地球環境・自然科学とテクノロジー|アースサイエンス & TDKテクノロジー

[第5回 フレキシブルな透明導電フィルム“フレクリア®”] 透明素材のエレクトロニクス

液晶画面にタッチパネルを採用したノートパソコン、カーナビ、デジタルカメラ、携帯電話などが登場している。その主要な部材となるのは透明導電膜だ。TDKでは記録メディアで蓄積した技術を駆使し、フレキシブルな透明導電フィルムを製品化した。

空の青、海の青はどこから生まれるのか?

宇宙から地球が青く見えるのは、海があるばかりでない。地球を覆う大気層が、うっすらと青色を帯びているからだ。地上からも空一面が青く見える。誰もが知る青空である。では、空気は無色透明なのに、なぜ空は青いのだろうか?これは古くから学者たちの頭を悩ませる問題だった。人間の視覚は、波長が約400〜800nmの光(可視光)をとらえ、青色の波長の色が目に入れば青色と感じる。たとえば、色ガラスは添加された金属イオンにより、それぞれ特有の波長の光を吸収する。青色のガラスにはコバルトイオンが添加されていて、青以外の波長の光が吸収され、透過した青色の光を人間の目はとらえている。無色透明な板ガラス(ソーダ石灰ガラス)も、その断面を透かすと緑色に見える。これは微量に含まれる鉄イオンによるものだ。  

青空の青色は光の吸収ではなく、光の散乱によって起きる現象だ。一定方向に進んできた光が、その方向をバラバラに変えることを光の散乱という。太陽光(可視光)がチリや雲粒などの比較的大きな微粒子に当たると、四方八方に一様に散乱する。雲が白く見えるのもこのためだ。すりガラスが白っぽいのも、表面の微細な凹凸で光の散乱が起きるからだ。水滴を落とすと凹凸が水に覆われ、その部分は透明になる。  空の青を生む散乱は、こうした通常の散乱現象とは異なるもので、発見者の名をとってレイリー散乱と呼ばれる。レイリーは空気分子のように光の波長より十分に小さい粒子においては、波長が短い光のほうがより強く散乱することを理論的に明らかにした。このため太陽光のうち、波長の短い青色光の散乱のほうが優勢になり、散乱光は空全体に広がって青空となるのだ。海の中がブルーの世界なのも、水分子のレイリー散乱による。白いバスタブに湯を張ると、うっすらと青っぽく見える。水道水が汚染しているわけでなく、これも水分子のレイリー散乱によるものだ。

透明であることと、導電性をもつことは両立しがたい

透明な素材は一般的に絶縁体である。宝石もガラスもアクリルも電気抵抗値が大きく、電流は流れにくい。透明で最も硬い物質であるダイヤモンドも絶縁体である。ダイヤモンドは炭素の結晶だが、同じく炭素の結晶であるグラファイトは導電性を示す。しかし、グラファイトは黒鉛・石墨という別名をもつように、ダイヤモンドとは似ても似つかぬ黒く不透明な物質だ。  

透明・不透明は導電性と関係している。導電体の代表である金属に透明なものはなく、メタリックな光沢をもつことが特長だ。この金属光沢は金属の結晶の中を動き回る自由電子による。金属は原子が整然と配列した金属結晶となっているが、原子を取り巻く電子の一部は、原子の束縛を受けずに、自由に動き回り、あたかも気体のような状態で存在する。これを電子雲という。入射した可視光は、金属表面の電子雲に跳ね返され、メタリックな光沢を示すのだ。また、入射した可視光の一部は結晶の中に潜り込み、ある波長が吸収されて、再び表面に出てくる。金、銀、銅など、金属がそれぞれ特有の色をもつのはこのためだ。  

不透明な金属も薄膜としてガラスにコーティングすると、一部の光を透過させる半透明のガラスとなる。これはハーフミラーなどに利用されている。透明でありながら導電性をもつため、太陽電池やプラズマテレビの透明電極などとして利用されている特異な物質もある。最もよく知られているのはITO(酸化インジウムスズ)だ。といっても、すべての波長の光に対して透明なわけではない。紫外線に対しては不透明なのだが、可視光は通過させるので、人間の目には透明に見えるのだ。また、適量のスズを添加させることで導電性をあわせもたせている。

独自のウェットコーティング技術で実現した透明導電フィルム

ITOの透明導電膜は、ATMやノートパソコン、カーナビ、デジタルカメラなどのタッチパネルとしても採用されている。これはITOの膜をガラスなどの基板に形成したものだ。  

一般にITO膜はスパッタリング法によって成膜される。スパッタリング法というのは、真空装置を用いた物理的成膜法の1種だ。成膜しようとする物質をターゲットとして、イオンを衝突させ、ターゲットから放出した物質粒子を基板表面に膜として堆積させる手法である。スパッタ(spatter)とは“パラパラと跳ねかける、振りかける”という意味だ。しかし、スパッタリング法では、樹脂基板を用いるのは難しく、通常はガラス基板が利用される。高温により樹脂基板が変形するおそれがあるからだ。  

TDKではオーディオ・ビデオテープなどの記録メディアで培ったウェットコーティング技術を駆使。プラスチックフィルムにITO膜を成膜する技術を確立し、“フレクリア®”というネーミングで製品化した。  

ウェットコーティング法は、真空装置や高温プロセスを必要としないことに大きなメリットがある。従来、この製造法では導電膜の抵抗値が高くなるのが難点だったが、TDKは製造プロセスの改良などにより、スパッタリング法に匹敵する低抵抗を実現した。また、膜を形成するITOの粒径がある大きさを超えると、光の散乱により透明度が下がってしまう。この問題も独自の粒径制御技術によって解決した。TDKの透明導電フィルム“フレクリア®”は、タッチパネルばかりでなく、ノートパソコンに貼り付けて地デジ電波を受信する透明フィルムアンテナなど、さまざまな応用に期待されている。

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