With ferrite by TDK

GRAIN28 μの終着駅・自然共鳴

μの終着駅・自然共鳴

フェライトに加えた交流磁界の周波数を徐々に高めていくと、ある特定のポイントでμiの極大値が観測される。この実験結果は、磁壁に固有の振動数ωが存在することを示唆しており、そこから、初透磁率領域における磁壁の移動は、弦のごとき単振動を繰り返していることが想像される。粒界応力に両端を固定され腹をせりだす磁壁モデルが着想された経緯をたどれば、ざっとこんな具合になるだろうか。

そこで、このような「着想」が生まれるきっかけとなった例証のひとつが下のグラフである。

この「着想」が正しければ、仮に何かの調子で粒界応力が減少したとすると、磁壁の腹のせりだしはその分大きくなるはずであるから、B/HのBが増加する分、すなわちμiは高まることになる。一方、磁壁の固有振動数ωは、ゆるんだ弦の音階が下がる道理で、低くなるはずなので、μiが高くなればなるほど磁壁共鳴周波数f0(d・w)は低くなる、という関係が成り立つはずである。実際はどうなのか、というわけで、μiの低いフェライトと高いフェライトを用意し、それぞれについて損失の極大ポイントが現れる磁壁共鳴周波数f0(d・w)を測定してみたら、予測にたがわぬ結果が得られた。

このグラフ(スケールは任意とした)に示されるフェライトにおけるμiと共鳴周波数の関係に最初に着目したのはオランダのJ.Lスネックであった(1947年)。ただし、スネックはμiと共鳴周波数f0の積は常にコンスタントであるとする関係式を、この後に述べる自然共鳴の関係式として発表したために、磁壁共鳴の可能性を主張するグループとの間に大論争が巻き起きたといういわくつきのものである。そのときはNi-Zn系フェライトを試料とした実験データが論争の種となったが、そこに現れた共鳴周波数の値を見る限りにおいては、磁壁による共鳴現象と考えるのが妥当と思われる。

それにしても、初透磁率領域における磁壁の動きを弦の振動とみなし、固有の振動数ωを想定した上での共鳴概念は、グレイン(ひいてはフェライトコア全体)のμi変化をとらえたきわめてマクロ的なモデルである。そして、前節でご覧いただいたとおり、磁壁共鳴後、ついに磁壁が一歩も動けなくなった後も、ミクロの磁性、すなわち単位胞に宿るスピン磁気モーメントは、目まぐるしく向きを変えるHeff方位に追随し、微小ながらも磁化に貢献していたわけであるが(下図)、さて、そのけなげな磁気モーメントの動きにも、ついに限界に到達する瞬間が訪れる。

磁壁共鳴周波数f0(d・w)を超えた後も、磁区内の磁気モーメントは交流磁界の極性転換に追随し、わずかながら磁界方位に磁化成分を生みだす。この動きにあっては、磁壁移動の機構におけるα因子(すなわち磁壁を元の位置に戻そうとする磁極に発生するエネルギー)に、異方性磁界HAの作用が該当し、制動因子βには、両磁区の磁気モーメントが磁界方位に頭をかしげた結果上昇した結晶格子間のエネルギーを低減させようとする作用が相当する。

下のグラフは、いましがたご覧いただいたグラフにさらに高い周波数領域の測定結果を描き足したものである。μi-highのラインを追っていくと、磁壁共鳴周波数f0(d・w)のポイントより先、ほとんどμi値が1になりかけたポイントで再びμiは小さな盛り上がりを見せ、その直後、ついに息絶え、1となっている。すなわち、このμi=1のポイントこそ、μの終着駅、自然共鳴周波数=f0(n)なのだが、2つめの小山が生じた直後に磁化機構が終焉を迎えるこの状況について、軽いデッサンを試みてみよう。

GRAIN 24の振り子モデルに示したように、磁壁共鳴周波数f0において、磁壁の振幅(移動幅)は極大になる。しかし、その瞬間におけるμi値については、そのときには触れなかった。そこで、再度、f0点における振り子モデルを動画でご覧いただくと、磁壁(赤)が最も大きく振れたとき、すなわち磁化が最大となったときに、交流磁界(青)はゼロポイントにあり、逆に交流磁界が振幅の頂点を極めたときに、磁壁は中央の安定点に位置していることがおわかりになるだろう。

また、GRAIN 25では、磁壁共鳴ポイントの直前と直後の曲面モデルを示したが、下のモデルに示すとおり、f0点では、振り子モデル同様の磁界と磁壁の関係が生じる。

つまり、共鳴周波数f0直前の領域において、磁壁は振幅を広げた分、磁化に大きく貢献し、μiの立ち上がり(グラフ上の小山)をもたらすが、その直後に到達するf0ポイントで、磁壁の移動は交流磁界の変化にちょうど1/4周期遅れをとることになり、B/Hの値、すなわちμiは、急激に落ち込んでしまう(ここで制動因子が存在しなければ、μi=1となるまで落ち込むことになる)。

そして、このような"周期ズレ"によるμiの急激な落ち込み現象は、自然共鳴においても同様に引き起こされる。磁気モーメントの固有振動数ωに交流磁界の周波数fがきわどく迫ってくると、磁気モーメントの周期と交流磁界のそれとの間に少しづつズレ(位相差)が生じ始めるが(それと共に磁気モーメントの首振り運動も次第に大きく広がりμiは急激に高まる)、ついに共鳴周波数f0に達すると、そのズレはちょうど1/4周期の開きとなる。

まり、上のモデルに示すとおり、交流磁界方位と磁気モーメント方位の間にはちょうど90°の位相差が生じ、磁壁共鳴同様、このf0ポイントにおいて、磁気モーメントの回転半径は最大となる。しかし、位相が90°ズレているので磁気モーメントのせっかくの傾きも磁化には反映されず、μi 値は一気に1に落ち込んでしまうことになる。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

With ferrite by TDK

GRAIN29 狙われたTVゴースト

With ferrite by TDK

GRAIN30 ゆがむ結晶格子

電気と磁気の?館

No.32 電子レンジの仕組みとは?加熱の原理や基本構造を解説

PickUp Contents

PAGE TOP