電気と磁気の?館

No.16 温度を感じるセラミックス

磁性セラミックスであるフェライトは、さまざまなセンサとしても応用可能。たとえば周囲の温度に応じて接点をON/OFFする感温リードスイッチは、フェライト磁石(ハードフェライト)とソフトフェライトである感温フェライトとを組み合わせた温度センサ。身近なところでは温水洗浄便座ほか、水道凍結防止用ヒータの温度センサなどとして活用されています。

近代製鉄技術の草分けとなった反射炉とは?

東京の観光名所・デートスポットとなっているお台場海浜公園の“台場”とは、大砲を据える砲台場という意味。ペリー率いる黒船の来航(1853年)に危機感を抱いた幕府が、江戸防備のために突貫工事で築造したもの。品川沖に計12か所の台場が計画されましたが、実際に築造されたのは7か所で、現在、残るのは第3台場と第6台場です。築造場所を品川沖に選んだのは、ここが江戸湾の澪(みお)すじ(船舶の航路となる水深の深いところ)だからです。ちなみに和歌などに詠まれる “みおつくし”とは、澪すじを知らせる航路標識のことで、大阪市の市章にもなっています。

幕府が巨費を投じた台場工事の指揮にあたったのは、伊豆韮山(静岡県伊豆の国市)の代官・江川太郎左衛門(江川英龍)。歴史教科書などに載っている有名な韮山反射炉は、台場に据える大砲を鋳造するため、江川太郎左衛門が設計・築造したものです。

鉄鉱石をあまり産出しない日本では、製鉄技術は古代の頃より、砂鉄を原料とする“たたら製鉄”が主流となっていました。抜群の切れ味を誇る日本刀が製造されたのも、たたら製鉄によって良質の玉鋼(たまはがね)が得られたからでした。しかし、このために日本では幕末まで大砲を鋳造できるほどの大型の炉がありませんでした。そこで、江川太郎左衛門は西洋の技術書などを参考に反射炉を築造したのです。

反射炉は鉄鉱石を溶かして鉄を得る高炉(溶鉱炉)とはタイプが異なり、アーチ型天井の炉を煙突の脇にもつのが特徴。燃料の炎や熱を天井や壁で反射させ、炉の中に置かれた銑鉄(せんてつ)などを溶かすため反射炉と呼ばれます。溶かした鉄は出湯口(湯とは溶けた鉄のこと)から鋳型に流し込んで大砲の砲身などを鋳造しました。現存する反射炉は世界的にも珍しく、韮山反射炉は国指定史跡として保存されています。

みおつくし  韮山反射炉の構造

フェライトは世界に誇る日本の独創的な発明

19〜20世紀はさまざまな金属の精錬技術が、世界的に急発達した時代でした。幕末の反射炉は一時的にしか使用されませんでしたが、明治以後の日本の製鉄技術の進歩はめざましく、その一方で、鉄をはじめとする磁性材料の研究レベルも短期間で欧米と肩を並べるようになりました。

今日のエレクトロニクスに不可欠な磁性材料であるフェライトもまた、1930年代初頭、東京工業大学の加藤与五郎博士・武井武博士により、亜鉛精錬の研究から偶然、発見されました。湿式冶金工法による亜鉛精錬において、亜鉛と鉄の酸化物である亜鉛フェライトが残りかすとして産生します。亜鉛の収率を高めるため、この残りかすを減らす研究実験をしていたときのことです。うっかり測定機器のスイッチを切り忘れ、一晩、磁気をかけっぱなしにしていたサンプルが、翌日、磁気を帯びて磁石になっていることが発見されました。

さらに、さまざまな組成のフェライトをつくって研究を進めるうちに、高周波領域においては従来の鉄系磁性材料よりも低損失の材料が得られることもわかりました。ちなみに、TDK(旧社名:東京電気化学工業)は、加藤・武井両博士が発明したフェライトを製品化して世に送り出すことを目的に設立されました(1935年)。TDKのフェライト製品は、戦前日本において、通信機のアンテナコイルのコア材料などとして、世界に先駆けて実用化されていたのです。

磁性材料には硬磁性(ハード)材料と軟磁性(ソフト)材料の2タイプがあります。硬磁性材料は外部磁界を加えると磁化され、外部磁界を取り去っても磁化を残して永久磁石となる材料のこと。たとえば一般的な鋼(スチール)やフェライト磁石材料であるハードフェライトは硬磁性材料です。一方、外部磁界によって一時的に磁化するものの、外部磁界を取り去れば磁化をなくして、元の状態に戻るのが軟磁性材料です。軟鉄やトランスのコア材料などに使われるケイ素鋼板やソフトフェライトは代表的な軟磁性材料です。ハードフェライトもソフトフェライトも、今日のエレクトロニクス社会を根底から支える重要な電子材料となっています。

磁性材料 硬軟タイプ(ハード or ソフト) 磁化 違い

ハードとソフトのフェライトをたくみに組み合わせた感温リードスイッチ

磁性体を加熱していくと、ある温度で磁石に吸いつかなくなります。この温度をキュリー温度といいます。フェライトもまたキュリー温度以上では磁性体としての性質を失います。これをたくみに利用したのが感温リードスイッチです。その動作モードには、環境温度が設定温度(キュリー温度)以上になると接点OFFとなるブレイクタイプと、逆に接点ONとなるメークタイプの2種類があります。ここではブレイクタイプについて、その動作原理を説明します。

軟磁性である感温フェライトは、磁束をよく引き込んで吸収する性質があり、図に示すように、通常状態ではフェライト磁石から出る磁束は、感温フェライトの中を通り、全体が1つの磁石のようになります。このため、磁束は鉄のリード片の中を流れて大きなループを描き、リード片も磁化されて互いに吸着し、接点が閉じることになります。ここで、環境温度がキュリー点以上になると、感温フェライトは磁性体としての性質を失い、磁束を引き込まなくなります。こうなると2つのフェライト磁石の磁束は、それぞれ小さなループを描くため、リード片どうしの磁気的な吸着力は極端に小さくなり、リード片自らのバネ弾性力によって接点は開かれることになります。

感温リードスイッチが通常の温度センサと異なるのは、スイッチ機能を内蔵していること。また、感温フェライトの材料設計により、−10℃〜+130℃の範囲内のある特定の温度を動作点として設定できるため、温水洗浄便座、水道凍結防止用ヒータなど、小型・高信頼性の温度センサとして広く活用されています。ありふれた鉄酸化物を主成分としながら、フェライトは多彩な物性を示す電子材料。なかでも感温フェライトは、文字通り“温度を感じる”フェライトなのです。

感温リードスイッチ 動作原理 ブレイクタイプ

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