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GRAIN18 がんばり屋のμを仕立てる

がんばり屋のμを仕立てる

単位胞配列の厳格な周期性は、酸素イオンと金属イオンの比率はもちろんのこと、電子雲の重なり具合やスピン磁気モーメントの向きにまで及んでいる。A、B両格子に分かれた金属イオンに宿る磁気モーメントが、互いに正反対の方位を指し示しながらも、結局のところ、単位胞の中心を貫く4本の安定軸のうちの特定の一本をなぞるように整列するのも、原子結合の不動の周期性の証しといえるわけであるが、さて、下のグラフの中に、少々奇異なふるまいを見せる金属イオンがいる。

3価の鉄(Fe3+)、2価のニッケル(Ni2+)、マンガン(Mn2+)、亜鉛(Zn2+)など、いわゆるフェライト結晶の母材となる代表的な金属イオンの磁気モーメントは、これまで見てきたように、下の単位胞モデルに示す8つの安定方位(対角線方位)のうち、正反対に背をそむけ合ういずれか2つの方位に腰を落ち着けることになる。

ところが、下のモデルに示すとおり、2価の鉄イオン(Fe2+)が格子点におさまると、単位胞の磁化容易軸(DETAIL-1)の方位は、まるでてのひらを返すように、それまで最も高いエネルギー障壁を築いていた単位胞の各面に垂直な方位を指し示すのである。つまり、結晶磁気異方性エネルギーの分布は結晶場に発生するエネルギーの相互関係(DETAIL-2)のありようで、正(面方位)と負(対角線方位)の2つの顔を使いわけることになる。

 

DETAIL-1

磁化容易軸:単位胞を取り囲む結晶磁気異方性エネルギーの障壁は、磁気モーメントの方位を谷間の安定位置に追いやる作用を示す。つまり、磁区に分裂した磁気モーメントは、単位胞の中心を貫通するエネルギーの谷間と谷間を結ぶ軸の両端に互いに背を向けあいながら落ち着くことになる。つまり、その方位に向けて外部磁界をかければ、最も効率のよい磁化(磁壁移動)が得られるので、その軸を指してこのような呼び方をする。

DETAIL-2

結晶場、すなわちイオン結合により緊密に結びついた酸素イオンと金属イオンの作り出す総合的なエネルギーの場の状態は、金属イオンと酸素イオンの電子雲の重なり具合により異なり、3d軌道に6個の電子が存在する2価の鉄イオンの場合は、単位胞の面に垂直な方位に最も低い谷間を形成する。

 

 

そして、この二つの方位、すなわち単位胞を取り巻く結晶磁気異方性エネルギーの2つのうねりは、位相のずれた2つの波が合成されてひとつのうねりを生じるのと同じように重ね合わされるはずで、ここで、ハタとひらめくことがある。

すなわち、組成の一部にマグネタイトなど、2価の鉄を含む素材を導入してやれば、磁壁の足にからみつく結晶磁気異方性エネルギーの障壁を大幅に抑制できるのではないか。うまいことに、正負いずれの値も、温度が上昇するにつれて急激に低下し、その率は両者の間で微妙なズレを生じる(DETAIL-3)。

DETAIL-3

K1の値が温度上昇に伴い低落するのは、最小のエネルギーで安定していたイオン間の緊密な相互エネルギー作用が、周囲から加えられる熱エネルギーの作用で乱れるためである。つまり、負の異方性を示すイオンの方がその乱れ方が早いため、K1の値が逆転するゼロポイントが出現するわけである。

そのために、上のグラフに示すとおり、正負の方位を重ねた結果(すなわち、結晶磁気異方性エネルギーの障壁の高さを意味する結晶磁気異方性定数K1の値=このグラフの縦軸)は、温度が上がるにつれ(Tcとあるのはキュリー温度の意)、ゼロのポイントを横切ることになる。

このことは、下のグラフAに示すように、2価の鉄イオンの量を巧妙に制御すれば、キュリー温度に至るはるか以前に現れるμiの極大ポイント(つまり、K1=0のポイントに照応して現れるグラフの中の↓ポイント)を任意の温度に設定できることを示唆している。実際の話、幅広い温度特性を発揮するハイμフェライト、たとえばその下に示すH5シリーズの実力も、異方性に関するそのようなひらめきなくしては生まれ得なかった。

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