電気と磁気の?館

No.28 磁石は永遠にマグネチック

モータやスピーカほか、身近な電気・電子機器のほとんどに磁石が利用され、自動車にも多数の小型モータが使われています。世界の磁石生産量の90%以上(重量ベース)はフェライト磁石。天然磁石(磁鉄鉱)というのは、実は地球が産んだ天然のフェライト磁石です。

裏針は日本独特の羅針盤

紙、印刷術、火薬とともに中国の四大発明といわれるのは羅針盤(方位磁石)。その語源は、中国の風水術で地相占いに使われる“羅盤”という方位盤。この“羅盤”の中央に方位磁針を組み込んだので羅針盤と呼ばれるようになったのです。

 磁石が南北を指し示す指極性は、中国では紀元前の昔から知られていました。文献において中国最古の方位磁石といわれるのが“司南之杓(しなんのしゃく)”。 天然磁石(磁気を帯びた磁鉄鉱)をチリレンゲ(中華スプーン)のような形に削ったものといわれ、これを平らな板上に置くと、回転して南北を指したと説明されています。また、天然磁石を木片に組み込み、水に浮かべて南北を指すようにしたものは“指南魚(しなんぎょ)”と呼ばれ、のちに磁針をワラなどに刺して水に浮かべたものや、磁針をピボットに立てたものも使われるようになりました。

 中国の指南魚や羅針盤には、右回りに十二支(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)が方位目盛として記されています。子(ね)が北、午が(南)の方角で、ここから地球の南北方向の経線は子午線(しごせん)と呼ばれます。日本海〜瀬戸内海を航路とする北前船(きたまえぶね)など、江戸時代の和船では、十二支が通常とは逆の左回りに記された特異な羅針盤が使われました。 これを“裏針(うらばり)”とか“逆針(さかばり)”といいます。

 ふつう羅針盤は磁針の向きに方位盤の南北の向きを合わせ、そこから進むべき方角を求めます。しかし、日本の裏針では方位盤の“子”の字を船の進行方向に固定します。こうすると、磁針の指す文字盤の十二支が、船の進んでいる方角となります。ややこしいようですが、舵の取り方には裏針のほうが便利だったようです。ちなみに船の舵取りで、左折を取舵(とりかじ)、右折を面舵(おもかじ)といいます。これは裏針の方位盤では右舷は酉(とり)、左舷は卯(う)となっているので、舵を右舷方向に動かして左折することを“酉(とり)舵”といい、左舷方向に動かして右折することを“卯(う)の舵”と呼んだことに由来します。
 

メロディロード(歌う道路)

 

ステレオレコードとクリスタルピックアップのしくみ

■ 天然磁石より強い磁石を昔はどうやってつくったか?

 羅針盤は12世紀頃にアラビア商人によって西洋に伝えられ、コンパスと呼ばれて航海に使われるようになりました。中国の羅針盤は磁針が回転しますが、西洋のコンパスではコンパスカードと呼ばれる方位盤そのものが回転して南北を指すしくみになっています。表面から磁石らしきものが見えないのは、磁石がコンパスカードの裏に取りつけられているからです。この時代の磁石は、天然磁石を鉄にこすりつけてつくられました。天然磁石というのは磁鉄鉱が地磁気などにより自然に磁化した鉱物です。天然磁石の磁力は微弱なので、羅針盤の磁石もわずかに磁気を帯びる程度でしたが、それでも航海にはなくてはならない貴重な道具でした。

 天然磁石をこすりつけるだけでは、天然磁石を超える磁力の人工磁石はつくれません。そこで、18世紀ヨーロッパでは磁石の磁力を高めるために、ダブルタッチ(double touch)法という方法が開発されました。まず天然磁石を鉄棒にこすりつけて2つの磁石をつくります。次にこの2つの磁石のN極とS極を、鉄棒の中央から両端へとこすりつけて鉄を磁化すると、元の磁石よりも少し強い磁石となります(下図)。これを繰り返すことで、天然磁石よりもはるかに強力な人工磁石がつくれるようになったのです。

 19世紀になると、電池の電流とコイルを利用して電磁石がつくられるようになりました。また、鋼にコイルを巻きつけて電流を流すと、鋼は磁化されて永久磁石となることも知られるようになりました。ただ、通常の鋼(炭素鋼)では、大電流を流してもそれほど強力な永久磁石とはなりません。そこで、19世紀半ば頃から磁石合金の研究がさかんになりました。1917年、本多光太郎は日本刀づくりの伝統技術などを生かして、当時として世界一強力な磁石鋼を発明しました。これが有名なKS鋼です。

大航海時代の西洋の羅針盤(方位コンパス)

 

ダブルタッチ法による磁石の磁力の強め方

■ フェライト磁石の進化は今なお続いている

 1933年に東京工業大学の加藤与五郎教授と武井武助教授によって、画期的な「O・Pマグネット」が開発されました。これが世界初のフェライト磁石です。フェライトの主原料は酸化鉄で、陶磁器のように粉末材料を成型・焼成して製造されます。つまりフェライト磁石とはセラミック磁石なのですが、当時、磁石というのは金属というのが常識で、陶磁器のような材料が磁石になるというのは、科学界にとっても想定外の発見でした。天然磁石は2種類の酸化鉄が立体モザイクのような結晶構造をつくった複酸化物です。「O・Pマグネット」もまた天然磁石と同じ結晶構造(スピネル型)をもつ磁石材料でした。つまり天然磁石というのは地球が生んだ天然のフェライト磁石だったわけです。

 1950年代には別の結晶構造(マグネトプランバイト型)のフェライト磁石が開発され、スピーカやモータなどに広く使われるようになりました。きわめて強力な希土類磁石(サマリウム・コバルト磁石やネオジム磁石)が開発されてもなお、現在、世界で使用される永久磁石の90%以上(重量ベース)はフェライト磁石です。酸化鉄が主成分なので原料枯渇の心配がなく、コストパフォーマンスにすぐれるからです。パワーウインドウ、パワーミラーなど、現在の自動車にはフェライト磁石を利用した小型DCモータが多数搭載されています。フェライト磁石の進化は今なお続いています。微量添加物による高度な材料設計、焼成工程の結晶微細構造のコントロールなどにより、TDKが新開発したFB12材は、従来のFB9材の特性をしのぐ世界最高クラスのフェライト磁石材料です。

 磁石に由来するマグネチック(magnetic)という言葉には、“人を引きつける、魅了する”という意味があります。もし、遠い宇宙に知的生命が存在しているとしたら、彼らもまた鉄を引きつける磁石に魅了され、さまざまな応用を考えついているにちがいありません。なぜなら磁気作用というのは宇宙の根本現象であり、鉄というのも宇宙ではごくありふれた物質だからです。磁石はいつの時代にもマグネチックです。

DCモータとフェライト磁石 フラットスピーカとフェライト磁石
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