電気と磁気の?館

No.50 回路基板の省スペース革命を推進するフリップチップ実装機

シリコン半導体も“種”から育てられる

その国を代表する動植物として、国花、国鳥、国蝶などが選定されています。日本の国花はサクラ(キクを加える場合もある)、国鳥はキジ、国蝶はオオムラサキです。いずれも法律で定められているわけではありませんが、国石というものもあるのをご存知でしょうか?

日本の国石は水晶とされています。水晶は二酸化ケイ素(SiO2)を成分とする石英の結晶。日本では古くから採掘され、装飾品などとして使われてきました。水晶山・水晶岳という名の山は全国各地にあり、山梨県の水晶峠も近辺の山々で大きな水晶を産出したことに由来します。鉱物学では日本式双晶というのが世界的に有名です。六角柱状の2つの結晶がほぼ90°の角度をなして成長し、ハート形のようになった結晶です。

半導体材料にされるシリコン(ケイ素)は天然の石英(ケイ石)を原料として製造されます。半導体にはきわめて高純度のシリコンが求められます。そこで石英の成分である二酸化ケイ素を還元して、まずは多結晶シリコンにしてから、これを加熱・溶融して結晶引き上げ法という手法により、高純度の単結晶シリコンのインゴット(塊)を製造します。

溶けた物質が凝固するとき、不純物を含むと凝固温度が変わるため、結晶部と不純物を含む部分とが不均一に分かれます。これを偏析(へんせき)といいます。高純度のシリコン単結晶インゴットの製造には、この偏析という現象が利用されています。

結晶引き上げ法には各種ありますが、主流はチョクラルスキー法(CZ法)と呼ばれる方法です。不活性ガス(アルゴンなど)の雰囲気の中で、多結晶シリコンを加熱したるつぼの中で溶かし、そこに種結晶(小さな単結晶)を付けたワイヤを浸すと、種結晶の下面に単結晶が育っていきます。理科実験でミョウバン(明礬)の大きな結晶をつくるとき、種結晶から育てる方法と似ています。るつぼとワイヤを回転させて単結晶を育てながら、ゆっくりとワイヤを引き上げていくと、円柱状のインゴットとなります。結晶化するとき、偏析によって不純物は、るつぼの溶融シリコンの中に残るため、99.999999999%(いわゆるイレブン・ナイン)というきわめて高純度の単結晶シリコンが得られるのです。

日本型双晶 水晶
単結晶シリコン インゴット チョクラルスキー法(CZ法)
ミョウバン 大きな結晶の作り方

“反転”のアイデアで開発されたフリップチップ実装機

結晶引き上げ法で得られた単結晶シリコンのインゴットは、極太ハムのような円柱状で、これをダイヤモンドカッターで薄くスライスしたのがシリコンウェハです。このシリコンウェハの上に、多数の回路素子をまとめて形成してから分割します。これがシリコンチップです。しかし、このままでは回路基板に搭載できないので、シリコンチップの電極にリード線をつける工程が必要になります。

単体(ディスクリート)のトランジスタが利用されていた時代は、手作業でリード線を接合していましたが、シリコンチップとなると手作業では困難となります。そこで、ワイヤボンディングマシンという自動機械が考案されました。チップ上面の電極とチップを乗せたフレーム(金属製の台座)を、ヘッドが配線ワイヤを繰り出しながら、まるでジグザグミシンのような早わざで接合していく装置です。このワイヤボンディングには超音波振動が利用されています。チップの電極にワイヤを押し当てながら、ヘッドから超音波振動を加えると、荷重と摩擦によってワイヤの先端が瞬間的に溶融して電極に接合されます。ワイヤボンディングを終えたシリコンチップは、パッケージングされてフレームから切り離されます。こうして多数のピン(足)がついたムカデのような外観のICとなります。

超音波振動を利用したワイヤボンディングはすぐれた生産技術ですが、シリコンチップに接合されるワイヤが占めるスペースが大きいのが難点です。電子機器の小型・薄型化が進むにつれ、回路基板に鎮座していたICにも、省スペースが要求されるようになりました。そこで導入されたのがCOB(チップ・オン・ボード)という工法です。シリコンチップにワイヤをとりつける前の裸の(ベア)状態のチップを、ベアチップとかベアダイといいます。COBはパッケージなしのベアチップを基板に搭載し、ワイヤボンディングしてから樹脂モールドする方法です。しかし、それでもなおワイヤのスペースはなくなりません。そこで開発されたのが、フリップチップ(FC)ボンディングという工法です。フリップとはひっくり返すという意味。電極があるベアチップ上面を反転(フェイスダウン)させて、電極を基板にワイヤレスでダイレクト接合するという工法です。

シリコンチップの製造法
超音波ワイヤボンディング

電子機器の進化は生産技術の進化によって支えられている

フリップチップボンディングにも、各種の方式がありますが、スピーディかつ高信頼性の接合を特長とするのが超音波を利用した方式です。まずベアチップの電極にバンプという小さな金属突起(金、はんだなど)を設けてから、チップを反転して基板に乗せ、ヘッドからの荷重と超音波ホーンからの超音波振動によりバンプを溶融して接合したあと、基板とベアチップの隙間を樹脂封入(アンダーフィル)するという実装法です(アンダーフィルは不要な場合もある)。

TDKは電子部品や記録メディアのみならず、すぐれたFA機器の提供によっても半導体産業から高い信頼を得ています。その1つがTDKの超音波式フリップチップ実装機(AFM-15)です。その心臓部は荷重を加える実装ヘッドと超音波振動を生み出す超音波ホーン。というのもチップに加える荷重を単純に高めるだけではチップにダメージを与えてしまうので、きめ細かな力加減が重要になります。そこでTDKでは独自の荷重増加プロファイルを編み出し、接触時には衝撃力を少なく、また荷重を加え始めてもたわむことのない高強度・高出力の荷重ヘッドを開発。これにより接合に要する時間を含めて、0.75秒という業界最高の超高速実装を実現しました。

電子機器と生産技術はクルマの両輪のようなもの。すぐれた電子機器を生み出すのは、すぐれたFA機器です。積層セラミックチップコンデンサ、チップインダクタなどで培った先進の生産技術を結集したのがTDKの超音波式フリップチップ実装機。ますます小型・高機能化するモバイル機器や、液晶ディスプレイのバックライトなどにも使用されはじめたパワー(高輝度)LEDの実装などにも、すぐれたパフォーマンスを発揮します。フリップチップボンディングは基板の省スペースのみならず、配線が最短になるので、電気的な特性も向上できるというメリットもあります。高周波化・高速化が進む次世代電子機器にマッチした新たな実装技術です。

フリップチップ実装の仕組み

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