電気と磁気の?館

No.34 漏電ブレーカとノイズ対策用フェライトコア

分電盤が家の中のどこにあるのかご存じでしょうか? ブレーカが落ちないかぎり、ふだんはなかば忘れられた存在になっているのが分電盤。メインのアンペアブレーカの隣に漏電ブレーカも取り付けられています。その原理はデジタル機器のノイズ対策部品にも似た面白いものです。

ブレーカが“落ちる”しくみは電磁石とバネの利用

多数の家電機器を同時使用してブレーカ(配線用遮断器)が落ち、パソコンに入力中のデータが一瞬にして消えて茫然自失といった経験をお持ちの人もいるはず。これは注意していれば防げますが、落雷や自然災害などによる突然の停電に対しては、なすすべがありません。そこで、オフィスや病院などでは、停電が起きたとき瞬時にバッテリの電力に切り替えるUPS(無停電電源装置)が使われます。近年、リチウムイオン電池を内蔵した小型・軽量・長寿命タイプも登場し、UPSは家庭にも普及しはじめています。

家庭の配電線は屋外の電力量計を経由して屋内の分電盤に導かれ、そこから各部屋のコンセントへと分岐されています。分電盤には40Aや50Aなどと契約アンペアが記されたアンペアブレーカと、その横に漏電ブレーカおよび各部屋のコンセントにつながった複数の安全ブレーカが並んでいます。コンセントの容量が超えて家電機器を使用した場合は、その部屋につながる安全ブレーカがOFFとなり、また契約アンペアをオーバーするとアンペアブレーカがOFFとなります。

俗に“ブレーカが落ちる”というのは、開閉器のレバーがバネの力によって戻され、バチンという音とともにOFFとなることをいいます。ご年配には“ヒューズが飛ぶ”という言葉のほうがなじみ深いかもしれません。ブレーカが普及する以前は、ヒューズが収められた陶器製の開閉箱が使われていたからです。容量オーバーで電気器具を使用するとヒューズが飛んで(溶融して)、室内配電がストップします。飛んでしまったヒューズはいちいち交換しなければならず、その手間をなくすことと安全面からブレーカが普及するようになりました。

ブレーカにはいくつかタイプがありますが、完全電磁式と呼ばれるのは、電磁石とバネの力を利用したプランジャの1種です。過電流が流れると可動鉄心がコイルの磁力で固定鉄心のほうに吸い寄せられ、それにともなって作動鉄片が吸着、作動板が電路を遮断するしくみです。

分離盤とアンペアブレーカのしくみ

漏電ブレーカに利用されるZCT(零相変流器)とは?

過電流を遮断するアンペアブレーカや安全ブレーカと違って、漏電ブレーカは家庭内の配電線や家電機器から漏れる電流(漏電)を検知して電路を遮断する器具です。感電事故などの人命を守るためにも、わずかな漏電も見逃さない感度が必要です。

そこで漏電ブレーカにはZCT(零相変流器)が漏電検知に利用されます。ZCTとはドーナツ状の磁性体(フェライトなど)にコイルを巻きつけたもので、磁性体の輪の中に電路の2本の導線を貫通させます。漏電がないとき2本の導線には、往路・復路とも同じ強さの電流が流れます。電流によって磁性体の中に磁束が環状に発生しますが、往路・復路では電流の向きが反対なので、発生する磁界の向きも反対になり、磁性体の中で相殺(キャンセル)されます。これが漏電のない通常の状態ですが、もし配線路のどこかで漏電が起きると、往路と復路の電流の強さに差が生じ、磁性体の中の磁束変化となって現れます。この磁束変化は磁性体に巻かれたコイルに起電力を生み、コイルに微小な電流が流れます(トランスと同じ電磁誘導現象)。

この微小な電流を半導体回路で増幅して電磁石を作動させ、磁力で接点をOFFして電路を遮断するのが、漏電ブレーカのしくみです。 ZCTは電流変化を検知するためのトランスの一種なので、カレントトランスとも呼ばれます。半導体回路による増幅器ではなくリードスイッチを利用したタイプもあります。

漏電ブレーカにはテストボタンが設置されています。これは漏電の有無を確認するのではなく、漏電ブレーカが正常に動作するかを確認するためのもの。ボタンを押すと漏電ブレーカが作動し、停電と同様に電気の供給がストップしてしまいます。パソコンなどを使用している最中に、ボタンを押すことがないようにご注意ください。

漏電ブレーカのしくみと基本原理

漏電のように電子機器に侵入してくるコモンモードノイズ

液晶ディスプレイやキーボード、デジタルカメラなどをパソコンと結ぶUSBケーブルにコブ状のものが取り付けられています。これは筒状のフェライトコアを用いたノイズ対策部品。あとから装着するのに便利なケーブルをはさむタイプもあります。これはクランプフィルタと呼ばれます。

USBはじめ、大容量のデジタル映像や音声を高速伝送するIEEE1394、HDMIなどなどのデジタルインタフェースには差動伝送方式が採用されています。これは位相が180°異なる2つの信号を2本の信号線に乗せて伝送する方式です。2つの信号の山と谷が交互に連なって伝送されるため、ノイズの放射や他のノイズからの影響が小さく、高速伝送が可能なのも特長ですが、実際には2つの信号の微妙なアンバランスなどによりコモンモードノイズが発生します。

電子機器の信号ラインは往路と復路からなります。コモンモードノイズはあたかも漏電のように金属ケースや床などを流れて電子機器に侵入し、往路・復路に無関係に同じ方向に流れるノイズ電流です。このやっかいなコモンモードノイズの対策に、きわめて有効なのがコモンモードフィルタです。

実はUSBケーブルなどに取り付けられるフェライトコアやクランプフィルタもコモンモードフィルタの一種です。差動伝送において、2つの信号の位相がずれたりすると、コモンモードノイズ電流が発生し、ケーブルがアンテナとなってノイズを放射します。コモンモードノイズ電流はケーブル内部の2本の信号線を同じ向きに流れます。そこでケーブルにフェライトコアやクランプフィルタを装着させると、フェライトコア内部に発生する磁束も同じ向きとなり、インピーダンス(交流における抵抗成分)が大きくなってノイズを阻止することができるのです。

電子機器のデジタル化や高速化にともない、ノイズ対策の中心となっているのがコモンモードノイズ対策。安心・安全そして快適なエレクトロニクスライフを実現するため、コモンモードノイズ対策はますます重要になっています。

高速インターフェースケーブルと放射ノイズ
フェライトコアのコモンモードフィルタとしての機能

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