電気と磁気の?館

No.59 有機ELディスプレイの可能性

電子ブック時代にふさわしいディスプレイは?

紙は約2,000年前、紀元前後の中国で発明されました。孔子の時代にはまだ紙はなく、当時の書物といえば、竹や木を細長く削り、ひもで編んでシート状にした竹簡や木簡でした。書物を熟読することを意味する「韋編三絶(いへんさんぜつ)」=「韋編三度(みたび)絶つ」という成語があります。これは孔子が晩年、易(えき)への関心を深め、書物を編むなめし皮のひも(韋)が、三度も切れたという故事にちなみます。
 紙と印刷術によって、大量の文字情報はコンパクトな書物として刊行されるようになりました。

 しかし、昔も今も読書家にとって悩みの種は蔵書の収納スペース。また、いかに愛読書とはいえ、ぶ厚くなると常時携行するわけにはいきません。そこで、最近では書籍の背表紙を裁断して全ページをスキャナで読み取り、PDF形式などのデジタルデータとしてタブレットPCなどに取り込み、自分専用の電子ブック(電子書籍)とする人が増えているそうです。これは“自炊”本などと呼ばれています。何百冊〜千冊もの蔵書を格納すれば、外出先でも利用できる便利な移動書斎やマイ・ライブラリとなりえます(個人的な読書用の複写の範囲なら、著作権法違反にあたりません)。
 省資源や省スペース、印刷・製本・流通コストの削減などの点から、書籍や新聞の電子化は、これから急速に進展するとみられ、さまざまな電子ブックリーダーが登場しています。

 現在のところ、電子ブックリーダーのディスプレイとしては、電子ペーパーや液晶パネルが主流です。電子ペーパーは低消費電力が特長で、読書用の専用端末に採用されています。かたや液晶パネルは画面のスクロールや拡大などができるところが利点で、カラー化や動画・音楽などにも対応したタブレット型のマルチ端末として採用されています。

 電子ブックリーダーは発展途上にあり、読書スタイルもまだ流動的。電子ブックリーダーのゆくえを大きく左右するのはディスプレイ技術です。これからは、電子機器であることを意識させないオシャレでスマートな電子ブックも登場することでしょう。有機ELディスプレイを用いた、紙のようにしなやかな電子ブックリーダーも注目されています。

 

 

■ 有機ELディスプレイはバックライトを必要としない自発光型

※本記事は、掲載時点の情報に基づくものであり、現在、本製品はTDKでは取り扱っておりません。

 有機ELディスプレイは視野角が広くて視認性にすぐれるため、カーオーディオ機器のディスプレイなどとして採用されています。
 物質が外部からのエネルギーを受けて、光を放出する現象をルミネセンスといいます。ミクロ的には、外部エネルギーにより基底状態から励起状態となった電子が、再び元の基底状態に戻るときに、そのエネルギーを光として放出する現象です。

 たとえば、蛍光灯は放電により発生した紫外線が、ガラス管内部に塗布された蛍光体を励起して発光させる照明器具です。洗濯用洗剤にも紫色に発光する蛍光染料が添加されたものがあります。木綿などの白い衣服は古くなると黄ばんできますが、黄色と補色関係にある紫色の蛍光を発することで、白っぽく見えるようになるのです。

 発光体を励起するエネルギーが電気エネルギーのものをEL(エレクトロルミネセンス)といい、発光体に有機化合物を用いたものを有機ELといいます。

 有機ELは、光を電気エネルギーに変換する太陽電池とは逆に、電気エネルギーを光に変換する素子です。もともと太陽電池の研究者が、太陽電池の素子に電流を流してみたところ発光したことから研究が始まりました。

 原理的にはLEDと似ていますが、LEDが点発光であるのに対して、有機ELは面発光であることを特長とします。このため、有機ELは液晶ディスプレイのようなバックライトを必要としない自発光型のディスプレイとして利用できます。

 有機ELディスプレイは、電子輸送層の薄膜、発光層、正孔(ホール)輸送層の薄膜、これらをはさむ電極の薄膜などからなる、多層薄膜構造の発光素子です。電極から直流電界を加えると、電子は陽極側、正孔は陰極側に移動し、発光層で電子と正孔が結合して発光するので、片側の電極を透明なITO(インジウム・スズ酸化物)電極とすることで面発光素子となります。当初は発光させるのに高い直流電圧を必要としましたが、このような多層薄膜構造として機能分離させることで、低い直流電圧で発光できるようになり応用の道が開けました。

 

■ フィルムタイプ、シースルータイプも実現したTDKの有機ELディスプレイ

 有機EL技術にとって、最大のポイントは発光層の材料です。微量の有機色素(ドーパント)を有機層に分散させたもので、電流を流すことで有機色素それぞれの固有の色で発光します。純度の高い赤(R)・緑(G)・青(B) の3原色の発光材料も開発され、フルカラーのディスプレイも可能になりました。これは、微細なピッチで3色の発光層を基板上に形成する3色独立画素方式と呼ばれる方式が主流ですが、微細なパターニングに高度な技術を要し、また3色のバランスをとることも難しいという問題を残しています。

 白色発光素子とカラーフィルタの組み合わせという別のアプローチにより、有機ELディスプレイのカラー化を推進してきたのはTDKです。これは白色の発光層を光源として、その前面に赤(R)・緑(G)・青(B) のカラーフィルタを設けてカラー表示を得る方式。LCD(液晶ディスプレイ)によって確立されたカラーフィルタ技術をそのまま応用できるうえ、発光は白色光だけで済むので製造工程もシンプルにでき、コストダウンにもつながるというメリットがあります。

 TDKでは熱的・化学的劣化を受けにくいオリジナルな発光材料の開発とともに、真空中で蒸発させた複数の材料を精密制御する素子構造技術などを駆使して、きわめて高輝度・長寿命な白色発光素子構造技術を確立しました。カラーフィルタと組み合わせたパッシブマトリクス方式のTDKの有機ELディスプレイは、カーオーディオ機器、デジタル携帯音楽プレーヤ、携帯電話のサブディスプレイなどに採用されています。
 有機ELの多層薄膜は1ミクロン(μm)以下しかなく、ガラス基板のかわりにプラスチック基板を用いることで、しなやかなディスプレイとすることも可能です。また視野角が広く、曲面に用いても視認性がすぐれるのも有機ELディスプレイならではの特長。CEATEC2010のTDKブースでは、腕に巻きつけるフィルムタイプ、そして表示画面が片側のみ見えるシースルータイプの有機ELディスプレイのデモ展示が行われて注目を集めました。電子ブックリーダーや身につけるウェアラブルコンピュータのディスプレイ、また未来の照明としても、有機EL技術には大きな期待が寄せられています。
 

 

 

 

 

 

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