電気と磁気の?館

No.38 家電革命をもたらしたモータの進化とマグネット

静かな洗濯機を実現したダイレクトドライブ式

日本の電力消費量のおよそ半分はモータによるといわれます。エレベータやエスカレータ、電車や産業機械はもとより、OA機器や家電機器でも、さまざまなタイプのモータが活躍しています。これらのモータは電源の違いにより、直流(DC)モータと交流(AC)モータに大別されます。おもちゃの自動車やバッテリ式シェーバなどのモータは、ブラシと整流子(コミュテータ)をもつ直流モータです。

かたや交流モータで最も一般的なのは、誘導モータ(インダクションモータ)と呼ばれるタイプ。構造がシンプルで故障も少ないため、工業動力から家電機器まで、古くから広く利用されています。

従来、電気洗濯機にも誘導モータが使われてきました。日本の家庭用洗濯機の主流は、洗濯槽の底にパルセータ(回転翼)を設けた渦巻式と呼ばれるタイプです。誘導モータの回転数は交流電源の周波数とモータの磁極(ポール)数によって定まります。そのままでは回転数が高すぎるので、ベルトやギアなどで回転数を落として、パルセータを回転させます。ところが、この減速機構が洗濯機特有の騒音や振動を生み出します。

かつて洗濯機はやかましいというのが当たり前でしたが、女性の社会進出などを背景として、深夜や早朝でも近隣に気兼ねなく使える静かな洗濯機が求められるようになりました。そこで、1997年頃から登場したのが、ダイレクトドライブ式の洗濯機です。パルセータにモータを直結させて駆動する方式なので、ベルトやギアなどによる騒音をなくし、また重心とモータの回転軸を一致させることで振動も著しく低減することができるようになりました。振動センサを備えて、より静音化を図った機種もあります。

モータにかぎらず、およそ回転機構をもつ装置に振動はつきもの。これは自動車エンジンの設計が難しい理由の1つにもなっています。液体燃料を用いるロケットエンジン(HⅡロケットのLE-7エンジンなど)でも、燃料を圧縮するためのターボポンプなどをもつため、振動対策にはきわめて高度な技術が要求されます。携帯電話のバイブレータやマッサージ機などは、モータの振動を逆利用したもの。モータはアイデアしだいで、さまざまなアプリケーションが可能です。

洗濯機の基本構造とモータ

インバータ制御により回転数を自由にコントロール

 誘導モータは原理的に負荷(接続するもの)に応じて回転数やトルク(回転力)が変わるモータです。定速回転しませんが、融通がきいてかえって便利なところもあり、動力用モータとして多用されてきたのです。しかし、精密工作機械などでは安定した定速回転のモータが求められます。そこで開発されたのが、電源周波数に同期(シンクロナス)して回転する同期モータです。

誘導モータと同期モータの違いが現れているのはロータの構造です。たとえば円筒形ロータに切り込みを入れて突極をつくり、鉄の歯車のようなロータにすると、ステータ(固定子)が発生する磁束は突極部分に多く通るようになるので、ステータの回転磁界に同期してロータも回転するようになります。これをリラクタンスモータといいます。また、円筒形ロータを永久磁石のマグネットロータにすると、電磁石と永久磁石の吸引・反発によって同期するモータがつくれます。永久磁石の磁極が歯車の歯に相当します。

ダイレクトドライブ式の洗濯機に用いられているモータも、ロータにマグネットを組み込んだ同期モータです。最近の洗濯機は、洗濯物の量、洗いやすすぎの違いなどにより、モータの回転数はきめ細かくコントロールされています。これを実現しているのがインバータ制御です。誘導モータでは回転数が商用交流の周波数によって決まってしまいますが、同期モータはインバータで交流の周波数を変えることにより回転数を自由にコントロールできるのです。

各種センサも搭載され、現在の洗濯機はロボットのような高度な機械になっています。電子制御という頭脳の搭載により、モータはただ回転するだけでなく、考えながら回転する知的なモータへと大きく進化を遂げたからです。

誘導モータ 同期モータ

モータの高効率化に不可欠な磁気シミュレーション技術

マグネットロータ式の同期モータは、ロータ表面に磁石を取り付けたSPMと、ロータ内部に磁石を埋め込んだIPMがあります。また、マグネットロータをステータの外側に配置したタイプはアウターロータ型と呼ばれます。

マグネットロータ式の同期モータの性能を大きく左右するのは何といってもマグネットです。近年はマグネットの中でも最強パワーをもつネオジム磁石が、産業機器や家電機器などにも採用されるようになっています。ネオジム磁石はフェライト磁石よりも高価になりますが、モータの小型・高性能化を実現して省電力化をもたらすからです。

ロータの鉄心内部にマグネットを埋め込んだIPMにおいては、マグネットトルクとともにリラクタンストルク(ステータの磁界によるロータ鉄心部の吸引力を利用する技術)も投入されています。磁束を無駄なく活用することで、高トルク化と省電力化を図る工夫で、コンピュータによる先進の磁気シミュレーション技術が駆使されています。これは航続距離を少しでも延ばしたいHEV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)の駆動モータとしても重要な技術。車輪の中にモータを組み込む“インホイールモータ”も、強力なネオジム磁石と最新のモータ技術あらばこそです。

最強パワーを誇るネオジム磁石にも弱点があります。それは酸化されやすい(錆びやすい)ということです。このため焼成工程はもとより、製造後もめっき(ニッケルや銅など)その他の表面処理によって酸化を防ぎます。TDKのネオジム磁石・NEORECシリーズは、すぐれた磁石特性に加えて表面処理の選択肢が広いことも特長。家電機器などへの利用では、独自の樹脂コートでも十分な耐食性を発揮するため、表面処理のコストを大きく削減できます。省エネ・省資源時代のグリーンなモータパワーは、先進のTDKのマグネット技術と周辺技術が力強くサポートします。

マグネットロータ式の同期モータ SPM IPM

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