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GRAIN42 ハイB制御の大いなる難関

ハイB制御の大いなる難関

結晶格子のひとつひとつを個別訪問することは、残念ながらいまだかなわぬ夢であるが、これまでに見てきた微細構造制御技術の粋を傾ければ、スイッチング電源の高周波化をはばむ渦電流損失やヒステリシス損失の暴れん坊も、巧みに手なづけることはできる。しかし、そこまでの話ならば、身にかかる火の粉をはらい落とす"守りの制御"に過ぎず、先端電子機器の軽薄短小化を支援するアプローチとするには、いささか積極性と力強さに欠ける嫌いが残る。

確かに、くだんの式によれば、駆動周波数を高めれば、トランスの磁芯に求められる磁束密度の値は低下してもよろしいことになるが、しかし、それはあくまで、トランスのコア(磁芯)体積が少なくて済むという意味であり、コア材そのものの磁束密度が低下してもいい、ということではない。話はむしろまったく逆で、コア材そのものの磁束密度が高ければ高いほど、高周波帯域におけるμの対応も俊敏鋭利なものとなり、パワートランスの小型化も極まる道理なのである。要するに、くだんの関係式が甘い言葉を投げかけてくれているからといって、中身の薄いコア材ではどうしようもない。

とはいうものの、前節の末尾で触れたとおり、コア材固有の磁化の強さIは、そのフェライトの単位体積あたりに含まれる磁気モーメント量を反映した値であり、"磁性の伏兵"亜鉛イオンを忍びこませるなどの組成制御を駆使した後に、さらにその値を増大しなければならないとなると、これは容易なことではない。

そこで、下に並ぶ2つのグレインモデル図と、その中央にはさまれたグラフをご覧いただきたい。組成究まれば、残るは結晶の"締まり具合"、すなわちフェライトコア単位容積あたりの「密度」であるが、2つのモデルとグラフが示すとおり、それは、焼成する際の昇温速度に支配される。しかし、その結果がなんともやっかいなのである。

左のグレインモデルに示すとおり、ゆっくり焼成すると、グレインを仕切る粒界層に巨大な空孔が生成され結晶密度は著しく低下する。そこで、それではと、その逆を攻めてみると、右側のグレインモデルに示すとおり、結晶密度は上がるものの、粒径に著しいバラつきが生じ、しかも空孔だらけという最悪のグレインに仕上がってしまうのである。

まさに、一筋縄ではいかないやっかいな状況であるが、もちろん"攻めの制御"はある。

じつは、フェライトの母材となる酸化鉄、酸化マンガンなどの金属酸化物や添加物には、それぞれ固有の反応時間と温度変化のパターンがあり、それらを複合したフェライト組成の結晶化プロセスにおいても、個々の物質は基本的に固有のパターンにしたがうことになる。そこで、結晶化プロセスにおける個々の物質の反応状況の"ズレ"を解析し、相互の関与度合いも計算に入れ、たとえば下のグラフに示すような複合的な昇温速度のプログラム制御を施してやるのである。この手法をつきつめた成果が右の大きなモデル、ぎっしりと隙間なく生成された高密度なグレイン集合というわけであるが、語れば数行で片づくことでも、極薄かつ欠損や乱れのない均一な粒界に包まれ、ほとんど空孔の見当たらないこの美顔に至るまでには、駄作の山をいくつも築いたことは、言うまでもない。

一般のハイB材は、高周波帯域における渦電流損失を抑制するため、敢えて厚い粒界を生成させているが(小さなグレインモデル)、粒界層の体積だけ結晶密度が低下することは免れ得ない。しかし、高抵抗な粒界成分を均一に薄く分布させ、粒界組織に集結した酸素を組織外に誘導、放出する昇温プロセス制御を加えることにより、比抵抗値を高水準に維持しつつ、きわめて密度の高い結晶構造を生成することが可能となる。

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