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GRAIN17 薄く大きくμに迫る

薄く大きくμに迫る

外部磁界Hをエネルギー源とする短距離ランナー。μ特性の立て役者である磁壁をそんなふうに見立てると、「梅干し茶漬け一杯分のエネルギーで、いかほどのダッシュを見せてくれるのか」といった根性物語のような期待が、初透磁率μiの定義になる。もとよりエネルギーが貧弱なのだから、この期待に応えるには瞬発力がすべてである。となると、磁壁自身のシェイプアップとフィールド整備が肝要ということになる。そこで私達は、磁壁を身軽にするためには磁壁の幅を細くするより、むしろ太らせるほうがよいことを確かめ、磁壁のつまづきの元となる石ころ(不純物)を片づけ、小さな穴ぼこ(空孔)も埋める"親心"の大切さを再認識したのであった。

そこで、この節では、グレインそのものの大きさとグレインを取り巻く粒界層の厚みについて、モデル図を元に考えてみたい。

まずは、上のグラフだが、ハイμフェライトの初透磁率μiは、グレインの大きさに比例して上昇し、グレイン直径が2倍になると、初透磁率μiも概ね2倍にはねあがる。つまり、グレインを大きく育てることで飛躍的なハイμ化が狙えるわけだが、このような比例関係を成立させるには相応のハイμ制御が不可欠で、格子欠陥や空孔を取り込んだ不出来なフェライトではまったく異なる結果となる。

さて、次に注目するのは、粒界層の厚みであるが、このグラフ中に描いたグレインモデルには、これまでにない磁壁のパターンを付与した。移動中の磁壁が、まるで腹を突き出すように弓なりに変化している。これは初めて見る光景であるが、その理由を下の焼成プロセス図でご説明する。

前節でご覧いただいたグレイン生成プロセスに温度の変化様態を加えてみた。グレイン径の成長とともに進むグレイン相互の「均質化」も、μi を高める重要なファクターに数えあげられるが、ここで注目いただきたいのは粒界層を形成するために添加した不純物(初期段階aにおける水色の小さな球体)の挙動で、じつは、b〜eにかけてグレイン表面に溶融、分散したこの添加物が、eからfにかけての冷却過程の初期において、グレイン内部を上回る収縮率でガラス状に固化し、ヘアバンドのようにグレインを締めつける応力の源となる。

つまり、磁壁、とりわけその両端部は、動き出す前から、目に見えぬこの力でギリギリと締めつけられているわけで、駆け出そうにも供給されるエネルギー(外部磁界)が微弱なのでいかんともしがたく、せめてもとばかり、足ならぬ腹をグイと突き出してμをかせいだというわけなのである。

そこで、この粒界応力を新たな磁壁移動の制動因子として考慮すると、外部磁界が微弱な初透磁率領域における磁壁は、両端を固定された弦のモデルとして描くことができ(磁壁の両端部ほど磁気モーメントの回転に抑圧がかかると考えていただいてかまわない)、かような弓なりモデルとなるわけである。かくして、グレインの大きさ、すなわち磁壁の全長が2倍になれば、腹の突き出た磁化変化領域の体積は一気に8倍にふくれあがり、μi は約2倍も上昇することになる。 そして、このことは、下のモデル図に示すように、粒界層をなるべく薄く均質に制御することの重要性を示唆している。粒界成分の種類、添加比率はもとより、焼成プロセスの緻密かつ厳格な編成管理を実現することにより、粒界層に発生する応力を大幅に低減できれば、磁壁の駿足ぶりは、より一層華麗さを増すことになる。

つまり、良く制御されたフェライトの初透磁率領域における磁化は可逆的であり、外部磁界の印加を断ち切れば、磁壁はすみやかに元の安定位置に復帰する。そして、外部磁界の大きさが 初透磁率レベルを上回ると、磁壁は下の三次元モデルに示すような跳躍的な非可逆移動を果たすわけであるが、もちろん粒界の応力は磁化プロセスのあらゆる段階において作用するので、初透磁率はもちろん、俊敏なハイμ特性を得るためには、上のモデルに付記した「パイプ機能」を損なわないぎりぎりの添加物量を見極めながら、粒界の厚みをできる限り薄くかつ均質に仕立てる焼成プロセス制御の手腕が問われることになる。

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