電気と磁気の?館

No.51 鋼管(鉄パイプ)づくりにもフェライトが活躍

モータ改良の研究から発見されたジュールの法則

 小学生の多くが算数で苦手とするのは「速さ」に関する応用問題。速さと時間と距離の関係がわからず、混乱してしまうのです。そこで、「はじきの円」などと呼ばれるという便利な覚え方が伝授されたりします。「はじき」とは、は(速さ)、じ(時間)、き(距離)のこと。速さ=距離/時間、時間=距離/速さ、距離=速さ×時間という3つの関係式を、1つの円にまとめて表したものです(図1)。

 中学校の理科で学習する「オームの法則」も、これと同じように覚えられます(図2)。「はじき」に相当するのが、抵抗・電流・電圧です。高校の物理となると「電力」という物理量も登場して、関係式は入り組んできます。そこで、アメリカでは「はじきの円」をもっと複雑にしたものが学生の間で利用されています(図3)。

 電力の単位名であるW(ワット)は、仕事率(power)という概念を導入したイギリスの機械技術者ワット(Watt)の名から採用されたもの。仕事率というのは単位時間になされる仕事(work)のことで、電気においては電力が仕事率に相当し、電力と時間の積が仕事=電力量となります。仕事率を“能力”と言いかえてみると、わかりやすくなります。人にたとえていうと、仕事の速さや遅さなどの“能力(power)”が仕事率=電力のことで、仕事率と時間の積、つまり実際にどれくらい働いたのかが仕事=電力量(energy)ということになります。

 仕事=エネルギーの単位はJ(ジュール)で、これはイギリスの物理学者ジュールの業績にちなんだもの。彼は、実用化まもないモータの改良に取り組み、効率を落とすコイルの発熱を計測するうちに、1840年、有名な「ジュールの法則」を発見しました。ここから電流が流れる導体に発生する熱は“ジュール熱”と呼ばれるようになりました。

 さらに、ジュールは巧妙な実験装置をつくって、力学的な仕事と熱量の関係も解明しました。これはロープで吊るした分銅を落下させて、水タンクの羽根車を回すしかけの装置です。羽根車の回転によって水温が上昇するので、この温度を読みとります(分銅の位置エネルギーによる仕事が熱エネルギーに変換)。このジュールの実験により、電力量、熱量、力学的な仕事は、J(ジュール)という単位ではじめて数量的に関係づけできるようになり、エネルギーという概念もしだいに定着するようになったのです。

「はじきの円」(速さ・時間・距離の関係式)と電気の公式

 

熱の仕事量を測定したジュールの実験装置

 

エネルギー量(熱、仕事、電力量)の相互関係

■ 渦(うず)電流のジュール熱を利用した誘導加熱

 細長いアルミ管(あるいは銅管)を鉛直に立て、上から磁石をくぐらせて落とすと、まるでブレーキがかかったように、ゆっくりと落ちてきます。アルミや銅は磁石に吸いつきませんが、落下する磁石には磁気的なブレーキ力が作用するからです(プラスチック管と並べて比較実験するとよくわかります。実験には小さくても強力な希土類磁石が適しています)。

 このブレーキ作用は電磁誘導現象の1種です。理科実験でおなじみのように、コイルに向かって磁石を出し入れすると、コイルに起電力が発生して電流が流れます。この現象はコイルでなくても、金属板などの導体でも起こります。磁石が動くことによって、導体が磁石の磁束変化にさらされると、それに対抗するように導体には反作用磁束が生まれます。これが磁気的なブレーキとなって、アルミ管の中の磁石はゆっくりと落ちるのです。
 この反作用磁束は導体に「渦(うず)電流」という電流が流れることで発生します。変動する磁界の中に置かれた導体、あるいは磁界の中で運動する導体には、磁束に垂直な面内に渦電流が発生します。渦電流は1855年、「フーコー振り子」で知られるフランスの物理学者フーコーによって発見されました。このため渦電流は「フーコー電流」とも呼ばれます。

 トランスのコア(磁心)にも渦電流が発生します。巻線には交流が流されるため、その周波数で磁束変化が起きるからです。コアの中で流れる渦電流は、ジュール熱を発生させます。電気エネルギーの一部が熱となって奪われてしまうので、トランスにおいては損失となってしまいますが、これを逆手にとって利用したのが、火を使わずに金属鍋を加熱する電磁調理器です。コイルに高周波の交流を流すと、発生した磁束は鍋底に渦電流を発生させるので、そのジュール熱によって調理します。これを誘導加熱といいます。ジュール熱は電流の2乗に比例します。鉄や銅などの金属は良導体なので、流れる電流が大きく、きわめて急速に加熱できるのが特長です。そこで、刃物や歯車などの焼き入れなどにも利用されます。これを高周波焼き入れといいます。
(フーコー振り子、渦電流、電磁調理器についての詳細は、本シリーズ・第24回をご参照ください)。

渦電流によるブレーキ作用の簡単な実験


■ 電縫管(でんぽうかん)の高周波溶接に不可欠なフェライトのインピーダコア

 渦電流による誘導加熱は金属を溶解させる特殊な電気炉にも利用されています。耐火材でつくったるつぼの中に金属片(溶解物)を入れ、るつぼの周りのコイルに交流(商用交流〜高周波)を流して磁界を発生させると、金属片に渦電流が発生して、そのジュール熱で溶解します。これを誘導炉といいます。

 誘導加熱は鋼管(鉄パイプ)の製造にも利用されています。その工法から “電縫管(でんぽうかん)”と呼ばれるタイプの鋼管です。電縫管は平たい鋼板を丸めて溶接することで製造されます。四角い紙を丸めてのりづけすれば、紙筒となるのと同じです。電縫とはいいながら“縫う”わけではなく、渦電流のジュール熱を利用した高周波溶接の1種です。

 この工法はなかなか面白いものです。平たい鋼板を送り出して、圧接ローラーによって筒状に丸めたあと、ワークコイルと呼ばれるコイルの中を通過させます。ワークコイルには高周波電流が流されているので、そこから生まれる高周波の磁界により、鋼管の継ぎ目に沿って渦電流が流れます。この渦電流のジュール熱により、継ぎ目が急速加熱されて溶接されるというしくみです。

 電縫管の製造においては、鋼管の中にインピーダコアと呼ばれる磁性体のコアを挿入して溶接されます。磁性体はコイルが発生する磁束を集めるので、鋼管の継ぎ目を効率よく加熱できるからです。しかし、金属系の磁性体では渦電流の発生によって、それ自体が高温に発熱して溶けてしまいます。そこでインピーダコアとして欠かせないのがフェライトです。磁性セラミックスであるフェライトは金属材料とちがって電気抵抗が高いため、渦電流による発熱を低減できるからです。

 ワークコイルには100〜200Aほどの大電流が流され、電縫管は1秒間に数mという速度で製造されます。このため溶接の効率や安定性は、インピーダコアの性能や寿命に左右されてきます。TDKでは蓄積したフェライト技術を駆使、低損失のインピーダコア用フェライト材を開発し、高効率・省電力・高品質な電縫管製造に貢献しています。

るつぼ型誘導炉

 

電縫管の製法とインピーダコア

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