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GRAIN9 エネルギー最小化の駆け引き

エネルギー最小化の駆け引き

直径約5ミクロンほどに成長したフェライト結晶、グレインの中には、約2千億個もの単位胞が、角砂糖を積みあげたように整然と層をなして並んでいる。そこで、一糸乱れず平行に揃うと思われたそれら単位胞の磁気モーメントは、自らの集積の結果生じた強力な磁極エネルギーをなだめるために、まったく正反対に向き合ういくつかの磁区に分裂してしまったのであった。そこで、磁極エネルギーを低下させるために磁区が形成されるならば、磁気モーメントの方位は単位胞の1列ごとに反転してもよさそうであるが、現実のグレインは、多くても4〜6個の磁区にしか分割されない。これは、なぜなのか。

じつは、この現象の裏には、エネルギーの安定化をめぐる駆け引きが秘められているのである。

繰り返し触れてきたように、単位胞に宿る磁気モーメントの方向を平行に保持する力の源泉をたどっていけば、酸素イオンをはさんだA、B格子間に働く強力な超交換相互作用にいきつく。つまり、A、B2種の副格子間に展開される厳格な磁性の綱引きに勝ち残った磁気モーメントの集積が、そのまま単位胞の磁性として発現することになり、それがさらに蓄積されてグレインの強力な磁性を築くことになる。したがって、よほどの因子(たとえば温度の上昇であるとか)が関与しないかぎり、グレインを構成する個々の単位胞が示す磁気モーメントは、乱れることなく厳として平行を保つはずなのである。そもそもグレインに"磁極"が発生するという現象そのものが、まさにそうした磁性の異方性(磁気モーメントの頭を同じ方向に揃えようとする性質)の厳格さを示す証左であった。

ところが、前節でご覧いただいたとおり、磁極のエネルギーは、グレインの成長と共に次第にふくれあがっていく。しかし、個々の副格子間に局所的に働く超交換相互作用は、いくらグレインが成長しても増大することはない。そこで、磁極に発生する吸引と反発のエネルギーが、超交換相互作用を源泉とする異方性の拘束力に迫り、ついにそれをしのぐ大きさにふくれあがった瞬間、エネルギー的に最も安定した方位を指していた磁気モーメントは、多少のエネルギー増加もかえりみず、強大にふくれあがった磁極エネルギーを一気に減少させるべく、その頭をねじ曲げながら反転するわけである。

つまり、グレインの磁区形成は、自らが生み出したこの2つのエネルギー、すなわち磁区の両端に発生する磁極エネルギーと磁気モーメントが頭をねじりながら連なる(この様子については次節で詳しく見る)磁壁(domain wall)と呼ばれる部分に発生するエネルギーとの和が最小の値をとるように一気に進行し、そこで落ち着くことになる。

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