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GRAIN7 熱にあわてぬ実用磁性

熱にあわてぬ実用磁性

主流派B格子群にかみつく少数派A格子族の口うるさい論客たちを失脚させ、ヤル気皆無、ゼロ磁性の亜鉛イオンを代役として送り込めば、B格子のパワーがそっくりそのままフェライト磁性として発揮されるはずだったが……、なんと、B格子陣営にも、ヤル気なしの同調組や、あらぬ方向を指し示すふとどき者が次々と現れることになり、期待のハイ・パワーは見る影もなく消失してしまったのであった。

精神安定剤同様、亜鉛イオンも使いようというわけであるが、さて、それではいったいいかほどの亜鉛イオンを投入すれば、最も効率のよい結果がもたらされることになるのだろうか。だが、そのような微妙な制御領域に踏み込むには、A、B副格子間にはたらく超交換相互作用だけに注目しているわけにもいかなくなってくる。

というのも、これまで見てきたフェライト結晶の分子構造レベルにおける磁気モーメントのやりとりは、あくまで絶対零度という超低温下におけるフェライト物性の理論値を下敷きにしてきたからである。ここで、亜鉛イオンの"現実的"な有効最大配合比に迫るということになれば、温度ばかりが現実離れした世界にとどまっているわけにもいかなくなる。温度が実用レベルまで上昇してくれば、A、B副格子間に発生する磁気モーメントのやりとりにも、当然ながら大きな変化が現れる。

そこで、絶対零度下において厳格な反平行関係を保っていた両格子の磁気モーメントが、温度上昇とともにいかなる変化を示すかを、理論にもとづく計算値を元にモデル化したのが、下のイラストである。

この図に示すとおり、周囲の温度が実用レベルに近づくにつれ、各副格子の磁気モーメントは次第に落ち着きをなくし、行儀が悪くなってくる。これは、温度の上昇により、各金属イオンの原子核をとりまく電子の運動が活気をおびてくるからで、そうなると、息もつかずにニラミ合っていたA、B両格子の緊張関係にも春風が立ち、そのまま温度を上げていくと、ついに個々の電子に宿る磁気モーメントの向きはランダムな方位に分散してしまい、ある温度(DETAIL-1)でそれらの合成値はついにゼロと化してしまう (DETAIL-2)。

そこで、温度によるこのような磁性の擾乱作用を極力抑制するためにも、実用温度領域における効率的な亜鉛イオンの配合比率を慎重に割り出さなくてはならないわけだが、その一例を下の比較グラフに示した。 5つの組成例における磁気モーメント量-温度特性を比較したこのデータにおいては、20℃近傍において圧倒的な磁気モーメント量(ボーア磁子量)を堅持しているBの組成が最も有力ということになる。

DETAIL-1

A、B両格子による"磁性の綱引き"の結果生じる磁化を、自発磁化と呼ぶが、その値が熱擾乱作用により完全消滅してしまう臨界温度をキュリー温度(Curie temperature)と呼び、Tcで表す。

DETAIL-2

量子力学における不確定性原理によれば、A、B両格子に存在する金属イオンは、不動の一点を占めているのではなく、ある広がりをもった領域に確率的に存在するものとされる。すなわち、各金属イオンは絶対零度においてさえも、ここと指定できる位置に縛られているのではなく、わずかながら振動しているものと考えられ、これをゼロ点振動と呼び、振動している金属イオン(一般的には原子)の集合体に発生する総合的なエネルギーの大きさを示すパラメーターとして"温度"が定義される。そして、外部から熱を加えられることにより(環境温度の上昇も熱エネルギーを供給することと同義である)、各金属イオンの振動は激しさを増すことになり、金属イオンの位置、すなわちA、B格子の厳格な周期性も乱れることになる。このため、酸素イオンと金属イオンの電子雲の触れ合いにも衝突や散乱といった微妙な変化が生じ、その結果として、電子に固有のスピン磁気モーメントの方位も厳格な平行、反平行関係を維持できなくなると考えられるわけである。

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