電気と磁気の?館

No.17 圧電セラミックスのマルチ・パフォーマンス

圧力を加えると電圧が発生する物質があります。これを圧電体といい、その性質を圧電効果といいます。また、圧電体に電圧を加えると寸法変化を起こして外形が変形します。これは逆圧電効果と呼ばれています。ある種のセラミックスが示すこの逆圧電効果を応用したのが、電子ブザーや圧電スピーカ。高精度な位置制御装置やインクジェットプリンタ用ヘッドの小型アクチュエータとしても採用されています。

“火打ち石”と“火打ち金”

東北地方の最高峰は、どの山かごぞんじでしょうか? 出羽富士と呼ばれる鳥海山(2237m)でも、南部富士と呼ばれる岩手山(2041m)でもありません。「夏が来れば思い出す…」の歌でおなじみの尾瀬に、美しい姿でそびえる燧ケ岳(ひうちがたけ。2346m)です。山体そのものは1000mほどの高さですが、尾瀬の標高が約1400mもあるので東北地方の最高峰の栄誉に輝いています。

 燧ケ岳という山名は“火打石”と関係しているというのは俗説です。深田久弥の『日本百名山』にも記されているように、雪解けとともに山腹に鍛冶鋏(かじばさみ)の形をした残雪が現れることに由来するとのこと。鍛冶鋏というのはヤットコやペンチのような道具。熱した鉄を鍛錬するので“火打(ひうち)”の名がつけられたそうです。燧・火打ちの名をもつのは山ばかりでなく、海にもあります。最もポピュラーなのは四国北部の燧灘(ひうちなだ)。こちらは周辺で火打石となる硬い岩石が産出したことに由来するといわれています。

 火打石は英語ではフリントといい、発火石とヤスリとの摩擦で火花をつくるライターは、フリント式と呼ばれます(発火石が火打ち金、ヤスリが火打石に相当)。一方、電子ライターやガスレンジなどでは、圧電体の着火素子が用いられています。

 圧力を加えると電圧(ピエゾ電気)が発生し(圧電効果)、電圧を加えると外形が変形する性質(逆圧電効果)をもつ物質があります。これを圧電体といいます。ガスライターなどの着火素子に利用されているのはセラミックスの圧電体です。圧電体はプラスとマイナスに自発分極した物質で、図のようにバネの力により叩き金で衝撃を与え、発生した高い電圧で火花をつくるのが圧電着火素子。いわば電子式の火打石です。

火打ち石と火打ち金 圧電着火素子の基本構造

■ 赤外線センサに使われる焦電体は圧電体の一種

 圧電効果はフランスのキュリー兄弟(兄ジャック、弟ピエール)により、1880年、 電気石(でんきせき)という鉱物において発見されました。ちなみに、のちに弟ピエールと結婚したのがポーランド出身のマリー・スクロドフスカ、すなわちキュリー夫人です。一般にはキュリー夫人のほうが有名ですが、夫のピエール・キュリーは磁性体の研究などでもすぐれた業績を残した大学者です。

 電気石には熱したのち冷えると、チリや灰などを吸い寄せる性質があることが知られていて、“セイロン磁石”とも呼ばれていました(セイロンは現スリランカのこと)。昔はものを引き付ける不思議な性質をもつものには、“磁石=マグネット”の名がつけられていたようです。

 電気石がチリや灰を吸い寄せるのは、静電気のような電荷が表面に現れることによるものです。熱することで発生するこの電気は、焦電気とかピロ電気(ピロは“火”を意味するギリシア語)といいます。圧電気とは発現の仕方が異なりますが、おおもとは同じで、ともに結晶内部の電気的な分極作用によって起こる現象です。

 電気石のような圧電性や焦電性を示す物質の多くは、ペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造をもっていて、[ABO3]という化学式で表されます(A、Bは陽イオン、Oは酸素イオン)。このタイプの結晶はある温度(結晶構造が転移するキュリー温度)以上では、中心に陽イオンBが位置した対称構造をもっていて、電荷は中和されています。ところが、その温度以下では対称性が崩れ、プラス、マイナスに分極して圧電性や焦電性を示すようになります。電気石も室温状態で分極しています。通常は空気中のイオンなどと結びついて中和状態となっていますが、熱すると分極の大きさが変わり、チリや灰などを吸い寄せるのです。

ペロブスカイト型結晶(ABO3)の分極

■ インクジェットプリンタ用ヘッドの積層型圧電アクチュエータ

 圧電現象は電気石に続いて水晶やロッシェル塩などの結晶においても確認され、のちに多結晶体であるセラミックスにおいても発見されました。圧電セラミックスは粉末原料を成型・焼成して製造される多結晶体であり、焼成したばかりの段階では外部に分極を示しません。というのも、結晶粒の自発分極はバラバラの方向を向いているため、全体では打ち消しあっているからです。そこで圧電セラミックスには分極処理という特殊な工程が必要になります。キュリー温度以上に加熱して外部から電界を加え、ゆっくりと冷やしていくという工程です。これによって結晶粒の自発分極は一方向にそろい、多結晶体全体が分極方向をもつようになります。

 圧電セラミックスに外部から電圧を加えると外形が変形します。また、交流の電界を加えると振動を始めます。これを利用したのが圧電振動子で、電子ブザーや圧電スピーカ、超音波発生装置などに用いられます。また、圧電体は外部から加える電圧によりサブミクロンオーダーの寸法変化も実現できるため、高精度な位置制御装置ほか、インクジェットプリンタのプリントヘッドにも利用されています。蓄積したファイン積層工法を圧電セラミックスに展開、圧電セラミックス層と内部電極層を交互に積層して一体焼結したのがTDKの積層型圧電アクチュエータ。デジカメ写真のカラープリントなど、高精細なインクジェットプリントに大きく貢献しています。

分極処理と圧電効果の発現のしくみ

 

圧電式インクジェットプリントヘッドのしくみ(例)

 

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