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GRAIN57 YIG族の家族構成
YIG族の家族構成
さて、繰り返しになるが、強磁性共鳴ポイントにおけるμ"の峻峰を半分の高さ(-3dB)で横に切り、その切断ラインの長さに対応する直流磁界Hdcの幅を"半値幅"ΔHと呼んだわけであるが、念のためにもう一度確認しておくと、ΔHの値が大であるということは、μ"の山並みが藤原宮跡から見た大和三山のように低く隠やかであるを示唆している眺めるだけなら良いのだが、ダラリとのびたその山すそが動作領域(aポイント)にまで及んでくるので、これはやはり大変困るという話であった。逆からいえば、動作領域におけるμ"の影響をぎりぎりまで抑制するには、素子固有の特性値であるこのΔHを、可能な限り抑制しなければならない。
そこで、サーキュレータ用フェライト素子における損失項μ"とは、そもそもなんであったか。すでにご承知のとおり、それは電磁波の変化に対する磁気モーメントの回転の遅れ、すなわち両者の間に除々に口を開ける位相ズレ(θ)によって生じるy軸成分そのものであった(位相ズレのプロセスについては、GRAIN 49,50で詳説)。
そして、ここで重要なのは、直流磁界とμ'、μ"の関係を示すこのグラフが、たったひとつの磁気モーメントの挙動を伝えるものではなく、フェライト素子中のすべての磁気モーメントの挙動に関する極めてマクロ的な推移情報を表わしている、という点である。
したがって、薄紫色の点線で示したμ"1のように、あくびの出そうなおだやかな山裾を示す素子の内部では、位相ズレの増大に伴う磁気モーメントの回転半径の拡大現象は、申し合わせたように一斉に起きるのではなく、ぼちぼちというかんじで始まり、だらだらと終わるものと考えられる。
低損失を誇るYIG系フェライト素子の秘密は、じつは、こうしたマクロ的な磁気モーメントの挙動に隠されている。つまり、すっかりおなじみとなった結晶磁気異方性定数K1の値が、ここでもまた隠然たる影響力を発揮しているのである。
K1の障壁がもたらす磁化容易軸方位は、グレインごとにランダムな方位を指し示しているが、もしもK1の障壁が低くなれば、磁化容易軸、すなわち異方性磁界HAは弱まり、その方位に縛りつけられていた磁気モーメントの自由度は増すわけで、外部から加えられた直流磁界の作用を受けやすくなる。
つまり、直流磁界の印加方向に対してランダムな方位で交錯する異方性磁界HAが小さくなれば、HAとHdcのベクトル和も平均化されるので、各グレインにおける強磁性共鳴現象もほぼ同時に誘起され、μ"は急峻な立ち上がりを示すはずである。
それとは逆に、強大なK1に組み敷かれた磁気モーメントはどうなるのか。異方性磁界HA方位とHdc方位が大きくずれたグレインにおいては、Hdcが目滅りするのと同じことであるから、そのような方位関係にあるグレイン中の磁気モーメントの共鳴現象は平均より遅れることになり、その反対に、両者の方位がぴたりと重なった磁気モーメントは、いち早く首を回し始めるはずである。もちろんそんな光景を見たわけではないが、この推量がほぼ間違いないことを裏づけるデータを以下に示す一連のモデル図を元に2、3ご紹介しておこう。
上の化学式に示すように、YIG系フェライトの1ユニットは、3個のイットリウムイオンY3+と5個の鉄イオン Fe3+、それに12個の酸素イオンO2-により構成されている。したがって、1単位胞には、64個の金属イオンと96個の酸素イオンが含まれることになり、例えばその下のニッケルフェライトのようなスピネル系よりかなり大きな家族構成となる。単位胞の大きさも、スピネル型フェライトの1辺8.3Åに対し、YIGのそれは12.4Åもあるが、密度はむしろスピネル型のほうがわずかに高い。
YIG系フェライト1ユニットを構成する副格子点a,d,cの磁気的なやりとりは上のモデルのようになる。スピネル型の格子点には、金属イオンが規則性を保ちながら偏在しているのに対し、YIG系においては均一に納まり、超交換相互作用も偏りなく全方位に均一に働く。この点が「賢き凡才」集団、YIG族ならではの優位性で、その結果、結晶磁気異方性定数K1も小さく安定し、その大きさは、スピネル型の約10分の1程度にとどまる。
そこで、この基本構造のターゲットに、Fe3+イオンの代役としてAl3+イオンを送り込めば、これはd格子に好んで納まってくれるので、ユニット全体の磁化はゼロとなり、Is抑制効果を上げることができる。
また、c格子のイットリウムイオンY3+をガドリニウムイオンGd3+で置換することにより、下のグラフの矢印で示した温度変化の少ないポイントを操作することができ、この種のYIG系フェライトは、テレビや移動電話基地局の送信系など、電力が大きい分野で活躍している。
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