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No.32 電子レンジの仕組みとは?加熱の原理や基本構造を解説

電子レンジは日本の家庭では100%近い普及率に達しています。電子レンジはレーダ技術から偶然のヒントを得てアメリカで開発され、日本の技術で進歩を遂げた調理器具。高周波電界を利用したその加熱方式は、木材の接着や食品の乾燥などにも活用されています。

電子レンジの加熱の原理

電気を利用した調理器としては、ニクロム線などの発熱体を利用した電熱器や電気オーブンが古くから使われてきました。電磁調理器や電子レンジは発熱体を用いない調理器です。以前ご紹介したように(本シリーズ第24回)、電磁調理器は高周波コイルによって鉄鍋などの金属に発生する渦電流のジュール熱を利用したもので、“誘導加熱”という方式。かたや電子レンジはこれとは異なる“誘電加熱”と呼ばれる方式です。

物体の温度は構成する粒子(分子や原子など)の振動の度合によって決まります。加熱によって温度が高まるのは、粒子の振動がより激しくなるからです。電子レンジは英語でマイクロウェーブ・オーブン(microwave oven)というように、食品に含まれる水分子をマイクロ波(2.4GHz)で振動させることで加熱します。H2Oという化学式で表される水分子は、酸素原子Oを中心に、“く”の字型に折れ曲がった構造をしています。このため分子全体の電荷分布は、わずかながらプラスとマイナスに偏った電気双極子となっています。この水分子に高周波の電界を加えると、電界の反転に応じて電気双極子である水分子も回転・振動し、互いに摩擦しあって熱を発生します。これが電子レンジの誘電加熱です。簡単にいえばマイクロ波のエネルギーが水分子に吸収されるわけです。大雨が降り出すと衛星放送の映りが悪くなるのも、雨滴にマイクロ波が吸収されてしまうからです。

電子レンジの内部がステンレスなどの金属で覆われているのは、電波をよく反射させるためと、電波漏れを防止するシールドが目的です。電波漏れを起こすと無線LAN(IEEE802.11b/g製品)の電波と干渉する場合もあります。電子レンジを使うたびに無線LANが切断したり、通信速度が遅くなるといった症状が出たら、電子レンジの不具合を疑ってみるべきでしょう。

電子レンジの基本構造と加熱原理

電子レンジで食品を加熱する時の注意点

電子レンジは食品に含まれる水分子をマイクロ波で振動させて加熱することを前述しました。水分をほとんど含まないような根菜類や乾物を加熱する時には、発火する可能性があるので十分注意が必要です。殻がある卵や栗、膜があるたらこやウインナーも注意が必要です。マイクロ波により内部の水分が膨張して殻や膜に圧力がかかり、破裂する恐れがあります。卵は割りほぐし、たらこやウインナーは膜に切り目を入れて、水蒸気の逃げ道を確保した状態で加熱しましょう。また、飲み物やカレー、スープなどの液体を加熱する時にも注意が必要です。これらを加熱しすぎると、突沸現象が生じることがあります。通常液体は沸点に達すると沸騰しますが、液体の成分や加熱条件によっては沸点に達しても沸騰しない場合があります(過加熱状態)。突沸とは、過加熱状態の液体に振動などの刺激が加わると、突然爆発するように激しく沸騰する現象です。適切な温め時間と出力に設定して、突沸現象が生じないように十分注意しましょう。

電子レンジのマグネトロンとマイクロ波発振の仕組み

食品中の水分子を振動させて加熱する電子レンジは、何とも奇想天外な調理器です。それもそのはず、実は電子レンジはレーダ技術から偶然生まれた発明品だったのです。レーダは1930年代のイギリスで開発され、第2次世界大戦時のアメリカで進歩を遂げました。電子レンジが発明されたのは大戦直後の1946年。レーダメーカーの技術者がレーダ電波を浴びたとき、ポケットに入れていた菓子が溶けたことからヒントを得たといわれます。

レーダ技術のそもそもの始まりは、無線通信に影響を与える電離層の研究でした。空に向けて電波を放って反射波の観測を続けているうちに、やがて航空機も電波を反射することがわかり、第2次世界大戦中には飛来する敵機の探知用に対空レーダが研究されるようになりました。航空機の探知には、より波長の短い電波が必要とされ、マイクロ波(およそ波長1〜10cm)を発振するマグネトロンが開発されたのです。
このマグネトロンが電子レンジの心臓部にもなっています。

マグネトロンは磁石による磁界を加えた特殊な二極真空管です。磁界中を運動する電子にはローレンツ力が作用して、電子の軌道は曲げられます。そこで、二極真空管の電極構造を工夫して外部から磁界を加えると、陰極から放出された電子は陽極に届かず、陰極のまわりを回転運動をしながら周回するようになります。この振動を陽極側に設けた空洞で共振させ、アンテナからそのエネルギーを電波として取り出すのがマグネトロンです。初のマグネトロンはアメリカのハルによって考案されましたが(1916年)、分割型陽極というアイデアでマイクロ波発振の道を開いたのは日本の岡部金治郎です(1927年)。(電子レンジのマグネトロンについては、こちらの記事で詳しく解説しています。)

電子レンジのマグネトロンとマイクロ波発振のしくみ
電子レンジのマグネトロンの基本構造

木材や食品などの乾燥にも、誘電加熱が活用されている

世界初の電子レンジは1947年にアメリカで販売されました。しかし、当初は高価なうえ大型の装置であったため、一部のレストランなどで使われるだけでした。電子レンジの普及に貢献したのは、マグネトロンの小型化と低価格化です。これは主に日本メーカーの技術によるものです。アルニコ磁石にかわるフェライト磁石の採用も低価格化に大きく寄与し、1970年代に急速に普及するようになりました。

誘電加熱の利用は電子レンジだけではありません。電子レンジの普及以前から、高周波を利用した誘電加熱は木材の乾燥や接着など、工業分野で活用されてきました。たとえば、太い角材の乾燥も、減圧下の誘電加熱により、きわめて短時間ですみます。また、厚い特殊合板などは接着剤を塗布して貼りあわせてから、平行電極の間に置き、電極からの高周波電界により加熱・接着されます。木製の食卓テーブルなどには、細長い角材・板材をつなぎ合わせた集成材が使われていますが、この集成材の接着にも誘電加熱が用いられます。電極の配置により、ある部分だけを選択加熱することも可能で、すだれ状の金属棒の交互を高周波の電極とすると、表面だけを加熱することができます。

秋田県の郷土工芸品として有名な“曲げわっぱ”は、スギやヒノキの薄い板を湯に浸し、曲げやすくして細工します。これは“湯曲げ”という手法です。誘電加熱は木材内部に高温の水蒸気を発生させて煮沸と同じ効果をもつので、厚い木材の曲げ加工も容易にします。誘電加熱は木材加工ばかりでなく、お茶や繊維の乾燥などにも利用されています。日々の暮らしの中で、私たちはずいぶん誘電加熱のお世話になっているわけです。

木材加工への誘電加熱の応用
表面だけの選択加熱

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