電気と磁気の?館
No.49 快適エレクトロニクスライフをサポートする“フェライトビーズ”
古代の装飾品“ガラスビーズ”の製法
ガラスは江戸時代にはギヤマンと呼ばれました。ギヤマンとはダイヤモンドがなまった言葉。ダイヤモンドでカット模様を入れたガラス器がギヤマン彫りといわれ、ここから、ガラスそのものをギヤマンと言うようになったようです。古くは、ガラスは玻璃(はり)とか瑠璃(るり)と呼ばれました。奈良東大寺・正倉院の宝物として、有名な白瑠璃碗(はくるりわん)は、4〜5世紀のササン朝ペルシアのものが、シルクロードを通じて伝わったといわれています。
アクセサリとしてのガラス製品は、紀元前の昔から世界中で使われていました。日本でも弥生〜古墳時代以降の遺跡から、さまざまなガラスビーズが出土しています。とくに模様のついた丸玉は、トンボの複眼に似ていることから、“とんぼ玉”と呼ばれています。とんぼ玉は、エジプトの古代遺跡からも出土する古くからのアクセサリで、現在でもガラス工芸品として製作されています。
ガラス工芸は手作業なので、その技法は昔も今もあまり変わりありません。とはいえ、ガスバーナーや金属の道具もなかった昔に、細い穴の空いたとんぼボ玉やガラスビーズを古代人はどのようにして作ったのでしょうか?古墳時代の遺跡からは、ガラスビーズの鋳型(粘土製)が出土していて、およその製法を推定することができます。
まず、鋳型の穴のなかに細い芯(植物の茎など)を入れ、その周囲をガラスの粉で満たします。次に、鋳型を下から火で加熱し、ガラスが溶けてきたら、芯をくるくると回転して球形に成形します(芯には泥を塗ってあるので、あとから容易に取り外すことができます)。これをゆっくりと冷してから、芯と泥を取り除けば、ガラスビーズが得られます。これをベースとして、さまざまな色のガラスをくっつけたり、ねじったりして、複雑な模様をつくったのがとんぼ玉です。
電子部品の世界にも、ノイズ対策に用いられるフェライトビーズと呼ばれるものがあります。もともとガラスビーズに似た中空のフェライトコアを、導線に挿入して使用したことからのネーミングです。まだチップコンデンサなどなかった時代には、コンデンサのリード線に挿入してノイズフィルタとして使われたりしました。
■ ノイズを反射する機能と吸収する機能をあわせもつ守備範囲の広い電子部品
信号電流に乗って回路内に侵入するノイズ電流というのは、一般に信号周波数よりも高い周波数の成分です。こうしたノイズ電流は、デジタル信号の矩形波(方形波)を崩し、ICの誤動作などを引き起こします。これを解決する簡便で効果的なノイズ対策部品がフェライトビーズです。信号ラインに挿入すると、信号波形の乱れを除去して、きれいな波形に戻します。
フェライトビーズは、ノイズ電流を反射する機能と、吸収する機能をあわせもつ素子です。ノイズ電流は広い周波数帯域にわたって分布します。そこで、ある周波数まではフェライトビーズがもつインダクタ(コイル)成分がノイズ電流を反射して阻止し、その周波数を超える高周波のノイズ電流に対しては、フェライトビーズがもつ抵抗成分が熱に変換して除去します。
これを理解するためには、交流電流に対するコイルの性質を知っておく必要があります。コイルは直流電流をまっすぐな導線と同じようにスムーズに流しますが、交流電流に対しては異なる挙動を示します。交流電流は周期的に電流の向きを変える電流です。コイルはこのような変化する電流に対して、変化を妨げるような向きに起電力(電圧)を発生させます(自己誘導という電磁誘導現象)。高周波となるとリード線や配線でさえ、コイルとしての性質を示すようになります。このため、侵入してくる高周波のノイズ電流を、フェライトビーズのインダクタ成分が反射して通過させなくなります。また、インダクタとしての機能でカバーできない高周波のノイズ電流については、フェライトビーズの抵抗成分が熱に変換して除去します。野球にたとえれば、フェライトビーズは内野手と外野手を兼ね備えるような広い守備範囲を特長とするノイズ対策部品です。
■ 従来型チップビーズの限界を突破したギガスパイラ構造
1980年代に電子機器の小型化とともに、電子部品のSMD(表面実装部品)化が進むと、フェライトビーズにもSMD化が求められるようになり、従来の中空コアから積層工法を用いたチップビーズに置き換わりました。これはフェライト層と内部電極を交互に積み重ね、フェライト内部にスパイラル状の内部電極を形成して製造されます。もはや“ビーズ”としての面影はありませんが、原理的には同じなのでフェライトビーズと呼ばれています。ペースト状の練り歯磨きなのに、昔ながらの呼び方で“歯磨き粉”というのと似ています。
積層構造にすることで、フェライトビーズのチップ化と小型化が実現しましたが、電子機器の高周波化が進むにつれ、新たな問題も浮上してきました。それは端子電極とスパイラル状の内部電極の間の浮遊容量(ストレイキャパシティ)が、特性向上の妨げになるという問題です。浮遊容量とは、電位差のある2つの導体の間に生じる静電容量のこと。つまり、端子電極と内部電極とが回路図には現れないコンデンサ成分でつながり、チップビーズの特性に悪影響を与えるという問題です。コンデンサは高周波ほど通しやすい性質をもちます。広い周波数範囲で高いインピーダンスをもつことで、フェライトビーズは簡便かつ効果的なノイズ対策部品として使われますが、電極間の浮遊容量はこのインピーダンスを低下させてしまうのです。
この問題を解決するため導入されたのが、積層チップインダクタにも採用されているTDKのギガスパイラ構造です。従来、チップビーズの内部導体のスパイラルは、端子電極方向と垂直に積層されていましたが、これを端子電極方向に積層するという新工法です。これによって端子電極と内部導体との浮遊容量を著しく抑えることに成功。GHz帯まで余裕をもってカバーする、広いすぐれた特性を実現できるようになりました。
電子機器の高機能化とともに、高速信号ラインからの放射ノイズ対策はますます重要になっています。チップビーズは快適モバイルライフをサポートする小さいながら頼もしいノイズ対策部品です。
TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです