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GRAIN16 空孔とハイμ制御

空孔とハイμ制御

理想的な生育環境を与えられたフェライト結晶の感受性は、自然児のそれのように鋭利かつ豊かなものとなるに違いない。だが、実際の成長プロセスには、フェライト本来の感受性をにぶらせるさまざまな欠陥因子が取り込まれる危険があり、成人したフェライトがいかなる性格を宿すかは、その管理次第ということになる。

たとえば、規則正しく繰り返されていた原子の配列方位が、途中からわずかに乱れても、その境界面には微小な磁極、すなわち磁壁移動を妨げるエネルギー障壁が形成される。しかし、すでにご覧いただいてきたように、このような格子レベルの欠陥をはるかに超え、フェライトの感受性に大きなダメージを与える脅威といえば、原子そのものが大量に欠落してしまった磁壁の落とし穴、空孔である。

人生最大の難題に直面してもマユひとつ動かさない剛胆な方は、人間社会にはいるが、この点、悩み多きフェライトは包み隠さず素直なもので、下の画像に示すように、細部を凝視するだけで、目を覆いたくなるような大量の虫食い穴をあらわにする。異常な数の空孔を取り込んだこうしたグレインは、雑踏の中でも平気で寝入っているノラ犬のごとく、強引かつ強大な磁界の刺激なくしては一向に目覚める様子もなく、感受性、すなわちμは極めて低い。

これだけ空孔が取り込まれれば、ほとんど壮観ですらあるが、磁壁にとってみれば泣き出したくなるような最悪の事態である。底なしの泥沼に足を取られたようなもので、当然μは大幅に低減してしまうことになる。良く制御されたハイμ材と比較するとこれらの欠陥グレインのサイズはかなり大きく、これは昇温過程を急ぎすぎた制御ミスを物語っている。すなわち、グレインの成長が早すぎたために、退出しかけた空孔がそのまま取り残された結果が、このあばた顔というわけである。

それでは、外部磁界に対する鋭利な感受性を宿すグレインをスクスクと育てるには、いかなる親心でのぞめばいいのだろうか。グレインの大きさや粒界の組成、厚みといった重要因子には順次触れるとして、ここではあらゆる制御の基本ともいうべき空孔抑制にかかわる"親心"について考えてみる。

じつは、フェライト結晶の感受性、μの命運は、下のフェライト焼成プロセスモデルに示す初期段階、すなわちaからcに至るまでの過程で、ほぼ決定的となる。

たとえば、組成制御を示すaの段階でも、原料粒子(大きな球体)の間に、過剰な添加物(水色の小さな球体)がまぎれ込んでいるだけで、ハイμ特性は望むべくもない。しかし、結論から先に述べてしまうと、生成される空孔の数と大きさは、bからc、d、eと進む焼成プロセスにおける温度変化と時間経過のかねあいに深く依存し、「ハイμ材」と胸を張れるフェライト結晶を育てるには、1秒のズレ、1℃の変化もおろそかにできない厳格な制御プログラムが不可欠となる。つまり、最適な組成比率、添加物量を制御できたとしても、この育成プロセスに"親心"が足りなければせっかくの素質も花開くことはない。

空孔の存在しないグレインを生成することは至難の技であるが、蓄積されたデータにもとづき入念に仕上げられた制御プログラムを焼成プロセスに加えることにより、グレイン生成過程で生まれた"結晶のすき間"を巧みに粒界層へ誘導することができる。

しかし、上の画像は、その好例ではない。"結晶のすき間"がグレイン表面へ移動する速度と、グレインの成長(肥大化)速度のかねあいを絶妙に管理することで、空孔の元となる"結晶のすき間"をグレイン内にとどめることなく退出させることができる。しかし、個々のグレインから押し出された"すき間"が、粒界層に集結し、これだけ巨大な空孔を形成すると、フェライト全体の結晶密度が低下することになり、そのことはそのまま単位体積あたりの磁気モーメント量の低下を意味する。つまり、個々のグレインのみならず、その総体(すなわち、フェライトコア)のハイμ特性を究めようとすれば、粒界層に集結したこれらの巨大空孔も徹底的に排除する微細構造制御のノウハウが不可欠となる。

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