電気と磁気の?館

No.36 鉱物愛が生んだエレクトロニクス素子

宝石のトルマリンは、鉱物学では電気石

蛍石(ほたるいし)という鉱物があります。太陽光にあててから暗い場所に移すと、ぼんやりとした青い蛍光を発することが、その名の由来です。蛍石は西洋では“光のマグネット(光の磁石)”などとも呼ばれました。磁石が鉄を吸いつけるように、蛍石は戸外の光を吸いつけ、暗所で光ると考えたわけです。実際は太陽光の紫外線により、結晶中の電子が励起され、それが元に戻るときに蛍光としてエネルギー放出される現象です。ちなみに英語の蛍光=フルオレッセンス(fluorescence)は蛍石の英名フルオライト(fluorite)に由来し、また、フルオライトとは製鋼において鉄を溶かしやすくする融剤(flux)として蛍石が用いられたことにちなんでいます(英語のflowと同語源)。語源というのは有益な情報を含んでいます。

マグネチック(magnetic)という言葉も、“磁石の・磁気の”という意味のほか、“人をひきつける・魅力的”という意味があり、西洋において昔は何らかの作用でモノをひきつける不思議な現象はみなマグネチックと呼ばれたようです。ニュートンはモノとモノがひきつけあう力をマグネチックなものとして研究して、万有引力の法則を発見しました。また、文豪ゲーテは鉱物マニアとしても知られていて、ゲータイト(針鉄鉱)は彼の名にちなんだもの。カセットテープなどに用いられた針状の磁性粉は、このゲータイトから誘導して製造されます。ICなどに欠かせないシリコン半導体の原料もケイ石。鉱物とエレクトロニクスは古くから深い関係で結ばれているのです。

宝石のトルマリンは、鉱物学では電気石(でんきせき)と呼ばれます。加熱するとチリや灰を吸いつける電気石は、西洋では“セイロン磁石”とも呼ばれました(セイロンとはスリランカの旧称)。チリや灰を吸いつけるのは静電気と似ていますが、摩擦ではなく加熱によって起きるので、学問的にはピロ電気とか焦電気(しょうでんき)と呼ばれます。ピロ/パイロ(pyro)とは、“火・熱”を意味するギリシャ語です。レンズの“焦点”という言葉の語源も、太陽光をレンズで集めると、焦点で紙などが“焦げる”ことからきているようです。

蛍石 電気石

エレクトロセラミックス・ワールドは広大無辺

電界を加えるとプラスとマイナスに電気分極(誘電分極)する物質(絶縁体)を誘電体といいます。
なかには最初から電気分極している物質もあり、その代表的なものが電気石です。電気分極しているとはいえ、通常の状態では空気中のイオンなどと結びつき、電気的に中性の性質を示しています。しかし、これを加熱すると電気分極の性質をあらわにして、チリや灰などを吸い寄せるのです。これが焦電気(ピロ電気)現象です。

焦電体は圧電体の1種です。鉱物結晶においては、外力を加えると電圧が発生するものがあります。フランスのキュリー兄弟(ジャックとピエール。ピエールの妻がキュリー夫人)が、電気石や水晶などで発見した現象で、圧電気(ピエゾ電気)といいます。

摩擦電気(静電気)、焦電気、圧電気と、まぎらわしい言葉が並びますが、原理的にはいずれも誘電体のさまざまなタイプです。興味深いことに、磁性体にソフト材料(軟鉄やソフトフェライトなど)とハード材料(永久磁石材料)があるように、誘電体にもソフトとハードの違いがあります。一般的な誘電体は外部電界によって電気分極し、外部電界を取り除けば元の状態に戻る、いわばソフトな誘電体です。一方、外部電界がなくても自発的に分極している焦電体などは、いわばハードな誘電体です。このうち、外部電界によって電気分極を反転できるものをとくに強誘電体といいます。

こうした自然素材のさまざまな特性を、人工的に実現したのが各種のエレクトロセラミックス材料です。たとえば、圧電体セラミックスは電子ブザーや電子ライターの着火素子などに用いられ、焦電体セラミックスは赤外線センサなどに用いられています。トランスコアなどとして使われるフェライトも磁性体セラミックスです。エレクトロセラミックス材料は、高度に調整された粉末原料を焼成して製造されます。材料設計や焼成プロセス制御などにより、さまざまな特性のものが、安定的に量産化できるため、電子材料と多用されるようになったのです。エレクトロセラミックス・ワールドは広大無辺です。

自然素材とエレクトロセラミックスの関係

自動車の燃費向上にも貢献する積層圧電アクチュエータ

圧電体に電圧を加えると寸法が変化します。これは逆圧電効果とか電歪(でんわい)とも呼ばれます。磁界によって磁性体の寸法変化が起きる磁歪(じわい)と対応した現象です。

圧電体に交流の電圧を加えると、その周波数に応じた伸縮を繰り返して振動します。周波数が20kHz以上の交流電圧を加えると、超音波の発生装置となります。この圧電体の伸縮をたくみに利用したのが超音波モータ(圧電モータ)です。超音波モータは、圧電セラミックスに金属の弾性体を貼り合わせたステータ部、それと対面接触するロータ部からなります。磁石やコイルを用いていないところが、通常の電気モータと大きく異なります。

圧電セラミックスの伸縮は、たとえていえばミミズのような蠕動(ぜんどう)運動のもの。ミミズが身を伸縮させて前進するのと同様に、圧電セラミックスの伸縮運動がロータを回転させるのです。この超音波モータは進行波方式といいます。進行波とは池に石を投げたときに広がる波紋のように、空間内をある方向に進んでいく波のこと。圧電セラミックスの伸縮がステータの金属に波のようなたわみをつくり、それに応じてロータが回転するしくみです。この超音波モータはカメラレンズのオートフォーカス機構などに採用されています。

圧電セラミックスはモータばかりでなく、インクジェットプリンタのヘッドなど(本シリーズ第17回参照)、各種アクチュエータとして応用できます。図に示すのは圧電セラミックスを用いた自動車エンジン用インジェクタの概略図です。かつて自動車エンジンでは、霧吹きと同じ原理のキャブレタで燃料を霧化して燃焼室に送り込んできましたが、近年、最適量の燃料を電子制御でタイミングよく直接噴射するインジェクタに置き換わりました。このインジェクタの噴射バルブを開閉するアクチュエータとしては、電磁ソレノイド(バネとコイルを組み合わせたプランジャ)が用いられてきましたが、それにかわるものとして登場したのが圧電アクチュエータです。圧電アクチュエータは高速高応答が特長。運転状況に合わせた最適タイミングで噴射バルブを開閉するので、燃費向上やパワーアップが可能、環境にもやさしいインジェクタとして採用されるようになりました。
このほかバイオやメディカルなど、圧電アクチュエータの応用はいろんな方面に拡大しています。

超音波モータ しくみ 原理
圧電セラミックス 自動車エンジン用インジェクタ

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