地球環境・自然科学とテクノロジー|アースサイエンス & TDKテクノロジー
[第6回 世界最小*・薄膜バンドパスフィルタ] 地球大の振動、ミクロ世界の共振
携帯電話をはじめとするモバイル機器は、小型・軽量化とともに高機能化・多機能化が進み、回路基板の省スペース化やバッテリ消費電力の低減が強く求められている。こうしたニーズに応えて開発したのがTDKの薄膜バンドパスフィルタだ。
ヒマラヤ山脈を形成した地球のエネルギー
約5,000万年前、地球のプレート運動によってインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突した。このエネルギーにより海底は押し上げられ、巨大な山脈が形成された。それが“世界の屋根”などとも呼ばれるヒマラヤ山脈だ。スケールは小さいものの、日本列島でも同じような例がある。伊豆半島はかつて南太平洋上にあった地殻のかけら(地塊)が、プレート運動によって北上し、本州と合体して形成されたものだ。この衝突で盛り上がって生まれたのが丹沢山塊である。また、そのエネルギーが地下の岩石を溶かしてマグマとなり、やがて地上に噴火して富士山が誕生した。
伊豆半島を乗せたフィリピン海プレートは、本州を乗せたユーラシアプレートの下に潜りこみ、ユーラシアプレートは摩擦によって地球内部に引きずり込まれている。しかし、ときどき岩盤の弾性力によりバネのように元に戻る。このとき巨大なエネルギーが解放され大地震となる。近い将来、発生すると予想される東海地震はこのプレート運動による。 1707年の宝永大地震(M8.6)では、富士山中腹で噴火が起き、宝永山が生まれた。
月には火山が存在しないが、頻繁に地震が観測される。これはアポロ計画の月面探査における地震計の設置で明らかにされた。月の地震にはいくつかの原因があるが、地球や太陽の引力も関係しているという。月や太陽の引力によって地球で潮汐変化(満潮・干潮)が起きるように、地球や太陽の引力によって月そのものが変形し、深発性の地震を発生させると考えられている。同様に月と太陽の引力は、地球における地震発生の引き金の1つになっているという説もある。
「柔よく剛を制する」制震・免震技術
巨大地震が発生すると、地球全体がまるでプリンか何かのように、数10分程度の周期で、数日間にわたり変形を繰り返すことがある。これを地球振動といい、地球の内部構造を知る手がかりにもなっている。
1923年の関東大震災においては、下町よりも山の手で土蔵の倒壊が多かった。地震の振動周期が建物の固有振動数と一致すると、振動は激しくなって共振現象を起こす。山の手の地盤は比較的硬いので振動周期が短い地震波が卓越し、それが頑丈な造りの土蔵の固有振動数と一致して倒壊させたのだ。
地震国日本で超高層ビルが建設できるようになったのは、地震波の主要振動数とビルの固有振動数が一致しないように考慮されているからだ。超高層ビルの設計にあたっては、幾多の大地震にも倒壊をまぬがれてきた五重塔の構造も参考にされた。地震の振動に対して、頑丈な“剛構造”で抗するのではなく、ゆらゆらと揺れ動く“柔構造”により地震エネルギーを分散させる方式だ。しかし、超高層ビルが船のローリングのように長周期で揺れると、デスクやロッカーなどの備品がフロアを滑るように動き回るため、倒壊とは別の危険性も指摘されている。そこで、近年はビル本体と基礎の間にダンパーを入れるなど、地震の揺れをビル本体に伝えない制震・免震機構も取り入れられるようになった。
HDDヘッド技術を応用した世界最小*・薄膜バンドパスフィルタ
共振というのは地震にかぎらず、音響の共鳴や電磁気的共振など、自然界において根本的な現象だ。共振にはエネルギーを取り込む機能がある。無線通信において、空中に放射された電波をとらえる同調回路にも、共振現象が利用されている。最も基本的なのはインダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたLC同調回路だ。インダクタは高周波の交流ほど流しにくく、コンデンサは逆に高周波の交流ほど流しやすい性質をもつ。そこで、インダクタとコンデンサを組み合わせると、ある周波数の信号に共振する同調回路ができる。
ある帯域の周波数を通過させるバンドパスフィルタも、インダクタとコンデンサの性質をうまく利用したものだ。携帯電話の小型・軽量化はとどまるところを知らず、回路基板は多数のチップ部品がすきまがないほど高密度実装されている。また、高機能化・多機能化とともに、バッテリの消費電力は増大傾向にあり、バンドパスフィルタには低損失伝送で、周波数特性にすぐれたものが求められている。こうした市場ニーズに応え、HDDヘッドで培った薄膜プロセス技術により新開発したのが、ブルートゥース/無線LAN用薄膜バンドパスフィルタだ。誘電体の薄膜を導体膜ではさんでコンデンサ部を形成するととともに、インダクタ部も薄膜形成して共振器を構成。これを多段配列してバンドパスフィルタとして機能させている。従来工法(LTCC)の限界をブレイクスルーして、縦1.0x横0.5x厚さ0.3mmという世界最小*サイズを実現した。
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