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GRAIN19 磁壁をしごく交流磁界

磁壁をしごく交流磁界

名にし負う碩学といえども、寝入ってしまえばただの人であるが、額のシワの数などに凡人とは違うおもむきが感じられるというようなこともあるかもしれない。ところが、同じように眠れる才器でも、生まれながらにして熟眠の境地に遊ぶ高品質フェライトとなると、その寝顔を穴のあくほど眺めていても一向に中身のでき具合は伝わってこない。そこで、外部磁界Hの助けをかりて、いろいろとちょっかいを出してみる。さすがに寝起きの良さ(初透磁率)はすばらしい。早起きは三文の徳と言うが、磁化の徳(磁束密度)も底深い。だが詳しく観察するうちに、この才気の裏にはじつにさまざまなエネルギーの葛藤が渦まいていることが、次第に明らかになってきたのである。

ところで、高特性を阻害する各種因子を浮き彫りにするためには、目覚ましの刺激が複雑であっては困る。そこで、これまでの観察は、もっぱら単純実直な直流磁界に頼ってきたわけだが、その結果、磁性発現の源である磁壁の走りも単純なものとなり、ひたすらグレインの突端をめざして駆け抜けるばかりであった。

だが、フェライトを待ちうける実用のエレクトロニクス世界においては、ひたすらゴールを目指して猛進すれば誉められる、というようなお気楽な仕事場は、まずない。

決定的は変化は、ゴールであったはずのグレイン端が、折り返し点になることである。たとえば、下のモデル図に示すように、交流磁界のパワーに背を押され走り出した俊足ランナーは、グレインの端まできたところで一息つく間もなく首を後ろに引かれることになり、泣いても叫んでも目に見えない2つの折り返し点の間を右へ左へ引きずり回される運命をしょい込むことになる。

ゆくてには、小なりといえども完全には排除しきれなかった欠陥エネルギーの障壁が散在しているであろうし、直流磁界のときには苦にならなかった粒界のプレッシャーも少々きつくなってくる。だが、先進のテクノロジーで制御された交流磁界は、そんな事情などおかまいなしに冷徹な正負の波を精確に打ち出してくる。もちろんそのような変化に遅れをとるまいとして、磁壁は歯を食いしばりがんばるが、なにしろ舞台は高速化と高周波化を競い合う先端電子機器であるから、これはなかなかにキツイ成りゆきとなる。

磁壁がいくつめかのエネルギー障壁によろめいている間に、ついに、磁界に見切りを付けられる瞬間がやってくる。つまり、磁界の方がひと足先に正から負へ身をひるがえし、疾風のごとく遠ざかっていってしまう。当然ながらこの変化に磁束密度Bの変化が追いつかなくなり、それまでなんとか抑えていたあまたの損失因子が一気に顕在化する。上の表の3つのtanδは、その代表格であるが、こうした損失因子は、フェライト物性に深く根ざすやっかいな現象で、それも、ひとつやふたつではなく、さらにはそれらが相互にからみあって磁壁の筋肉疲労とエネルギー消耗を加速することになる。そして、交流磁界の周波数がさらに高まると、磁壁はついに単位胞の1個分も踏み出せない末期的な状況に追い込まれることになる。

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