With ferrite by TDK

GRAIN39 ヒステリシス減量作戦

ヒステリシス減量作戦

少々逆説的な解説であったが、欠陥エネルギーの障壁を一掃できさえすれば、μ泣かせのヒステリシス損失は現われようがない、という話は確かな理屈である。だが、完全無欠の結晶構造をひねりだす力は、人間はもちろん、神秘なる大自然のシステムにすら備わってはいないのだから、残念ではあるが、それはあくまで理屈で描いた夢である。しかし、完全無欠は無理であるとしても、せめて奈良辺りの山並ほどに穏やかにすることができれば、ヒステリシスループの腹のたるみもひきしまってくれるはずである。

すでに、ご承知のとおり、ヒステリシス損失の舞台装置とでも言うべき欠陥エネルギー障壁を生み出す悪役といえば、結晶格子がまとめて消失した空孔や、不純物、あるいはグレインを締めつける粒界応力、金属イオンの欠落した空格子など、大小にぎやかな面々がずらりとひかえているわけである。だが、これまで見てきたように、純度を高めた優秀な原材料を精選し、母材はもちろん粒界成分や種々の添加物を過不足なく制御した後に、急がずあわてず、しかも一秒一度の誤差も許さぬ峻厳きわまるプログラム焼成を遂行すれば、ほんのチョイ役程度に、これら悪役たちの出番を抑えることは可能である。

ところが、それだけの制御を加えても、いざフタを開けてみると、なんともしまらないビール腹のようなヒステリシスループが現れる、という番狂わせも起こりかねないのである。下に、そうした事態の要因となるハイμ制御の"落とし穴"を2つほど示す。

モデルAは、原材料の粒度分布がきわめて悪いケースである。粒径の小さな原材料は、比較的低い温度で結晶化するので、小径粒子が集中した部分に生成されたグレインは、設定された焼成温度以下で急速に成長することになり、空孔は逃げ出る暇がなくグレイン内に取り残され、グレイン径も巨大化して、全体にきわめて乱雑なグレイン形状、状態の分布地図を描くことになる。また、少々極端ではあるが、たとえば、モデルBに示すように、粒度分布というより、粒度そのものを均一化させたとしても、すべての原材料、添加物が均等に混ざりあっていなければ、これはこれで恐ろしい結果が見込まれる。組成比率がグレインごとにまちまちになるのだから、磁気特性に大きなバラつきが生じることになり、とりわけ初透磁率領域における損失は、と考えるだけで背筋が寒くなる。

フェライトもまた、三児の魂百まで、というわけだが、こうした落とし穴を慎重にかわし、均質かつ立派なグレイン集団を育てても、それはそれで下のモデル図の解説欄で触れているような、微妙なかねあいを考慮する必要が生じ、気を抜く暇がない。

グレインを大きく育てれば、μが高まる分ヒステリシスループはより細く、より急峻な立ち上がりを見せるが、渦電流損失に2乗で効くことになるくだんのrも増すことになり反磁界Hdが無視できなくなる。また、均一かつ均質な所望のグレイン径を得ても、粒界が厚すぎれば、ご承知のとおり粒界応力が増大してしまうので、その辺のかねあいを巧みに操る制御上の"さじ加減"も重要なノウハウとなる。

手相などで将来の進路を占うときには、物理化学の徒とスポーツ選手は、向き不向きの対局的象徴に置かれているようであるが、常識レベルをはるかに超絶した過酷かつ厳格な減量プログラムに苦しむ拳闘選手の思いだけは、物理オタクの薄い胸にも深く染み入り、他人事ではない。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

With ferrite by TDK

GRAIN40 ヒステリシス・ハードボイルド

With ferrite by TDK

GRAIN41 試される損失制御

電気と磁気の?館

No.32 電子レンジの仕組みとは?加熱の原理や基本構造を解説

PickUp Contents

PAGE TOP