電気と磁気の?館

No.29 プレートテクトニクス理論と光磁気ディスク

地震や火山活動、そして大陸移動の成因まで、みごとに解明したのがプレートテクトニクス理論。サハラ砂漠に氷河作用の痕跡があるのも、かつてアフリカは極地に位置していたことを示します。大陸移動の証拠となったのはテープレコーダの原理に似た地磁気の記録です。

地球の内部構造はどうしてわかる?

地球の構造は、ひび割れた半熟卵あるいは温泉卵にもたとえられます。黄身が核(コア)、白身がマントル、殻が地殻というわけです。地球を透視できるわけではありませんが、これはいろんなデータから間接的に証明できます。

 たとえば、地球の平均密度(5.52g/cm3)は、岩石の密度よりも大きいので、地球深部は岩石より重い金属であると考えられます。また、原始地球は無数の隕石(微惑星)が合体して形成されました。現在もなお地球に降り注ぐ隕石のうち、最も一般的なのはコンドライト隕石というタイプで、その組成を調べてみると、岩石成分のほかに、かなりの鉄が含まれています。このことから地球の核は鉄が主成分であることがわかります。さらにまた、地震波の伝達速度の分布などからも、核・マントル・地殻の層構造が推定できるのです。

 地殻と上部マントル層を含む厚さ数十kmの岩石層をプレートといいます。地球表面は10数枚のプレートで覆われています。下部マントルもまた岩石からなりますが、高温のため流動性をもち、マントル対流と呼ばれる熱対流を起こしています。地球を覆う10数枚のプレートはこのマントル対流によって移動するというのがプレートテクトニクス理論。プレートどうしの衝突や摩擦により、火山活動や地震が起きることも明らかにされました。

 プレート運動は年間数cmほどのわずかなものですが、「チリも積もれば山となる」というように、数千万年もたつと1000km以上も移動することになります。たとえば、南米大陸とアフリカ大陸はかつて合体していましたが、約1億年前にプレート運動によって分裂・移動して現在に至っています。また、インドも独立した亜大陸でしたが、プレート運動によって北上してユーラシアプレートに衝突し、その圧力で地殻を隆起させてヒマラヤ山脈を形成しました。エベレストの山腹から海生生物の化石が発掘されるのは、この地層がかつて海底であったことを物語ります。プレートの圧迫によりヒマラヤ山脈は今なお成長を続けています。2008年5月の中国・四川大地震は、この圧迫エネルギーによって発生した巨大地震です。

地球の内部構造

 

プレートテクトニクスと大陸の移動

海洋底の拡大はテープレコーダに似たしくみで実証された

 気象学者ウェゲナーが1912年に“大陸移動説”を提唱したとき、学会からは無視同然の扱いを受けました。重い大陸が海上を漂流して移動することなど科学的にありえないからです。実は“漂流”していたのは大陸や海洋を乗せている厚い岩盤のプレートでした。異端視されていたウェゲナーの仮説は、発表から半世紀後の1960年代に、プレートテクトニクス理論としてよみがえりました。そのきっかけとなったのは、プレートが分裂・移動するメカニズムを説明する“海洋底拡大説”です。これは地球内部からのマントル対流の上昇によってプレートに亀裂が生じ、そこにマントル物質が噴出して、海洋プレートを左右に押し拡げていくという仮説です。ゆで卵がひび割れると、中から白身が噴出して、殻を押し拡げるのと似ています。海洋底拡大説によれば、大西洋などの海底に連なる海嶺(海底山脈)は、海洋プレートを新生している地球のひび割れだというのです。

 海洋拡大説は地磁気の逆転現象と組み合わせることでみごとに証明されました。海底で噴出した高温のマントル物質は、冷えて岩石として固まるとき、地磁気によって磁化されます。ところが、地磁気は数十万年単位で逆転を繰り返しているので、岩石に残る地磁気の方向もそのつど逆転します。洋上というのは地上と違って、磁気ノイズが少ないので、地磁気が精密に計測できます。

したがって、洋上では乱れのない安定した地磁気データが得られるはずですが、実際に海嶺の左右方向に測定してみると、縞状の磁気異常が現れました。これは海底プレートが縞状の磁気パターンをもつことを意味します。これこそ過去数千万年間における地磁気の逆転のようすが、海洋プレートの岩石に記録されたものだったのです。

これはテープレコーダのしくみと似ています。つまり拡大する海洋底が磁気テープ、地球磁場が磁気ヘッドのように作用して、地磁気逆転のパターンが磁気記録されていたわけです。こうして壮大な仮説であったプレートテクトニクス理論は、疑いないものとして受け入れられるようになりました。

海洋底拡大の証拠となった縞状の磁気パターン
海洋底拡大の証拠となった縞状の磁気パターン
 
 

光磁気ディスクのMOやMDはレーザ光の熱を併用した磁気記録方式

 鉄などの磁性体はある温度以上では、磁性体の性質を失います。これをキュリー温度(キュリー点)といいます。マントル物質や溶岩などは高温状態では磁化されませんが、キュリー温度以下に冷えてプレートや岩石となるときに地磁気によって磁化されるのです。

 小型・大容量のHDDや安価な半導体メモリが普及するまで、パソコンの外部記憶媒体などに光磁気ディスクのMOが使われてきました。データ記録用であるMOをポータブル音楽プレーヤ用に発展させたのがMD(ミニディスク)です。海洋底拡大の証拠となった縞状磁気パターンの形成メカニズムは、テープレコーダよりも、むしろMOやMDのしくみに似ています。

 MOやMDがフロッピーディスクやHDDなどの磁気ディスクと違うのは、レーザ光の熱が磁気記録に併用されているからです。このため光熱磁気記録とも呼ばれます。

 MOとMDの記録方式は若干異なります。MOではまずレーザ光の熱で磁性膜をキュリー温度以上に高め、外部電磁石の磁界により、磁性膜を一定方向に磁化して初期化します。信号を記録するときは、外部電磁石から逆向きの磁界を加えた状態で、信号に応じたパルス状のレーザ光を照射します。するとハイパワーのレーザ光が当たった部分だけ磁性膜の磁化が反転して、信号が磁気記録されるというしくみです。レーザ光のパワーの切り替えで記録するので光変調方式と呼ばれます。一方のMDでは、磁性膜に一定パワーのレーザ光を照射しておき、外部電磁石の磁界の反転により、NまたはSのパターンを磁性膜に記録していく方式で、初期化なしに上書き可能です。これは磁界変調方式と呼ばれます。

 MOやMDは今ではあまり見かけなくなりましたが、過去のものとして忘れ去るには惜しい技術が投入されています。いずれまた別のかたちで応用され、活躍するかもしれません。

MOの記録原理(光変調方式)

 

MDの記録原理(磁界変調方式)

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