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GRAIN24 磁壁を追い抜く交流磁界子

磁壁を追い抜く交流磁界子

さて、問題となっている交流磁界のつれないそぶりであるが、磁壁が一歩も先に進めなくなる事態とは、いったいいかなる光景を想像したらよいのだろうか。 磁壁が立ちすくむ状況を思い描くにあたって、あらかじめお断りしておかなければならないポイントがひとつある。それは、動けなくなることが深刻な問題として常に注視されているハイμフェライトは、一般に極めて微弱な信号系で使用される、という事情である。つまり、磁壁に課せられる移動幅はそれほど広くはなく、初磁化曲線における立ち上がりの部分、すなわち初透磁率領域にほぼ限定されると見てよい。その光景は、すでにご承知のとおりである。粒界層に発生する応力に両端を締めつけられた磁壁は、交流磁界の振幅変化に呼吸を合わせ、腹を突き出し、引っ込める腹式呼吸のような運動を繰り返す。そんな微弱な磁界変化の世界における、これは深刻な事態とご理解いただきたい。

でにお気づきのことと思うが、その運動は、上のモデル図に示すとおり、一本の弦をつまびいたときのそれと酷似している。この類似は、まさに微弱磁界ゆえの結果であるが、じつは、この類似点にこそ、問題の核心に迫る危うい機構が隠されている。

繰り返し見てきたように、磁壁の腹のせりだし具合は、交流磁界の振幅の大きさに依存する。だが、その移動速度は、振幅の大小とは関係なく、もっぱら交流磁界の周波数によって規定されるだろう。つまり、磁壁中の磁気モーメントは、交流磁界の方位転換の速度に合わせて首振り運動の方位を変え、くだんの球体モデルの中を上へ下へクルクルと回転する周期的な運動を展開することになる。

しかし、少し前の節で見たとおり、磁気モーメントが、ずれ角度θ分の方位転換を行うのに(すなわち、磁壁が単位胞1列分の移動を果たすのに)、約1億分の1〜1千万分の1秒という時間がかかるわけである。もちろん、微弱な磁界における初透磁率領域といえども、磁壁が移動する単位胞の数(列)は10や20にとどまらない。となると、磁壁の移動幅、すなわち交流磁界の振幅はそのままに、周波数が増してきたら、磁壁の動きはどうなるのか。

そのへんの関係をイメージ化したのが、下に並ぶ一連のモデル図である。弦の振動にたとえた初透磁率領域における磁壁の運動を、このモデル図では左右に振れる振り子に置き換えている。天井から吊るされたバイオレットカラーの球体が磁壁をあらわし、ゴム紐で磁壁と結ばれている青い玉が交流磁界である。

交流磁界の青い玉が左右に移動する、その幅が交流磁界の振幅、すなわち磁壁の移動幅を決める磁界の強さを示す。極性があるので左向きをマイナス、右をプラスとしてある。そこで、比較的低い周波数のf1段階では、交流磁界の変化に磁壁の腹の運動はよく追随している。両者の変化速度がこのようにピタリと合致しているうちは問題はない。しかし、交流磁界によって与えられた移動幅を磁壁が往復する速度にはおのずと限界がある。したがって、交流磁界の周波数が高まってくると(つまりこのモデルでは青い玉の動きが次第に早くなってくると)、磁壁の動きには当然ながら遅れが出てくるに違いない。となると、その差がどんどん広がっていったとしたら、ついにはf2のような事態、すなわち、腹の皮1枚ほども動かせない絶体絶命の窮地に追いつめられてしまいそうなことは容易に想像できる。そのあたりの細かな観察は次節で詳しく触れることにするが、呼吸すら困難なf2の窮地に追い込まれる直前に、じつはf0という、ある種、夢見心地の異境に磁壁は引き込まれることになる。

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