電気と磁気の?館

No.40 大型化する風力発電、高効率化を支えるのは強力磁石

クレマチスと総称される園芸植物があります。日本の野生種の名前は“カザグルマ”。8枚の花びら(がく片)が、おもちゃの“かざぐるま”と似ていることに由来します。一般に風車(ふうしゃ)と呼ばれるのは風力を利用した動力装置のことですが、現代の風車は風を利用して電気を作り出し、さまざまなものを動かします。

昭和初期には既に活躍していた風力発電

風車は英語では(ウィンドミル:windmill)といいます。この“mill”とは“ひき臼”のこと。ヨーロッパの風車の多くが、小麦の製粉に用いられたことによるものです。

風車は7世紀頃のイスラム圏で生まれたといわれ、ヨーロッパでは12世紀以降、独自の発達を遂げました。ヨーロッパの風車には、箱型風車と塔型風車の2タイプがあります。風車の羽根は同じ方向を向いているわけではなく、風に合わせて向きを変える仕組みが取り入れられています。羽根をつけた建物全体が回転するのが箱形風車。しかし、これでは大型化が困難なので、のちに高層ホテルの回転レストランのように、建物の上部のみを回転させる塔型風車が開発されました。

風車は地方によってデザインが異なります。ドン・キホーテが巨人と見誤って突撃したスペインの風車は、デザイン的にシンプルな石造りの塔型風車。世界遺産に登録されているキンデルダイクの風車群など、写真や絵画でおなじみのオランダ風車は、曲線的で優美なデザインの塔型風車です。オランダ風車の多くは揚水用です。オランダの国土の4分の1は海面下の干拓地。長大な堤防を築き、多数の風車によって海水を汲み出して、国土を少しずつ広げていったのです。

日本で風車が利用されるようになったのは明治以降で、田畑をかんがいするための揚水用など、小型のものにかぎられました。アメリカから技術導入されたため、日本の揚水用風車のほとんどが、6〜8枚の木製羽根をもつアメリカ農場式の風車です。

このタイプの小型風車を改良したものが、昭和初期に発電用にも用いられました。発電機は、コイルのそばで磁石を動かすと電流が流れる電磁誘導現象を利用して電気を作っています。風車の軸に磁石を取り付け、その周囲にコイルを配置し、風車の回転によって磁石を回転させることで、コイルから電気を取り出すことができます。北海道内陸部の開拓農家など、電力供給が遅れていた地域などでは、200〜300W級の風力発電機が各地で活躍していたのです。

風車の内部構造

航空機のプロペラ技術で効率化された大型風車

発電用風車にはさまざまな種類がありますが、回転軸が地面に対して水平なタイプと垂直なタイプに大別されます。4枚羽根のオランダ型、アメリカの農場などで使われた多翼型、2〜3枚のブレード(翼)をもつプロペラ型などは水平軸方式。特殊形状の輪を回転させるダリウス型や円筒形のロータを回転させるサボニウス型などは垂直軸方式です。

垂直軸方式はどの方向からの風に対しても回転するという利点がありますが、現在では効率的にすぐれる水平軸方式のプロペラ型が風力発電の主流となっています。プロペラ型ではブレードの回転面を常に風向きに合わせる必要がありますが、これはセンサを用いた制御機構によって実現しています。また、ブレードには航空機のプロペラの技術成果が生かされ、効率も格段にアップしました。風車によって得られる運動エネルギーは、理想的な状態で風のもつエネルギーの60%程度が限界とされますが、プロペラ型では45%程度まで取り出すことが可能です。

プロペラ型風車では、風車の中心部(ハブ)にボックス状の格納庫を備えています。これはナセルと呼ばれ、内部には増速器や発電機が搭載されています。自転車で速度が増すほど発電ランプは明るく点灯するように、風力発電でもブレードの回転数が大きいほど発電に有利になります。大型風車のブレードは意外とゆっくりと回転していますが、ギア(歯車)を組み合わせた増速器で回転数を高めて発電しています。しかし、この増速器のギアが騒音問題を起こしたり、またギアの摩擦は効率を落としたり故障の原因にもなります。この課題を解決するために、回転界磁型の多極同期発電機とインバータによって増速器を省略した“ギアレス”方式が採用されることも増えています(発電機についてはこちらの記事もご覧下さい)。

風力タービンの形状・タイプ
大型風力タービン

ギアレス方式の風力発電機は、永久磁石式多極同期発電機というタイプです。コイルに向けて磁石を出し入れすると、コイルに起電力が生まれます。ロータに多数の磁石を配列して多極化することで、低速回転でも高出力が得られます。また、永久磁石の磁気パワーが大きいほど、小型化と高出力が図れるため、ハイブリッド車の駆動モータなどにも使われている強力なネオジム磁石(TDKの商品名はNEORECシリーズ)が、風力発電機にも採用されるようになっています。

日本の脱炭素化の切り札となるか?洋上風力発電

風のエネルギーは、風が通過する面積に比例し、風速の3乗に比例します。地表よりも上空のほうが風が強いので、風車は大型化したほうが効率的です。2020年に運転開始した青森県つがる市のウィンドファームつがるは1機あたりの発電能力3.2MW(メガワット) の大型風車38基からなる国内最大級のウインドファームです(2023年12月末現在)。秋田県の仁賀保高原の仁賀保風力発電所ではさらに大型の発電能力4.3MWの風車を建設中で、2024年1月から稼働を予定しています。

しかし、国土が狭い日本ではウインドファームに適した立地は限られています。また、大型風車の建設には、長大な資材や建設用重機を運ぶための道路も必要で、いかに風況がよくても険しい山中などに建設することは困難です。そこで注目されているのが洋上風力発電です。洋上は陸地よりも強い風が安定的に得られるうえ、騒音問題なども解消できるからです。日本政府は2020年に「洋上風力産業ビジョン」を策定し、2040年までに最大45GW(ギガワット)を掲げています。2023年1月には秋田県秋田港港湾地域・能代港港湾地域で合わせて発電能力138MWの巨大洋上風力発電所が国内初の商業運転を開始しました。

大型風車をブイ(浮き)のように浮かべて海底にワイヤで固定したり、洋上に巨大なイカダのようなものを浮かべて、その上に大型風車を建設するフロート式(浮体式)なども提案されています。フロート式は水深が50m以上の深い沖合でも建設でき、遠浅の海域が狭い日本近辺でも洋上風力発電を展開しやすくなります。2024年1月には、日本初のフロート式洋上ウィンドファームが長崎県五島列島沖で商業運転を開始します。

洋上風力発電普及には、風車の建設費用をはじめとするコストの削減が課題となります。2023年10月、経済産業省は、フロート式の洋上風力発電低コスト化をはかるための技術実証候補区域として、秋田県由利本荘市・にかほ市沖など4地区を選定しました。2030年までにこのうちの2つの海域で大型風車によるフロート式風力発電の実証事業を行います。

山国である日本は陸上の風力発電の立地には恵まれていませんが、四方を海に囲まれた海洋国であるのは大きなメリット。洋上風力発電を国家プロジェクトとして推進することで、日本列島全体の脱炭素化を促進することも可能でしょう。強力なネオジム磁石を利用した多極同期発電機の採用などにより、この10年あまりで風力発電技術は急速に進歩しました。日本が風力発電の先進国へと飛躍する絶好のチャンスともいえます。

風力タービンの永久磁石式発電機の原理
永久磁石
洋上風力発電

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