電気と磁気の?館

No.33 レーザと光エレクトロニクス

DVDレコーダやレーザプリンタ、光通信はじめ、工業分野ではレーザ加工、医療分野ではレーザ内視鏡やレーザメスなど、身の回りでレーザは広く応用されるようになりました。レーザは自然界には存在しない人工的な光。いったい、どのような発想で開発されたのでしょうか?

レーザポインタにも使われている半導体レーザ

ビジネスや研究発表、学校教育などで、プロジェクタによるプレゼンテーションが行われます。このとき指示棒がわりにレーザポインタが使われるようになりました。レーザ光は指向性にすぐれ、明るい小さなスポットとして照らすことができるからです。やや高価格ですが、従来の赤色光のレーザにかわり、より視認性にすぐれた緑色光のレーザポインタも登場しています。

単なるポインタとしてではなく、最近では無線技術を利用して、ページ送り・戻しなどができる機種も人気を呼んでいるようです。パソコンのUSBポートに受信機を挿し込み、レーザポインタから送られる電波で、パソコンをワイヤレスで遠隔操作させる方式です。

レーザポインタの光源は半導体レーザです。半導体レーザはレーザダイオード(LD)とも呼ばれるため、発光ダイオード(LED)と混同されたりしますが、両者が放つ光は大きく異なります。発光ダイオードは“自然放出”、半導体レーザは“誘導放出”という原理によるものです。

光の色は波長によって決まります。自然放出の光(自然界の光やLEDの光など)は、波長が一定でも位相や波形がそろっていない光です。一方、レーザ光は位相も波形もそろった自然界にはない光で(これをコヒーレント光という)、強い指向性をもっています。自然放出光を気ままな群集の闊歩にたとえれば、レーザ光は訓練された軍隊のように、歩幅も歩調もそろった整然たる行進です。レーザ光により地球と月までの距離はきわめて正確に計測できるようになりました。アポロ計画で月面に反射鏡が置かれたので、月面に向けたレーザ光が地球まで戻ってくるのです。

レーザポインタの基本構造

共振器に閉じ込められた光が、レーザ発振を起こして外に飛び出す

20世紀最大の発明の1つといわれるレーザは、もともと無線通信から生まれた技術です。高周波技術の発達とともに、第2次世界大戦の戦中から戦後にかけて、より短波長の電波を利用するための新たな発振器が求められるようになりました。前号(本シリーズ「No.32 電子レンジの仕組みとは?加熱の原理や基本構造を解説」参照)でご紹介したマグネトロンも、こうした時代背景においてレーダ用に改良が重ねられたマイクロ波発振器で、これがのちに電子レンジへの応用へとつながりました。

マグネトロンでは空洞共振という原理で電波の発振を実現していますが、マイクロ波よりも波長の短いミリ波以下の発振器を実現するために、分子や原子の利用が模索されました。分子や原子はある決まった周波数の電波を吸収します。そこで、その周波数でエネルギーを補給し続ければ、分子や原子は共振(共鳴)現象を起こして、ついには発振するはずだという考え方です。こうして1955年には、アンモニアガスを分子発振器として利用したメーザが開発されました。このメーザよりもさらに短波長の可視光領域の発振器として実現したのがレーザです。

初のレーザは1960年にアメリカのメイマンによって開発されました。これは棒状のルビー結晶にキセノンランプを巻き付けた構造の、手のひらに載るほどの小さな装置でした。ルビー結晶にキセノンランプから強い光を照射すると、ルビー結晶中の原子はエネルギーを得て励起され、励起状態から基底状態に戻るとき一定波長の光が放出されます。この光はまだ位相も波形もそろっていませんが、光がルビー結晶の両端で反射を繰り返すうちに、“類は友を呼ぶ”がごとく、位相も波形もそろって増幅され、ついには発振して外部に飛び出します。これがレーザ光です。半導体レーザは、ルビー結晶のかわりに半導体素子を用いたもの。多層構造の半導体の活性層が、ルビー結晶と同様の発振器として機能します。

ルビー結晶による初のレーザ装置とその原理
半導体レーザの基本構造

ブルーレイディスク(BD)の実現に貢献したTDKの技術

革新的な技術というのは忽然として生まれるものではなく、必ずルーツと系譜があるものです。メーザなくしてレーザなく、マグネトロンなくしてメーザなく、真空管なくしてマグネトロンなく、電球なくして真空管も生まれませんでした。半導体レーザが利用されているCD/DVDプレーヤなどでも同じことがいえます。アナログレコードなくしてCDやDVDなく、蓄音機なくしてアナログレコードも生まれませんでした。ちなみに電球も蓄音機もエジソンの発明品。やはりエジソンは偉大な発明王です。

書き込みあるいは書き換え可能なCDやDVDでは、半導体レーザのレーザスポットによって記録・再生が行われます。レーザスポットの大きさは波長によって決まってくるので、より大容量化を図るために、従来の赤外線(CD)や赤色(DVD)のレーザ光よりも、さらに短波長の青紫色のレーザ光が利用されるようになりました。これがブルーレイディスク(BD)です。

当初のブルーレイディスクはカートリッジに収められていました。きわめて小さなレーザスポットが使用されるため、ディスク表面の保護層に傷や指紋などがつくと、光の屈折や散乱などにより、データの読み書きエラーが発生してしまうからです。この問題を解決して、現在のようなカートリッジなしのベアディスクを実現したのが、DVDで培ったTDKのスーパーハードコーティング技術。また、ブルーレイディスクのさらなる大容量化を実現する多層化技術にも、TDKの先進的な薄膜技術が駆使されています。レーザが誕生してからまだ1世紀足らず。まだまだいろんな応用可能性が広がっています。

光ディスクのレーザー波長とスポット径の比較
TDKのブルーレイディスクの断面構造

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

電気と磁気の?館

No.34 漏電ブレーカとノイズ対策用フェライトコア

電気と磁気の?館

No.35 小型化を可能にしたマイクロホンの技術系譜

テクノロジーの進化:過去・現在・未来をつなぐ

AR・VRとは?エンターテインメントのあり方を変えるその魅力

PickUp Contents

PAGE TOP