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GRAIN20 磁界の力と谷間の引力

磁界の力と谷間の引力

周りの事情など気にとめない交流磁界のつれない態度で、その交流磁界に背を押され一緒に走り出した磁壁が、ついには前にも後にも進めなくなる、というのは、いかにも理不尽ななりゆきである。救済可能ならば、すぐに打つ手を考えてやらねばならぬし、それが避け得ない事態なのだとしても、磁壁が身動きできなくなる理由については、しっかりと見届けておかねばなるまい。

そこで、交流磁界の作用により磁壁が移動するメカニズムの詳細について、少々突っ込んだ観察を試みてみたい。

まずは、外部磁界が引き起こすグレインの磁化プロセス、すなわち、磁気モーメント方位の変化様態を再確認しておきたい。下のモデルはGRAIN 11でご覧いただいた直流磁界による磁化プロセスの様子を示したものであるが、外部磁界はまず、自らの方位に最も近い安定方位を向いた磁気モーメントで構成される磁区領域を広げるように磁壁中の磁気モーメントを起こしにかかったわけである(1)。そして、動き始めた磁壁は、強まる外部磁界に背を押されるようにしてグレインの端まで追いやられ(2)、ついに、消失。グレインは、内在するすべての磁気モーメントが同じ安定方位を指し示す「単磁区」と化したのであった(3)。そして、なおも外部磁界のパワーを強めていくと、結晶磁気異方性エネルギーの谷間(磁化容易軸)に沈んでいるグレイン内のすべての磁気モーメントの方位が、強引に外部磁界の方位に回転させられることになる(4)。

しかし、無理矢理従わせた、といえば、磁壁を消し去るような外部磁界の強引な作用に最後まで反発した結晶磁気異方性エネルギーWkの力も相当なものである。すでに詳しく見てきたように、磁区を構成する単位胞群の磁気モーメントは、下のモデル図に示すとおり、結晶磁気異方性エネルギーWkの谷間、すなわち磁化容易軸方位に一糸乱れず引きつけられているわけである。しかも、この谷間の"引力"は、磁化プロセスの最終段階(上の磁化プロセスモデルの(3)に至るまで、外部磁界と張り合うだけのパワーを温存している。つまり、磁区内の磁気モーメントは、結晶磁気異方性エネルギーWkの谷間に深く、強力に固定されているため、生半可な外部磁界のパワーでは、その向きを変えさせる(Wkの谷間からひきずりだす)ことなどできない。一方、Wkの谷間からずれた方位を向く磁壁中の磁気モーメントは、エネルギー的に極めて不安定な状態に置かれているので外部磁界の思うがままに振り回された、というのがこれまでの考察であった。

そこで、これから考察対象とする交流磁界の作用を、より精密に観察するために、磁区内の磁気モーメントを特定の方位に引きつけ、かつ磁壁の安眠にも一役かっている結晶磁気異方性エネルギーWkの"谷間の引力"を、外部磁界と同じ有効な磁界とみなし、異方性磁界HAと呼ぶことにする。こうすることで、磁気モーメントを引き寄せるWkの"谷間の引力"、すなわちWkの"谷間の深さ"を示す結晶磁気異方性定数K1は、下のモデル図に示すとおり、磁化容易軸を指し示す1本の矢印(異方性磁界HA)の長さで示すことができ、交流磁界と同じ土俵の上で相撲をとれるようになる。

さて、そこでだが、グレインの集積は、単位胞のように規則正しいものではない。つまり、フェライト全体を大きく眺めてみると、個々のグレインが示す異方性磁界HAの方位は、全方位に向けてランダムに分散していると見るべきである。であるから、いま、フェライトのかたまりを単一の交流磁界の中に置いた場合、個々のグレインが示すHA方位と交叉する交流磁界の角度もまたさまざま、ということになる。そこで、次節では、その中でももっとも磁化効率の高いシンプルな関係を交流磁界と結ぶグレイン、すなわちHA方位と交流磁界のそれが平行となるグレインをひとつ抽出して、磁壁が動き出す瞬間の様子を観察してみたい。

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