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GRAIN46 よく働きよく耐える

よく働きよく耐える

しごく当然のことであるが、振動子に供されるフェライトには、外部からの磁界印加により大胆に伸びたり縮んだりする工夫が仕掛けられている。しかし、前節でご覧いただいたとおり、磁化量と歪みの大きさの関係は、μiやBs制御とは大きく異なり、これまで観察してきたいわゆる"180°磁壁"の移動で磁束密度が増大しても(HA≒Heffの方位がほとんど変わらないので)、結晶格子は歪んでくれないのであった。

つまり、肝心なのは、単位磁界増加量あたりの磁歪変化量Δλの大きさ、すなわちグレイン周辺部に局在する90°磁壁の方位転換で、その動きがなめらかであればあるほど、Δλが増大するであろうことは、下のモデルからも容易に推察できる。

それぞれのモデルに対応させた磁歪曲線を右に描いてみた。a、bそれぞれのラインの立ち上がりが急峻となるH領域まで、同じパワーの直流バイアス磁界Hdcであらかじめ磁化しておき、同条件の交流磁界を加えてみる。想定される結果は一目瞭然である。原点からの立ち上がりが鋭く、飽和レベル(すなわちλs)も大きなaの方が、はるかに大きなΔλを示す。つまり、aのような磁歪曲線を実現できれば、Hdcと交流磁界の変化量(振幅)を巨大化しなくても、より大きな機械的エネルギー(振動子がふるえる幅)が得られる。印加磁界Hと磁束密度Bの関係を示した磁化曲線においては、その傾き具合で損失の大小を判定できたが、磁歪曲線の場合も、傾きが急峻であればあるほど、また、飽和レベルが高ければ高いほど、振動子は"よく歪み"、印加する電気的エネルギーの損失*も低レベルに抑制できることをこのモデルは示唆している。

*磁歪振動子を駆動するために加えられた電気的エネルギーのうち、実際にどれくらいのエネルギーが振動子の機械的な弾性エネルギー(振動の大きさ)に変換されるかを電気機械変換能率、もしくは電気機械結合係数といい、弾性エネルギー/電気エネルギーで表す。つまり、この値が小さいほど、電気的エネルギーの損失、すなわち、磁歪発生機構における損失因子が大きいということになる。

それでは、いったいいかなる工夫をこらしたらaのような磁歪曲線が得られるか、ということになるが、この場合もやはり、結晶磁気異方性定数K1の相殺関係を示した下のモデルがキメ手となる。

磁壁移動の障壁となるK1を限りなくゼロに近づけてやれば、180°磁壁のみならず、90°磁壁の動きもより俊敏になるが、すでに詳しくご覧いただいたとおり、K1の操作には、組成のあんばいが効いてくる。

そこで、上の表で、まず目を引くのはコバルトフェライト(CoFe2O4)の磁歪量であるが、当然ながら、K1もひときわ大きな値なので、これをそのまま振動子の母材に起用するわけにはいかない。そこで、改めて表のK1値を眺めてみると、コバルトフェライトのみが正特性を示し、他はすべて負特性である。磁歪定数λsはどうかというと、マグネタイト(Fe3O4)だけが正特性で、他はすべて負特性である。となれば、まずK1においてコバルトフェライトと相殺関係となる負特性を示し、λsでもコバルトフェライトと相乗する負特性を示すフェライト組成の中で、コバルトフェライトの次にλsの大きな組成、すなわちニッケルフェライト(NiFe2O4)を母材として起用し、Niイオンのごく少量をCoイオンで置換するという妙手が浮かんでくる。コバルトフェライトのK1とλsは、ニッケルフェライトのそれと比較して共に桁違いの大きさを示すので、微少な置換量でも、その比率を精妙に操作することで、実用温度領域でK1をゼロにすることができ、λsは大幅に強化されることになる。

ところが、ここに一つの問題が生じる。以上の置換操作で磁歪量を極めていくと、交流磁界を印加したとたん、真っ二つに破断、という危険も想定され、フェライトの機械的な強度が心配になってくる。つまり、Δλを極めるほどに、振動時の内部応力に耐える"ねばり腰"も強化してやらなければならないわけだが、その基本的な押さえどころは、以下のモデルに示すとおり、結晶微細構造、とりわけ内部応力を吸収する「緩衝材」の作り具合が中心となる。

お察しのとおり、低損失ハイB材を生み出す技術(GRAIN 43)と同様、"よく働くフェライト"をモノにするには、それ相応の取り組みが求められるが、その上さらに、"よく耐えるフェライト"に仕立てるためには、組成比率や微量添加物の緻密な制御に加え、磁歪材料に最適化された微細構造を作り込むための精妙かつ厳格な焼成温度プロファイルの設計が不可欠となる。グレインと粒界では、非結晶組織である粒界の方が歪みによる応力に対して強靱である。したがって、グレイン径の肥大化とサイズのバラツキを抑制しながら、ほどよい厚さの粒界を生成し(a)、グレイン間の巨大なすき間と粒界内の空孔(ともに破断要因となる)を極力排除する(b,c)ことが、振動子の"ねばり腰"を強化する基本的かつ最も効果的な策となる。

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