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GRAIN56 用途を見極め素子を制す
用途を見極め素子を制す
前節では、飽和磁化Isの高いフェライト組成の株が一気に下落しそうな話をさせていただいたが、もちろん、そんなことはない。例題として設定したマイクロ波の周波数が4GHz帯であったので、この用途にはキレのいい凡人の「松」がむしろ最適であり、脳細胞の密度がいくら高くても電磁波を危篤状態に追い込んでは元も子もない、というのが本意である。周波数がさらに高まれば、そこはやはり天才の出番という局面もあり、要するに、天才もまた、ハサミ同様使いようということになる。 そこで今度は、危ない天才から賢き凡才まで、用途目的に応じて作り出されたそれらフェライト素子の飽和磁化値をあやつる"技術屋の才覚"について、少々突っ込んだ考察を加えてみたい。
さて、くだんのグラフに示すとおり、マイクロ波用フェライトは、その基本的な組成により大きく4種の系列に分類されるが、それらの磁化特性には、GRAIN 6「亜鉛イオンによる磁性制御」の"磁性の綱引きモデル"で、ボーア磁子量(MB値)ゼロの意外な効用を示してくれた"磁性の伏兵"が深く関与している。
つまり、どの系列においても、飽和磁化値の制御は、MB値ゼロの亜鉛イオンZn2+やアルミニウムイオンAl3+による基本組成の微妙な置換により行われる。
上のモデルは、その中でも最高の飽和磁化を発揮するニッケル系フェライトの基本組成(1化学単位)であるが、この綱引きに関しては、解説者の出る幕はないだろう。
GRAIN 5の虎の巻にはっきりと示されているように、2価のニッケルイオンNi2+は、好んでB格子に納まる。したがって、1ユニットあたり2MBの磁化を発揮し、上の一連のモデルに示すように、8ユニットで構成される1単位胞あたりの磁化は合計16MBとなる。
次のモデルは、おなじみの"磁性の伏兵"亜鉛イオンZn2+による磁化強化策である。
ニッケルイオンNi2+の25%を亜鉛イオンZn2+で置換することにより、A格子に亜鉛イオンZn2+が陣取った2ユニットがそれぞれ10MBの磁化を発揮するので、単位胞全体の磁化は32MBとなり、当然飽和時の磁化も大幅に上昇することになる。
GLAIN 6の綱引きモデル解説の繰り返しになるが、Zn2+の置換量がA格子の半分を占めると、A-B格子間の超交換相互作用が低下し、B-B格子間の磁気モーメントが反転する事態となり、磁化は加速度的に減少することになるので置換量のさじ加減がこの操作のミソである。
同様に、以下のモデルに示すとおり、B格子に優先的に納まるアルミニウムイオンAl3+を巧みに操作すれば、飽和磁化を微妙に減少させることも可能となり、
2ユニットを置き換えることで、1単位胞あたりの磁化を6MBにすることができる(非磁性のマグネシウムイオンMg2+を起用したMn系の飽和磁化操作も、Ni系とまったく同様の手法により行われる)。
また、次のリチウム(Li)系組成の制御はやや複雑に見えるが、酸素イオンと金属イオンの価数の整合が、1ユニット単位から単位胞レベルに拡張されただけで、1価のリチウムイオンLi1+は、アルミニウムイオンAl3+と同様、磁化を抑制する効能を発揮する。
リチウムフェライトの1化学単位(1ユニット)は、一般に(Fe3+)[Li1+1/2 Fe3+3/2]O2-4で示されるが、これは、Li原子(1s2・2s1)が2s軌道の不対電子1個を放出して1価の陽イオンとなるため、マグネタイトFe3O4=(Fe3+)[Fe2+Fe3+]O2-4)1単位胞の構成要素である8個のFe2+イオンのうち、まず4個が同数のLi1+に置換され、残り4個の位置にFe3+が納まっていることを意味する。
また、上のモデル解説の冒頭に示したリチウムフェライト1化学単位の一般式(Fe3+)[Li1+1/2 Fe3+3/2]O2-4は、Li1+とFe3+を、それぞれ1/2、3/2としたためO2-が4個の総価数-8と整合しているが、別の見方をすれば、上の8つのユニット記号に示すとおり、Li1+を含む4つのユニット、(Fe3+)[Fe3+ Li1+]O2-7/2 4ユニットと、すべてFe3+によって、構成される(Fe3+)[Fe3+ Fe3+]O2-9/2 4ユニットが1単位胞を構成し、単位胞レベルでの価数の整合が得られているともいえる。いずれにせよ、その結果、1単位胞あたり20MBというほどほどの磁化が得られるわけである。
だが、GRAIN 6で詳しく述べたように、格子点に陣取るZn2+やAl3+などの非磁性イオンの増加に伴い、A、B格子間に働く超交換相互作用は次第に弱まり、その結果、A、B格子に宿る磁気モーメントの冷厳な反平行関係にも春風が立つようになる。すなわち実用世界から天才を退けるキュリー温度の低下現象をもたらす超ミクロ的なエネルギーバランスの変化が進行してしまうわけだが、仮に、制御技術の粋を傾注し、その変化を許容範囲にとどめたとしても、損失項μ"の山すその広がりだけはいかんともしがたい。そこで登場するのが、次節の主役となる「賢き凡才」集団、YIG族である。
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