フェライト・ワールド

第2回 省エネ電源に不可欠なフェライトコア

磁性のハード/ソフトは材料の微細構造が関係する

前号でご紹介したように、磁性材料はその性質から、外部磁界を加えると永久磁石となる「硬磁性(ハード磁性)材料」と、外部磁界によって一時的に磁石となる「軟磁性(ソフト磁性)材料」に大別されます。面白いことに硬磁性/軟磁性という磁気的な硬軟は、鉄においては物理的な硬さ・軟らかさとも対応しています。たとえば刃物や工具などの鋼に磁石をこすりつけると、鋼は磁化されて、それ自身が磁石となります。このように鋼は硬磁性を示しますが、赤熱してからゆっくりと冷やす“焼きなまし”の処理をすると軟磁性に近づき、それとともに硬さも失って、切れ味が悪くなります。これは、金属組織(鋼相)の変化によるものです。
焼きなまし処理された刃物は、再び赤熱してから、水に漬けて急冷すると、金属組織が変化して硬さを取り戻します。日本刀づくりなどでよく知られるこの処理を“焼き入れ”といいます。1917年、従来材料をしのぐ強力な磁石鋼として、本多光太郎博士が発明したKS鋼は、この焼き入れ処理によって、磁気的性質を大きく高めた磁石材料です。
磁性材料は金属系と酸化物系に分けられます。酸化物系の磁性材料の代表がフェライトです。鉄や鋼と同様に、フェライトの磁気的なハード/ソフトも、微細組織のあり方が関係してきます。しかし、フェライトが鉄や鋼などの金属系の磁性材料と決定的に違うのは、きわめて高い電気抵抗値をもつということです。
フェライトは、主原料である酸化鉄に他の金属酸化物や微量添加物を加えた粉末原料を、混合・成型・焼成してつくられる磁性セラミックスです。焼成工程で原料は固溶して、微細な結晶粒が集合した多結晶体となります。結晶粒どうしの境界は粒界(りゅうかい)と呼ばれます。多結晶体であるフェライトは、この三次元網目状の高抵抗の粒界によって、絶縁物に近い高い電気抵抗値を示します。また、微量添加物などの多くはこの粒界に集まります(偏析)。このため、粒界はフェライトの特性にとって、きわめて重要な役割をはたします。

トランス(変圧器)は電磁誘導を利用した交流電圧の変換器

スポンジが水を吸収するように、磁性材料は磁束を吸収します。その吸収しやすさを透磁率といい、どれだけ磁束を吸収しうるかという度合を飽和磁束密度といいます。鉄に代表される金属系材料は飽和磁束密度が大きいのが特徴です。かたやフェライト(単にフェライトというときは、一般にソフトフェライトを指す)は、MFe2O4(Mは2価の金属)という化学式で表される酸化物の磁性材料。磁性原子(鉄など)ではない酸素原子をもつため、飽和磁束密度において金属系材料をしのぐことはできません。たとえば、電磁石のコア(磁心)は飽和磁束密度が大きいほど、より強力となります。このため、電磁石のコアには軟鉄(軟磁性の鉄)などが用いられるのです。
電磁石のコイルには直流電流が流されますが、トランス(変圧器)のコイルには交流電流が流されます。トランスの役割は交流電圧の変換で、その原理は1831年にファラデーが発見した“電磁誘導”です。コイルに向かって磁石をすばやく出し入れすると、コイルに起電力(電圧)が生じて電流が流れます。これは実験で簡単に確められますが、ファラデーの時代はまだ強力な磁石もなく、感度のよい検流計もなかったため、ファラデーは苦心惨憺したようです。
電磁誘導の発見にいたった実験装置は、ドーナツ状の軟鉄に2つのコイルを巻きつけたものでした(ファラデー環と呼ばれる) 。ファラデーは片方のコイルに電池(ボルタ電池)をつないだり切ったりすると、もう片方のコイルに電流が流れることに気づいたのです。電流がON/OFFされる瞬間、コイルに急激な磁束変化が起こります。この磁束変化は軟鉄のコアを通じて、もう片方のコイルに起電力を生み出すのです。これは変圧器の原理と同じものです。交流電流というのは、ある周波数で流れが切り替わる電流であり、そのたびに急激な磁束変化が起こり、電磁誘導により2次コイルに起電力を発生させます。起電力の大きさは、2つのコイルの巻数の比によって決まるので、交流電圧を変換するトランス(変圧器)として利用されるわけです。

小型・高効率なスイッチング電源で活躍するパワーフェライト

ACアダプタは商用交流を直流に変換して電子機器に供給する装置です。各種ありますが、コードレス電話や電動工具などに使われているのは、ずんぐりとした従来タイプのACアダプタ。手にとってズシリと感じる重さのほとんどは、電源トランスの鉄心によるものです。鉄心といっても電磁石のコアのようなブロック状のものではなく、ケイ素鋼などの軟磁性金属の薄板を成層したものが使われています(成層鉄心)。
成層鉄心を用いるのは深い理由があります。コアに磁束変化が起きると、それを妨げようとする方向に、反作用磁束が生まれます。物体を押すと反作用としての力がはたらくのと似ています。反作用磁束が生まれるということは、導体に電流が発生することを意味します。これを渦電流といいます。渦電流が流れると、コアの電気抵抗によってジュール熱が発生しますが、これはエネルギー損失(鉄損と呼ばれる熱損失)として問題となってきます。というのも、この熱量は流れる電流の2乗に比例します。金属系コアは電気抵抗が小さいため、流れる電流が大きくなり、発熱も大きくなってしまうのです。成層鉄心を用いるのは、熱損失を少なくするための工夫です。薄板は電気的な絶縁をほどこしてあるので、渦電流は薄板のそれぞれに発生します。これは渦電流の通路が長くなって抵抗値が増すことになり、発熱量が減少することになるのです。
しかし、この熱損失は周波数の2乗に比例します。商用交流の周波数(50/60Hz)では何とか使えても、kHz、MHz…といった高周波領域になると、成層鉄心の発熱は膨大となり、ついには赤熱してしまいます。そこで不可欠となるのがフェライトです。金属系材料の10万倍以上の抵抗値をもつため、高周波で使用しても熱損失は少なくてすむからです。
携帯電話やノートパソコンには小型・軽量なACアダプタが使われます。これはスイッチング方式と呼ばれるタイプのACアダプタです。高周波のパルス電流をフェライトコアのトランスによって、必要な電圧に変換します。スイッチング方式の電源は、従来型電源とくらべて、著しく小型・高効率なのが特長。テレビやDVDレコーダ、ゲーム機など、商用交流を利用する電子機器のほとんどに、このスイッチング方式の電源が使われています。電源などの用途に使用されるフェライトは、とくにパワーフェライトと呼ばれます。TDKでは長年にわたり蓄積した技術・ノウハウを駆使、より損失の少ないパワーフェライト材料の開発により、社会全体の省エネにも大きく貢献しています。

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