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GRAIN13 磁壁の個性とフェライト磁性

磁壁の個性とフェライト磁性

磁気的なエネルギーを外部から与えられることにより、グレインをいくつかの磁区に分割している磁壁は、グレイン内に散在する欠陥エネルギーの障壁から障壁へ、跳躍的な移動をとげるわけであった。磁壁が一気に動けば、その瞬間に磁束密度Bも急激に上昇することになるので、フェライト全体ではなめらかなカーブを描く初磁化曲線も、個々のグレインに注目すれば、ゴツゴツとした階段状の形を示す(GRAIN 11「単一グレインにおける磁化モデル」)。しかも、お察しのとおり、フェライトを構成するグレインの出来具合は、厳密には、ひとつひとつ皆違うわけであるから、その様相もまた多種多様なものとなるに違いない。しかし、前節でもかるく触れたとおり、統計的な見地から眺めてみると、やはりそこには平均的な表情というものが存在する。

つまり、上のモデル図に示すとおり、微弱な磁界でスルスルと磁壁を移動する俊敏なaタイプと、その反対に、かなり強力な磁界を加えなければ腰をあげない鈍重なcタイプは、やはり少数派であり、大方のグレインは、適当な磁界で磁壁を動かし始め、その後いくつかの段階を経て飽和に達する平均的なbタイプである。もちろん、ここに示す3つのタイプ分類はきわめて概念的なもので、実際には各タイプのバリエーションがほとんど無数と言ってよいほど存在するわけだが、それらの磁化様態をすべて集積した結果として、流麗なS字ラインが観察されることになる。

外部磁界Hと磁束密度Bの関係を表すこのS字グラフ(初磁化曲線)はこれからも何かにつけ顔を出すことになるが、そこにおけるBの値が意味するところは、目覚め具合が微妙に異なるひとつひとつのグレインにおけるミクロな磁気モーメントの挙動をすべて総合した結果として観察されるフェライト総体の磁束密度であることを改めてご承知おきいただきたい。

さてここで、巻線を施したトロイダル状のコアをモデルにして、磁束密度Bの"中身"を少し詳しく見ておきたい。

そもそもフェライトがもたらす磁束密度Bとは、フェライト中の単位面積を貫通する磁力線(磁束)の濃密度を意味しているが、フェライトを持ち出さなくても、コイルに電流を通せば、その中空部を貫通する磁力線の輪が全方位に向けて広がることはご承知のとおりである。つまり、コイルを取り巻く空間の単位面積を貫通する磁力線の数、すなわちその空間の磁束密度は、コイルに発生する磁界Hの強さに比例して増加することになり、仮にその空間を真空と想定すれば、コイルに発生する磁界Hの強さと磁束密度Bの関係は、真空の透磁率μ0を比例定数とした式、B=μ0Hで表されることになる。つまり、透磁率μとは、磁束の貫通する媒質(この場合は真空)の磁気的な性質に関わる値であり、真空がフェライトになっても、この事情に変わりはない。

すでにご覧いただいたように、フェライトとは、それ自体がひとつの"磁石"であるスピン磁気モーメントの集積体である。磁界がちょっかいを出さない限り、それらの"磁石"はグレインごとにランダムな方位を向いて眠っている。ところが、ひとたび外部磁界にさらされたとたん、頭を磁界方位にむくりと起こしにかかるので、その方向にフェライト固有の磁束が誘起されることになる。したがって、その方位と直交するフェライト中の単位面積における磁束密度Bの値は、電流を印加されたコイルに発生した磁束密度μ0H(下のモデル図の■矢印)と、その関与により目覚めたフェライト固有の磁化I(同モデル図の■矢印)の和、すなわちμ0H+Iとなる。しかし、ソフトフェライトの領域においては、一般にμ0Hはきわめて微小なので、これから先の話も、フェライト固有の磁化Iと磁束密度Bは等価である、とみなしていただいてかまわない。

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