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GRAIN45 ゆがみから超音波

ゆがみから超音波

酸素イオンに取り囲まれた窮屈な結晶格子に納まる際に、異なる2つのエネルギー準位に分裂するCo2+の5つの3d軌道。それらを合わせた電子雲全体の形状は扁平にゆがみ、そのゆがみが磁気モーメントの方位をより強く安定位置に固定する作用を生み出す。換言すると、フェライト結晶格子は、3d軌道上の電子に宿る磁気モーメントの方位をより強固に安定させようとして、緩んだり縮んだりするのである、と。しかし、そこで、小首をかしげた方もおられたのではないだろうか。

「ある方位に磁化されたフェライトの結晶格子は、その方向(すなわちHeff方位)に伸びるか縮むかする」ということだが、2つの磁区に分かれて安定している1個のグレインを想定する。このグレインは、すでにHA方位に伸びるか縮むかしているはずである。そこへ片方の磁区のHA方位と平行な外部磁界を印加してみる。外部磁界が強まるにつれ、その向きと同じHA方位の磁区が拡大し、ついには、単磁区と化すとしよう。そのプロセスでは、外部磁界の方位に背を向けるもう一方の磁区の磁気モーメントが、磁壁の移動で次々と向きを変えて、増殖する磁区に取り込まれていくわけであるが、このようにしてこのグレインが単磁区と化したとしても、このフェライト結晶は、伸びも縮みもしないのではないか。なぜなら、磁化の方向は最初からHA方位で変化していないからである、という疑問である。

磁壁移動による磁化プロセスでは、正反対を向き合う異方性磁界HA方位(1本の磁化容易軸の両端)を交互に指し示して並ぶ磁区間の磁気的な平衡関係が崩れるだけで、磁化容易軸の方位が変わるわけではない。下向きの磁区が上向きの磁区に完全に侵蝕されたとしても、伸びた結晶は伸びたままで、磁束密度が変化するばかりであろう。

実際には磁区内の磁気モーメントも磁壁中のそれも、交流磁界が強まるにつれて、わずかずつではあるが磁界方位に頭をかしげることになるが(合成磁界Heff)、それを無視するとすれば、まさしくご覧察のとおりである。

しかし、ここで、新たな(というより厳密な)情報をお伝えしなければならない(都合の良いところでつじつま合わせの"偶然"を持ち出す出来の悪いミステリーのようで恐縮です)。

じつは、これまでの考察では不要な要素だったのでモデル図に描かなかったが、実際のグレインの周辺部には、下のモデル図に示すような"90°磁壁"なるものが局部的に存在し、エネルギー的に、より低いレベルで安定できるよう、磁区の端部に発生する磁束をグレイン内部に収斂する機能を発揮しているのである。もちろん外部磁界の印加で、この磁壁も移動するが、そのとき、この磁壁に囲まれた磁区内の磁気モーメントが横から縦へ、まさしく90°だけその方位を回転するのである。

その結果、磁歪定数λsをプラスとしたこのモデル図の結晶格子は、外部磁界が強まるにつれ、HA方向に大きく伸びることになる(厳密にはHeff方位だが、ごくわずかなズレなので、このモデル図では煩雑さを避けるためにHeff=HAとした)。

90°磁壁がほとんど移動しない初透磁率領域の可逆的な磁化レベル(Δλ=0)においては、磁歪現象は観察されないが、単位磁界増加量あたりの磁歪変化量Δλは、磁界が強まるにつれ徐々に増加し(Δλ1 )、磁壁が跳躍的な移動をとげ、一気に飽和に迫るプロセスにおいて、急激な伸びを示すことになる(Δλ2)。そして、その後も磁界が強まれば、90°磁壁中の磁気モーメントの方位は侵攻してきた磁区のHA方位にすべて揃うことになり(Δλ3)、さらに磁界を強めると、すべての磁気モーメントは磁界方位に頭を引きつけられ、磁歪量も最大値に達することになる(Δλ4)。

そして、このような磁化と磁歪の相互関係を巧みに応用したのが、大漁狙いの海の男たちにとって、網と撒き餌とコイツだけは手放せない、フェライト磁歪振動子、すなわち魚群探知器の心臓部というわけである。そのほかにも、IC基板洗浄器など、さまざまな分野で活躍している強力無比なこの超音波発生ユニットの駆動原理は以下のグラフとモデルでご説明するとして、次節ではこの素子に最適化されたフェライト材の微細構造に迫ることにしょう。

磁界Hの増加に伴う磁歪量λの変化は、初磁化曲線に酷似した立ち上がりを示し、弱磁界では磁歪量λはほとんどゼロに近い。そこで、高性能フェライト磁石による直流バイアス磁界Hdcを与え、あらかじめΔλ2の中程まで磁化しておく。つまり、磁壁移動のプロセスが最も効率的かつ変化量の大きなΔλ2の範囲で展開されることになり、振幅の小さな交流磁界でも大きなΔλが得られ、磁歪振動子の電気機械変換能率(単位電気量における素子の振動幅)が大幅に向上することになる。下のモデルに示すとおり、2本の脚部に軽く巻きつけたコイルに高周波電流を流し交流磁界を加えると、振動子頭部の平面がその周期にあわせて上下に高速振動し、強力な超音波を発生する。振動子の共振効果も巧みに利用するので、素子の寸法、形状は要求される発振周波数と発振強度に応じて厳密に設定される。

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