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GRAIN41 試される損失制御

試される損失制御

フェライトの磁化特性に深刻な影響を与える損失要因についてご覧いただいてきたが、それらの難題を巧みに手なづけ、 秀逸なフェライト物性を得たとしても、ただ机の上に置かれているだけなら、もちろん、河原で拾ってきた石ころとなんら変わるところがない。電子機器に組み込まれ、回路機能の一部を担うことで、フェライトは自らの存在価値を語ることができるわけで、裏から言えば、そうした"実地テスト"に合格してこそ、やっと一人前の資格と評価を得ることができる。

そこで、これまで述べてきた損失制御のあれこれが、応用分野の先進的な要求に応えるノウハウとして、どこまで有効なのか、主要な電子機器、装置の心臓の役割をになう直流安定化スイッチング電源をテストケースに、このあと何節かを使って検証してみたい。

コンピュータやOA関連機器の抱える重要課題のひとつに、小型、軽薄化のさらなる推進がある。その構造から、ひときわ大きなスペースを占領している電源回路に対しては、とりわけ厳しい要求が集中することになるが、まずは、下の式をご覧いただきたい。

電源を構成する基幹部品の中でも、とりわけ大きな容積を占めるものといえば、一にも二にもパワートランスということになるが、この式は、そのコア材料に求められる磁束密度Bを割り出す諸量の関係を表したものである。磁化に寄与する磁気モーメントの実効成分量が、単位体積あたりどのくらい含まれているかで、磁束密度Bの値は決まるわけであるから、この式の分母にある周波数の値を大胆に高め、要求される磁束密度の値を一気に低減できれば、その分、コアの体積も大幅に縮小できることになる。

となれば、磁束密度Bの周波数特性が気にかかるが、金属磁性材料とフェライトのBならびにμiの周波数特性傾向を比較した下のグラフが物語るように、珪素鋼板などの金属磁性材料は、低周波帯域において、フェライトを凌ぐ力を発揮するものの、その比抵抗値の低さが命取りとなり、高周波と呼ばれる帯域に達するより先に、周波数の2乗に比例してふくれあがる渦電流損失のためにBもμiも見る影もなく衰退してしまう

そうした事情のために、パワートランスの軽量小型化の大任は、珪素鋼板の106倍以上の比抵抗値を有する高品位フェライトの肩に重くのしかかってくることになるが、フェライトコアといえども、気を抜けば河原の石となりかねない危険は、フェライトコアのパワーロス(電力損失)を示した下の2つのグラフに明らかである。周波数の上昇に伴い増大するヒステリシス損失や、それに輪をかけた暴走ぶりを示す渦電流損失をあなどり、物性制御の取り組み方向にちょっとした読み違いが生じれば、取り返しのつかない事態を招く。

左グラフ:横軸のtanδ/μiはすべての損失を含む相対損失係数であるが、100kHzといった帯域においては、そのほとんどが、周波数fの2乗に比例して増大する渦電流損失tanδeによってもたらされていると考えられる。右グラフ:飽和磁束密度Bsと残留磁束密度Brの差ΔBと、コアのパワーロスの関係を示すグラフである。ヒステリシスループの面積で示されるヒステリシス損失の大小とΔBの大小は、必ずしも一致するものではないが、Bsが同じ材質の比較としてこのグラフをとらえれば、大きなΔBを示す材質ほど、ループ面積、すなわちヒステリシス損失は抑制されているとみなすことができる。そして、ヒステリシス損失(tanδh)は、周波数の増大に比例して増加することになる。

なお、冒頭に掲げた式の説明で、磁束密度Bの値は、磁化に寄与する磁気モーメントの実効成分量が、単位体積あたりどのくらい含まれているかで決まる、と述べたが、GRAIN 13のモデルで詳しく見たとおり、磁化に寄与する磁気モーメントの実効成分量(磁界方位に投影される磁気モーメントのベクトル量)は、厳密には磁気の強さ"I"を意味し、これに交流磁界による磁束密度μ0Hを加えたものがBと定義される。しかし、実用の場面においてソフトフェライトに加えられる交流磁界は、一般にごくごく微弱なレベルにとどまるので、μ0Hも無視できる量となり、IすなわちBとみなすことが許される。

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