電気と磁気の?館

No.15 デジタル回路を指揮する小さな時計(クロック)

オーケストラが指揮者のタクトのリズムに合わせるように、デジタル回路はクロックと呼ばれる一定周期のパルスによって動作しています。このクロック周波数をつくりだす部品が発振子。小型化が進むデジタル機器においては、従来の水晶発振子にかわり圧電セラミック材料を用いたセラミックチップレゾネータが利用されるようになっています。

昔はサマータイム、ウインタータイムが当たり前

省エネや余暇時間の活用などを目的として、日本でもサマータイム(夏時間)を導入しようという構想がときどき持ち上がります(日本では1948〜51年に実施されたことがあります) 。昼が夜より長い4月頃から9月頃の期間、標準時を1時間繰り上げようというもの。サマータイムの実施国が高緯度地方に多いのは、冬季に日照時間が少ない分、夏季は存分に太陽光を活用しようという考えがあるようです。しかし、日本は中緯度に位置するうえ、夏季は蒸し暑いため、あまり省エネ効果はなく、かえってデメリットのほうが多いという意見も根強く存在します。

 季節が存在するのは地球の自転軸が傾いていることによるもので、北半球と南半球では夏冬が逆です。当然ながら南半球のサマータイムは北半球の冬季となるので、海外旅行をするときなどは注意が必要。ちなみに世界各国のサマータイムについては、パソコンで簡単に確認できます。たとえば Windowsではタスクバーの「日付と時刻の調整」で、諸外国の「タイムゾーン」を選ぶと、サーマタイムの実施国には「自動的に夏時間の調整をする」というチェック欄があります。

 江戸時代までの日本はといえば、手のひらのすじ(掌紋)が見えるか見えないかの薄明(はくめい)の頃が、昼夜の境目とされていました。時の鐘がいわゆる「明け六つ」「暮れ六つ」を知らせる時刻です。1日は子(ね)、丑(うし)、寅(とら)…の12辰刻(とき)で区分され、1辰刻(いっとき)は平均すれば2時間ですが、昼が夜よりも長い夏季においては、昼の1辰刻は夜の1辰刻よりも長くなり、逆に冬季の夜の1辰刻は昼の1辰刻よりも長くなります。つまり、昔の人々は意識せずともサマータイム、ウインタータイムで暮らしていたことになります。

 不定時法は自然の昼夜サイクルに合致した時刻法ですが機械時計とは調和しません。そこで、江戸時代には不定時法に合わせた独特の和時計が考案されました。リズムを刻むテンプが昼用・夜用のものに自動切り換えする二挺テンプ式の和時計です。東京上野の国立科学博物館には、昔の暦や天文観測機器などとともに、二挺テンプ式を含む多数の和時計が展示されています。

日の出・日没に合わせた昔の時刻法(不定時法)

■ 地球自転の“誤差”を発見した原子時計

 初期の機械時計は1日に1時間近くも狂うきわめて精度の悪いもので、毎日の時刻合わせのため、日時計も併用されていました。太陽が南中(正中)するときが正午なので、日時計のほうがよほど正確だったのです。ちなみに時計の針が右回りなのは、日時計の影が右回りであることに由来するといわれます。

 ガリレイが発見した振り子の等時性を機械時計に応用したのは17世紀オランダのホイヘンスです。振り子時計の登場により、時計の誤差は10秒/日ほどになり、また、20世紀のクォーツ時計の発明により、誤差はいっきに0.5秒以下/日にまで縮まりました。クォーツとは水晶(石英の結晶)のことです。水晶などのある種の鉱物結晶に力を加えると電圧が発生し、逆に電圧を加えると外形が歪みます。これを圧電現象・逆圧電現象といい、1880年、フランスのキュリー兄弟によって発見されました(弟ピエール・キュリーの妻がキュリー夫人)。

