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GRAIN14 μをあやつる磁壁の中身

μをあやつる磁壁の中身

その日の仕事の処理能力が、朝の目覚めの善し悪しで左右されるということはないのだろうが、我が身を振りかえってみると、思い当たる節がないわけでもない。ところで、このような関心が、人ならぬフェライトに向けられると、がぜん話はシリアスな方向に進むことになる。

忍び寄るかすかな外部磁界の気配で布団ならぬ磁壁をグイと押しのけ、磁束密度Bを一気に持ち上げる。その"寝起きのよさ"こそ、より俊敏かつ繊細な特性を要求される先端磁性部品になくてはならぬ、最も基本的な能力だからである。

そこで、私達は、初磁化曲線の原点0と、立ち上がり直後のカーブを結ぶ接線の傾きを求め、それを磁壁の"目覚め具合"を裁定するスケールとする。つまり、上の初磁化曲線モデルに引いたブルーの接線の傾き(すなわち微弱なHに対するBの比)のことを、初透磁率μiと呼び、Bが大きく立ち上がった先に現れる2つ目のカーブと原点0を結ぶ接線の傾きを、最大透磁率μmと呼んでいるが、こちらの方は、フェライトが磁気飽和に達するまでの総合的な反応の善し悪しを裁定するためのバロメーターといったところである。そして、一目すれば明らかなことであるが、aで示した初透磁率の高いフェライトは、総合的な実力においても一般によい成績をおさめる。

さて、その上で、目覚めのすこぶるよろしいハイμフェライトの条件を探ろうというわけであるが、冒頭で申し述べたとおり、これがどうして、とても一筋縄というわけにはいかないシリアスな展開となるのである。

グレイン中に点在する結晶欠陥が磁壁の足を引き止め、目覚めを悪くすることはすでに述べたが、下のグレイン断面モデルに示すとおり、初透磁率μiの大きさに深刻な影響を与える因子は、そのほかにもいろいろと控えている。

ざっと紹介すると、(1)は種々ある結晶欠陥のうちでもとりわけやっかいな空孔(DETAIL-1)で、(2)が磁壁の幅、それにグレイン自体の大きさ(3)も無視できず、さらにグレイン間にできる境界層(粒界=DETAIL-2)(4)も思いがけぬ横ヤリを入れる。そればかりではない。基本組成や、後に詳しく見ていただく磁歪エネルギーの大きさなども気の抜けない重大因子となる。 暴飲、暴食は言うに及ばず、日頃の不摂生が朝の目覚めを悪くするのは当然だが、ハイμを極めようとするフェライトにも、精緻かつ厳格なフォローアップを必要とする体質改善テーマが、かくもにぎやかに、もつれからんでいるのである。

DETAIL-1

フェライト結晶の最小ブロック、単位胞の1辺は約8オングストロームであるが、そのブロックが1個や2個という単位ではなく数百オングストロームに及ぶ広域にわたってごっそりと欠落した状態を空孔と呼ぶ。文字どおり結晶構造そのものに"穴"が開いた状態であるが、すでにご承知のとおり、磁区内の単位胞はそれぞれの磁気モーメントを磁化容易軸方位に整然と揃えているので、磁気モーメントの方位と直交する空孔の内壁には、分断された磁気モーメントの配列先端部と最後部、すなわち局部的な磁極が発生することになり、それがエネルギー障壁を構築して、磁壁の動きを著しく阻害するのである。

DETAIL-2

広義には、結晶中のある面を境界として結晶軸方向が異なる場合、その面を粒界(grain boundary)と呼び、結晶の面欠陥のひとつに数えられるが、フェライトにおける粒界層とは、グレインとグレインの間に意図的に生成されるガラス質の高低抗物質層を意味する。

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