケージを小型化できるのが利点。また、LEDは低消費電力とはいえ、高出力品となると発熱が多くなりますが、バリスタ基板は放熱性にもすぐれるため、高輝度LEDやパワーLEDなどに最適です。
LEDの静電気対策と放熱対策をともに提供し、パッケージの小型化を実現するのがTDKのLED用バリスタ基板。LED照明や液晶ディスプレイのバックライト用など、LEDのアプリケーションを大きく広げます。
TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです