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GRAIN11 磁性きわだつ磁壁移動

磁性きわだつ磁壁移動

磁区形成の結果、グレインはエネルギー的にもっとも安定した状態に落ち着いたわけであるが、当然ながらこのことは、外に向けられていた磁束エネルギーが一瞬のうちにこじんまりとしたものに収束してしまうことを意味しているわけである。前節で見たように磁区の形成プロセスは、反平行な方位をめざす二つの陣営のそれぞれが、常に仲良く全体の磁性を分けあうように進行するのであるから、最終的に安定した状態において二つの陣営が互いに磁性を打ち消し合うという結果も、いわば必然である。だが、ここで、何か損をしたような気分におちこむ必要はまったくない。話は、むしろ逆なのである。

それというのも、グレインの磁性は失われたわけではなく、いわゆる磁気的な平衡状態に落ち着いたことになるからである。つまり、かすかな外部磁界の刺激が与えられても、グレインはそのバランスを微妙に崩すことになり、このことは、グレインの秘める磁性を微妙かつ思いのままに操作する手口を私たちに示唆してくれる。"仮眠状態"をむさぼるグレインだからこそ、こちらの都合のよいようにあしらえる、というわけである。

すでにご承知のとおり、頭を少しずつ傾けながら並ぶ磁壁中の磁気モーメントは、エネルギー的にきわめて不安定な状況に置かれている。そこで、ある方向に磁界Hを加えてやると、その力に一番近い方位を向く磁区に隣接し、頭を少しねじ曲げていた磁壁中の磁気モーメントが、なんとその頭を移動し、安定した隣の磁区の方位に揃えようとするのである。もちろん、外部磁界のそうした作用は、磁区のはずれと接する磁壁最端部の磁気モーメントばかりでなく、磁壁中のすべての磁気モーメントに等しく及ぶので、あたかもさざ波が伝わるように磁壁全体がスルスルと移動することになる(下のモデルは同じ単位胞列の時間的経過、すなわち外部磁界により磁壁が左から右へ移動する様子を示している)。つまり、この「磁壁の移動」という現象によって"仮眠状態"のグレインは目覚めることになる。

この目覚めをグレイン全体で眺めてみたのが下の一連のモデルである。外部磁界Hの方位に近似した方位を示す磁区(モデルでは左側の磁区)は、外部磁界Hの増大に伴い磁気モーメントを反対方向に向けた隣の磁区を浸食し始め(1〜2)、ついにすべての磁気モーメントがその磁区の勢力に飲み込まれることになり、グレインは単磁区と化す(3)。そして、さらに磁界を強めれば、グレインを構成するすべての単位胞の磁気モーメントが一斉にその向きを変え、外部磁界の方位にピタリと揃える芸当までこなしてみせる(4)。

本稿には各種の「磁界」が登場するので、外部から人為的に加えられた直流磁界をH、HDC(または一方位を指す青色の矢印)で示し、電磁波を含めた交流磁界をHの上に「〜」を付した記号(あるいは双頭の青色の矢印)で表わす。また、フェライト内部に発生する自発的な磁界については、異方性磁界HAや反磁界Hdといったようにそれぞれに固有の表記を用いることにする。

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