 水晶の結晶を切り出して小さな音叉のようなものをつくり、これに交流電圧を加えると、逆圧電現象によってある周波数で共振します。クォーツ時計では共振周波数が32768Hz(2の15乗)の水晶振動子が利用されます。 発生する32768Hzの電気信号を、ICを用いた分周回路(フリップ・フロップ回路)で半分ずつに落とす操作を15回繰り返すことで1Hzの電気信号が得られます。この電気信号を増幅してステッピングモータを駆動、歯車機構で時針・分針・秒針を回転させるのがアナログ式のクォーツ時計です。

 クォーツ時計の精度をさらに上回るのが原子(セシウム原子など)の振動周波数を利用した原子時計です。その誤差は高精度のものでは3000万年で1秒以下という驚異的なもの。この原子時計の開発により、正確無比の回転をしていると考えられていた地球にもわずかな“誤差”があることがわかりました。かといって原子時計に合わせて地球の自転を変えるわけにはいきません。そこで協定世界時(UTC)を定める原子時計は地球の回転に合わせて微調整しています。これが数年に1度挿入される“うるう秒”です(原子時計については、本ホームページTechMag「じしゃく忍法帳 第121回『原子時計と磁石の巻』」をご参照ください)。

水晶発振子を利用したアナログ式クォーツ時計の基本原理

■ 水晶振動子にかわるセラミックチップレゾネータ

 各種デジタル機器におけるクロック信号の発生にも水晶発振子が利用されています。しかし、水晶発振子は周波数精度にすぐれるものの構造的に衝撃に弱く、また小型化やコストダウンが困難という問題をかかえています。そこで、水晶発振子よりも安価で堅牢、小型チップ部品化が可能な圧電セラミックスを用いたセラミックレゾネータが、デジタルカメラやビデオムービー、DVDレコーダといったデジタル機器に利用されるようになりました。

 圧電セラミックスの薄板を電極ではさみ、電極に交流電圧を加えると、ブルブルと震える圧電振動子になります。これは電子機器のアラーム音の音源などに使われる圧電ブザーの原理です。加える交流電圧の周波数を高めていくと面白い現象が起こります。圧電セラミックスの薄板の屈曲運動は、高まる周波数に追随できなくなり、やがて面方向の広がり振動に変わり、ついには厚み方向の縦振動へと移ります。

 縦振動においては、振動子の厚みが薄ければ薄いほど高い周波数が得られます。ところが、セラミックス材料は強度的に薄板化には限界があり、約10MHz以上もの振動の実現は困難です。この問題を解決したのが高調波の利用。高調波というのは、基本周波数の整数倍の振動をいいます。音において基音の2倍、3倍…の振動数である倍音(ハーモニックス)に相当します。

 デジタル機器のクロック周波数の高まりに応え、TDKでは厚み縦振動の3次高調波を利用したセラミックレゾネータも製品化しています。図のように、不要な基本波を抑制し、必要な3次高調波のみを効果的に利用するため、振動エネルギーを小さな空間に閉じ込めた構造となっています。

 レゾネータという電子部品は一般にはほとんどなじみがありませんが、もともとレゾネータとは“共鳴器”という意味。セラミックレゾネータは、圧電セラミックスを振動体とする小さな楽器のようなものと考えれば、少しは親しみやすくなるのではないでしょうか。圧電ブザーが小さい割に驚くほど大きな音を発するのも、圧電振動子が発する音の波長に合わせた共鳴空洞を設けてあるからです。
 

圧電セラミックスの振動モードと周波数 TDKのセラミックチップレゾネータの内部構造(3次高調波モード厚み縦振動タイプ)

 

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

電気と磁気の?館

No.16 温度を感じるセラミックス

電気と磁気の?館

No.17 圧電セラミックスのマルチ・パフォーマンス

電気と磁気の?館

No.32 電子レンジの仕組みとは?加熱の原理や基本構造を解説

PickUp Contents

PAGE TOP