地球環境・自然科学とテクノロジー|アースサイエンス & TDKテクノロジー
[第7回 超高透磁率の磁性シート] 地磁気と大気のエレクトロニクスショー
電子部品の高集積化が進む回路基板では、さまざまなEMC対策部品が使われる。想定外の電磁ノイズの放射を防ぐために、きわめて効果的なのが磁性シート。TDKでは従来製品の特性を大幅に上回る超高透磁率の磁性シートを開発した。
オーロラの発生のしくみはネオンサインと同じ
オーロラは太陽活動と地磁気、そして大気の分子・原子が織り成す自然界のエレクトロニクスショーだ。地球は太陽から飛来する超高速の太陽風(電子と陽子からなるプラズマ流)に吹きさらされている。このため地球を取り巻く磁気圏は、太陽に向いた昼側は太陽風に押しつぶされ、逆に背面の夜側は長い尾を引いて、ほうき星(彗星)のような形になっている。詳しいメカニズムは未解明だが、この長い尾の中で生まれた荷電粒子がオーロラを発生させるとみられている。運動する荷電粒子には地球磁場との間でローレンツ力*が作用し、磁力線に沿って地球の磁極方面に高速で入射していく。その途中で超高層大気の分子・原子に衝突すると、分子・原子は高いエネルギー状態に励起する。エネルギーを与えられた分子・原子は、すぐに安定した元の状態に戻ろうとするので、このときエネルギーを光として放出する。これが地上からはオーロラとして観測されるのだ。カーテン状オーロラの上部の赤色や中間部の緑は酸素、下部の紫色は窒素によるものだ。
ネオンサインの発光の原理はオーロラと似ている。ネオン管は両端に電極をもつ真空管だ。電極に電圧を加えると持続的な真空放電が起きる。管内にごくネオンなどの薄い気体を封入しておくと、荷電粒子の衝突によりネオン原子が励起して発光する。蛍光管は電子の衝突によって励起された水銀原子が放出する紫外線が、ガラス内壁に塗布された蛍光物質を発光させる2段方式だ。プラズマテレビはR(赤)G(緑)B(青)の蛍光物質が塗布された微細な蛍光管(冷陰極管)を多数並べたものと考えればよい。
*電磁場中で運動する荷電粒子が受ける力のこと
大陸間の無線通信を可能にした地球の電離層
オーロラの出現は太陽活動と深い関係がある。太陽が活発なときに、地球の磁気圏も大きく変化し、色鮮やかなオーロラが出現することが多いのだ。地球の大気圏は層状構造をもっている。雲が発生して天気・気象に関係するのは高さ11kmあたりまでの対流圏で、その上はジェット気流が吹く成層圏となっている。さらにその上の高さ80〜500kmの範囲は熱圏と呼ばれる。
熱圏において希薄に存在する酸素分子や窒素分子は、太陽からの紫外線やX線によって電離してイオンになっている。熱圏においてとくに電子やイオンの密度が大きな領域は電離層という。
電離層は20世紀初頭の大陸間無線通信の実験をきっかけに発見された。電波は波長が短くなるにつれ光の性質に近づいて直進性が高まる。しかし、地球は丸いのに、なぜか大洋を隔てた大陸どうしで無線通信が実現した。この謎を説明するために、電気工学者のケネリーとヘヴィサイドは、地球の上空に電波を反射する層が存在すると推論した。これはのちに電離層と呼ばれるようになった。太陽面爆発などの異常変動が起きると、地球の磁気圏が影響を受けてオーロラは活発化する。また、このとき電離層も変化して短波通信障害などが起きる。これはデリンジャー現象と呼ばれる。地表に近い電離層(D層やE層下部)の電子密度が上昇して、電波の吸収が高まるためといわれる。
素材技術を駆使して開発した超高透磁率の磁性シート
無線通信の技術史はノイズとの闘いの歴史でもあった。これは高周波化・デジタル化が進んだ今日の通信機器においても変わりはない。多数の電子部品が高密度実装されている携帯電話の回路基板などにおいては、各種のノイズ対策部品をほどこしてもなお、想定外の放射ノイズに悩まされることは珍しくない。放射ノイズが機器外部に漏れたり、また機器内部で反射したりすると、他の回路基板に悪影響を及ぼす。こうした放射ノイズ対策として使用されるのが高透磁率の磁性粉をポリマー材料に混練した磁性シートだ。
透磁率とは磁力線の通しやすさを表す磁性材料の指標だ。高透磁率の磁性体は、スポンジがよく水を吸うように、磁力線をよく吸収する。そこで、放射ノイズを効率よく吸収させ、熱に変換して抑制するのが磁性シートの役割だ。ポリマーと複合化したフレキシブルなシートなので、自由な形状にカットして、回路基板の間に挿入したり、IC表面に貼り付けたりすることで効果的なノイズ対策が実現する。携帯電話ではパワーアンプモジュール表面、LCDとLCDコントローラを結ぶフレキシブル基板などに用いられ、絶大な効果を発揮している。
TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです